神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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海鮮丼は、罪の味 ~漁港の海鮮丼とオジサンの……~

オジサンは、罪の味……

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 ああ、オジサン。罪深うまいですね。

 肌が白くて、プリプリしています。

「すごい。オジサンって、こんな味がするんですね」

 とあるお店で、わたしはすっかりオジサンに翻弄されていました。

「気に入ってもらえた?」
「はい。とっても味が濃くて、外見からは想像がつきませんでした」
「でしょ? いい感じに濃厚なんですよ」
「おっしゃるとおりですねぇ。大好きになっちゃいました」
「それはありがたいね。出した甲斐がありましたよ」

 いやあ。変わった見た目なのに、しっかりとした味なんです。

「見た目のせいで、わかんないんだよ。オジサンってさ、意外とうまいんだよ」
「はい。外見で判断してはいけないのですね」

 最初こそ抵抗がありました。しかし、すっかりオジサンのトリコになってしまっています。もう戻れなくなっちゃいそうですね。

「うまいでしょ? 顔を見たら女性には抵抗されちゃうんだけどね、オレは魚じゃオジサンが最強だと思ってるんだよ」

「ですよね。これが高級魚だとは、想像つきませんよね」

『オジサンの炙り』をいただきながら、説明を受けます。

「お嬢さん、から揚げもどうぞ」

 皿に乗ったオジサンのから揚げが、カウンターに置かれます。

「レモンは?」
「お好きにどうぞ。なんなら、おしょう油も」

 オジサン……を提供してくださった店主が、オジサンをアピールしてきました。

「では、遠慮なくいただきます。はあ~。罪深うまいですぅ!」

 サクサクでプリプリです。レモンだけでも、おしょう油をかけても素晴らしい!

「じゃあ、楽しんでて。その間に、海鮮丼を用意しますんで」
「お願いします」
 

 どうしてわたしが、オジサンの味を知ってしまったのか?
 その経緯をお話しましょう……。
 

         ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 ただいま、わたしは炊き出し中です。日雇労働に向かうホームレスさんたちを相手に、朝食を提供するのです。

 教会近くの広場では、大勢の労働者さんが集まっていました。

「今日の献立は、アラ汁とおにぎりでーす」

 お魚のアラ、食べない部分からお出しを取った、お吸い物です。澄んだオツユといっても、味は濃いです。

「一列に並んでください。横入りはいけませんよ。ゴハンは逃げませんからね」

 日雇い労働者さんたちを相手に、わたしは声掛けをします。

「あ~。たまんねえ! なんだい、この味は!」
「最高だな!」

 労働者さんにも、大人気です。

 そうでしょう、そうでしょう。
 港でいただいたアラを、一晩中じっくりと煮込んだのですから。
 当番のシスターは、朝食にアラ汁を食べて非番となってもらいました。
 徹夜はいけませんからね。


「ところで知っているか? 労働者風の少女のウワサ」
「女の子がなんだってんだ」
「それがな、『出前ニャン』の配達員を助けたってんだよ」

 労働者さんの話を聞きながら、わたしは手が止まってしまいました。

「オレもだ! メイドカフェのドワーフ共を、関節技でノシちまったって。顔も潰されたって聞いたぜ」

 なんだか、ウワサに尾ひれがついていますね。たしかに、彼らのメンツは潰したでしょう。けれど、物理的に顔を破壊はしていませんっ。

「どえれえ強え女の子だっていうじゃねえか」
「マジかよ。おっかねえな」
「俺たちも、下手にオナゴに手を出すもんじゃねえな」

 どうやら、わたしはちょっとした都市伝説になっているようです。

「取り合ったりしないでくださいね。ちゃんと人数分ありますから」

 シスター・エマの声掛けで、わたしは我に返ります。

「どうしたの、シスター・クリス? 朝が早すぎて疲れてる?」
「なんでもありません」

 ごまかしのために、アクビを一つ。

「ふざけんじゃねえぞ!」

 大柄の労働者さんが、シスターの一人にかみついています。

「こんな残飯みたいなものが食えるか!」

 その気性の荒い浮浪者さんが、お椀を投げ捨ててしまいました。
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