神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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夜のラーメンは、罪の味 ~家出少女と共に、とんこつしょうゆラーメンと替え〇〇~

エプロン姿の令嬢

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「第一志望は郵便局でした。でも、ダメダメで」

 ゴロンさんが頭をかきます。

「獣人は昔、差別されていたと聞きます。もしかして、それと関係が?」
「ないですよー。まあ、今でも多少の偏見はありますけどね。つか、郵便局って公務員でしょ? 頭が悪かったんで資格を取れなかったんです」

 単なる勉強不足だと、ゴロンさんは苦笑いしました。 

「冒険者ギルドに、誘われたこともあるんですよ。でもビビリなんで、戦闘が苦手だったんですよ。斥候スカウトとか、絶対ムリじゃないですかぁ」

 それは以前、出前ニャンの護身術指導をやったのでわかります。
 たしかに、ゴロンさんは飲み込みも悪かったですね。

「わかるっす。斥候業務は、先走ってケガすることが仕事ですからね。最悪のパーティだと、死ぬことも仕事に含まれますから」

 話を聞いていたハシオさんが、会話に便乗します。

「でしょ? で、スリとか悪いことで稼ぐのはイヤだったんで、途方に暮れていたんです。たまたま出前ニャンのチラシを見かけて、『これしかない!』って思いました」

 出前ニャンは、創業者が猫型獣人族です。なので、獣人に対する偏見がないことで有名なんですよね。

「フィーリングってやつですね」
「ありがとうございます」

 出前用のラーメンができます。
 奥さんがから揚げの火を止めて、ラーメンをゴロンさんに渡そうとしました。
 
 そのときです。おもむろに、ステフさんが席を立ちました。

「手伝います」

 ステフさんが、ラーメンをゴロンさんに渡します。

「ありがとうねえ」
「いいえ。お仕事に戻ってください」
「はいねー」

 奥さんが、再びから揚げに集中しました。

 ゴロンさんは「行ってきます」といいかけて、骨付きのから揚げが一本入っていることに気づきます。
 いわゆる、チューリップというやつですね。

「一本多いんですが?」
「あんたの夕飯だよ。食べてないだろ?」

 奥さんが言うと、ゴロンさんの顔がほころびました。

「いつもありがとう。じゃあ行ってきます!」

 おかもちをもって、ゴロンさんは元気に走っていきます。

 他のお客さんも、帰っていきました。

 直後、ものすごい団体のお客さんが。
 騎士団の方々です。飲んでいるのか、みんな顔が赤いですね。

「どうも副団長。ミュラーさんと始めてるんですか?」

 騎士団の一人が、ハシオさんに話しかけます。

「そうっす。もう食べ終わったので、帰るところですが」
「ウマいって聞いていましたが、ウワサはホントみたいですね?」

 空になったラーメン鉢を見て、騎士さんも納得しました。 

 それにしても大勢ですね。大将ご夫婦だけで、さばききれるかどうか。

 意を決したように、ステフさんが店主に声をかけます。


「エプロン貸してください!」


 ステフさんが、メニューメモを手にエプロンを巻き始めました。騎士団のみなさんに、注文をとっていきます。

「チャーハン追加! ああ、手が空いてないね。ちょっとまってて!」

 たまに自分でも鍋を振って、作れそうなものはドンドンと作っていきました。

 もともと接客業志望だったので、手際がいいです。

 鍋を操るステフさんを見て、ご夫婦も安心して任せていました。味付けのアドバイスだけします。

「はいチャーハンお待ち」

 ステフさんのチャーハンができあがりました。
 手元を観察しただけで、ある程度できちゃうんですね。
 わたしたちが話をしている間、ずっと大将の動きを見ていたのでしょう。

「お姉ちゃんかわいいね。酌してくれねえか?」
「酌だぁ? 自分でつぎなよお兄さん! シューマイはおまけしといてあげる!」

 軽口には、軽口で返しました。手慣れていますね。

「やれやれ、お見事なお客さんさばきっすね」
「一時は、どうなるかと思ったが」

 ミュラーさんたちも、舌を巻いています。

「でもね、せっかく看板娘もできたってのに」
「大将、どうかなさいましたか?」
「いやね。この店、もうすぐ閉めるんですよ」
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