上 下
20 / 281
初めての、罪の味 ~ポテチ一袋~

シスター・ローラの正体

しおりを挟む
 シスター・ローラは純粋なシスターではなく、ハーレム出身のステージ歌手だったそうです。
 かつてこの大陸を総べていた魔王の復活に、深く関わっていたとのこと。
 魔王の攻略法を知ってしまい、魔族に狙われていたのでした。
 困り果てた彼女は王国の騎士団を頼り、我が協会を紹介してかくまっていたのだとか。

 しかし、平穏な日々は長くは続きませんでした。

 とうとう復活した魔王に、先生の所在がバレてしまいます。

 わたしのせいでした。功績を焦ったわたしがスタンドプレーをしたから。

 中級魔族がチクったのかと思ったら、取り巻きの方でした。

 魔王は教会にまでやってきて、「ローラを差し出せ」と脅してきました。

 わたしたちは、そのときどうしたか。

 戦いました。

 シスター総出で、相手を袋叩きにしたのです。

 相手が泣くまで。泣いて詫びるまで。

 そりゃあ、魔王は怖かったです。一度肉弾戦を挑んでみましたが、拳が相手の身体をすり抜けてしまいました。逆に、魔王の攻撃は我々に届くという理不尽さ。
 しかも、桁違いの強さだったのです。

 が、そのときはみんながシスター・ローラの弟子でした。ローラ先生を守るため、彼女を狙う魔族をボコボコにしたのです。


 ええ、歌で。


 シスターローラは、ただの指導員ではありませんでした。この魔族を倒せる歌を、教えていたのです。

 しかし、この歌を覚えるには条件がありました。

 歌唱者が、処女であること。

 わたしを鍛えたことだって、彼女の計画の一つでした。ミッションで鉢合わせた中級魔族に、わたしの純血を奪わせるわけにはいかなかったからでしょう。

 彼女だって、死ぬのは怖かったということ。ちゃんと予防線は張っていたのです。

 最終的に、我が教会で魔王を消滅させることが目的だったのでしょう。

 我々シスターは、彼女に一杯食わされたと言っていいでしょう。

 わたしを含めたシスターは総出で、全霊を込めて歌います。魔王撃滅のために。手をつなぎ合い、心の限り。

 歌が魔王の弱点だったなんて、思いもしませんでした。しかし、浄化作用があると聞かされて、可能性にかけたのです。
 どうせ、肉弾戦では手も足も出ませんからね。人間の常識が通用しない相手ですし。

 わたしたちシスターの力で、デーモンの王は浄化されました。
 一人の犠牲者も出すことなく、我々は最強の悪魔に勝利したのです。
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「以上が、わたしが強くなった経緯です」
「その後、シスター・ローラはどうなさったので?」

 わたしは、ゴロンさんからの質問に首を振ります。

「すべてが終わった後、責任をとって彼女はこの教会を去りました。今は、どこにいるのかもわかりません」

 どこか別の大陸へ移ったか。魔物に殺されたという噂も聞きました。

 ゴロンさんたちはショックを受けていました。

「ですが、わたしは信じません。あの人が魔王ごときに負けるイメージなんて、湧いてきませんよ」
「そうですね。シスター・クリスの師匠ですもんね」

 わたしは、苦笑いを浮かべます。

「強くなるのはいいですが、どうなりたいかの方が大事ですよ。みなさんも、目的を持って行動しましょう。でないと、当時のわたしみたいに迷走することになりますから」
「はい!」

 こうして、トレーニングは終了となりました。


 学生時代によく訪れていた港の石段に、わたしは腰を掛けます。

 ローラ先生は、今ごろどうしているのでしょうね?

「一つどうだい?」

 誰かがわたしに、ポテチ一袋を差し出してくれました。

 顔を上げて、わたしは手の主と向き合います。

 そこにいたのは、ダークエルフさんでした。
 銀髪片目を隠し、はちきれんばかりの巨乳ではありますが、ほっそりとした女性です。



「まあ、ローラ先生ではありませんか」


 しかし、声は同じです。わたしは彼女の正体を知っていました。

 この人こそ、シスターローラです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...