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夜のラーメンは、罪の味 ~家出少女と共に、とんこつしょうゆラーメンと替え〇〇~

家出少女

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 全員で、ラーメン屋さんに入りました。

 提灯がかかっていて、いかにもなお店ですね。

 中に入ると、これまたいかにもな赤テーブルです。大将夫婦で切り盛りしているようですね。

「ラーメンセット、四セットっす」
「あいよ」


 ハシオさんがオーダーすると、大将が乾麺を茹で始めました。
 ただし、他のお客さんの分です。

「ラーメンの種類を言わなくて、いいんですね?」
「はい。ここにはしょうゆラーメンしかないっすから」

 それが、ハシオさんがこの店を気に入った理由だそうです。すぐに注文が来るから。最強のファストフードだと。

「話してください。どうして川に?」

 注文の品を待つ間、少女から情報を聞き出そうとしました。

 少女は、黙り込んだままです。何を話しかけても。

「大丈夫っす。彼女は教会のシスターっす。相談に乗ってくれるっすよ」

 ハシオさんから指摘されて、ようやく少女はわたしがシスターだと認識したようでした。外も暗かったですからね。

「私、家出したの」

 少女は、ステフと名乗りました。

 ステフさんの服装を見ます。地味ですが、庶民ぽさはありません。生地が上等でした。

「どこかの貴族様ですか?」
「はい。男爵令嬢なんですが、進路でケンカをしてしまって」

 花嫁修業から逃げ出したくて、ステフさんは家を出たそうです。

 とある貴族様のお家柄で、ゆくゆくはどこかへ嫁ぐ予定でした。

「でも、学校の文化祭でやった喫茶店の仕事が、たいへん面白く。バイトをしたいと言ったのですが、反対されました」

 そうでしょうね。
 お金に困っていないのに、バイトなどは難しいでしょう。

 仕事が楽しいという理由はわかります。
 なんとか彼女の自主性を尊重したいですが。

 きっかけが学校の文化祭というのも、ご両親は気になったのかも知れません。

「ムリなのは、わかっています。でも、仕事はやってみたい。私は自分で、嫁に向いていないってわかっています! 私は三姉妹の末っ子で、あまり期待されていません。若いだけで」

 自立して、貴族の力に頼らず一人前になりたかったといいます。

「けれど、その道すら奪われて」

 縁談を進めている最中なのに、勝手に進路を決めるな、と言われたそうで。

「自分に自由がないので、人生をリセットしようとしたと」

 本気で死ぬつもりは、なかったでしょう。

 思いつめた人は、あんな穏やかな川で死のうとは考えません。もっと確実な方法を取ります。

 わたしの浅い人生経験では、立派な回答は得られそうにないですね。かといって、お説教なんて反発するだけです。

 何かを言いたそうでしたが、ハシオさんも空気を読んでいました。お水ばかり何杯も飲んでいます。

 ハシオさんには的確にアドバイスをするミュラーさんも、目を閉じたまま話に聞き入っていました。自分の出る幕ではないと言わんばかりに。

「本当にごめんなさい。迷惑をかけてしまって」
「別に構いません。思い直してくれるだけで」
「でも、どうやって生きていけばいいか……」

 ステフさんが、また黙り込んでしまいました。

 こうなると、わたしもどう接していいかわかりません。

「わたしも、一応貴族の出なんですよ。クレイマー家といえばわかりますかね?」
「はい。この大陸にいらっしゃる、辺境伯様ですよね?」

 そこそこの土地もある、実力者です。

「わたしは嫁の貰い手をアテにできないからと、この地にある教会へ出されたんです」
「へえ」

 もっとおしとやかになりなさいと言われました。今ではどうでしょうね? 色気より食い気のほうが勝っています。

「いいご両親ですね。自由を重んじてらして。わたしの家なんて、格式ばかり押し付けてきて」
「そう、ですねぇ」

 余計に、落ち込ませてしまいましたかねぇ。

 ヘタにアドバイスをするより、雑談形式にしたのはよかったのですが。

「ミュラーさんは、どうして冒険者に?」

 そういえば、ミュラーさんの身の上って聞いたことがありません。
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