神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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「第一部 罪深さを求めて」 ダブル炭水化物は、罪の味 ~廃墟食堂でスケルトンの作るチャーハン~

罪人の料理と、ダブルスタンダート

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 どうやら、このスケルトンさんは、わたしが僧侶職だと気づいていらっしゃったようです。

「なぜ、わたしがシスターだとお気づきに?」

「立ち居振る舞い、ですかねぇ。それになにより、漂う魔力でわかりやした……」

 皿を布タオルで拭きながら、オヤジさんはこちらに目を向けました。

 器用にハチマキや布製のマスクで顔を隠していますが、やはりスケルトンに間違いありません。

「ここにお店を開いて、長いんですか?」

「かれこれ、二〇年になりますかね」

 開店当時は普通の人間だったが、病気で死んでしまいました。

「その後、食事係として、ネクロマンサーによって蘇らされました」

 厨房も店舗ごと乗っ取られ、一時期ココは死霊術の研究所として機能していたとか。

「そのネクロマンサーさんは?」
「実験中の事故で、死にやした。主従が交代して、今そいつにレジ打ちさせておりやす」

 本当ですね。レジスターの前でマネキンのようにガイコツが突っ立っています。
 頭がいいから、お会計をすぐ覚えてしまったらしいですね。

「お嬢さん、あっしは、成仏したほうがいいんですかねぇ?」
 
 テーブルを拭きながら、店主のスケルトンさんは寂しそうな声で語ります。

「あっしとしては、もうちっと働きてえ。労働者や冒険者に、うまいもん腹いっぱい食わせてさ。でも、あんたみたいな聖職者に見つかっちまった」

 わたしは、プリースト業です。不浄の存在を見過ごすわけにはいきません。

「あっしはやっぱ、元の世界に帰らないといけないんですかねぇ?」

 その声は、わずかに涙声でした。

 わたしはレンゲを置きます。

「あなたが罪人だというのなら、あなたの料理を食べたわたしは、さらなる罪人なのでしょうね」
「お嬢さん!?」

 本来、わたしはここにいてはいけないのです。
 貞淑を守る必要ある者です。
 質素な生活を重んじ、他のシスター同様、つましい生き方をしなければなりません。

 ダブル炭水化物で優勝するなど、もってのほかでしょう。

「あなたはここに現れてから、罪を犯したことはありませんか?」

 スケルトンさんは、首を振ります。

「わたしだって、罪人です。人というのは、生きているだけで罪を犯します。誰だって大なり小なり、罪を重ねているはず。けれど、それをいちいちつっついて、どうなるっていうんでしょう?」

 人においしいものを提供したいだけなのに、存在自体が悪だなんてどうして言えるでしょう?
 せいぜい「営業してはいけない場所で商売」する程度です。
 許可さえあればいい。

「だって、許可は取ってあるのでしょう?」
「もちろんでさぁ」

「だったら、いいじゃありませんか」
 
 彼は「商売をしてもいい」からここにいるのです。
「この世界にいてはならない」わけじゃないのですから。

「こんなこと、罪人のわたしが言っても、ダブルスタンダードですね? ならば、ここはいっそお土産で手を打ちませんか?」
「へい。ご注文は?」
「揚げ団子を、一袋ほど」

 シスターの子たちに、分けて差し上げましょう。

「へ、へい! おまち!」

 気がつけば、あっという間に料理はなくなっていました。

 最後に、お水で一気にノドを洗い流します。
 幸せな時間でした。

「ごちそうさまでした」

 今日も、罪を堪能しました。路地裏ゴハン、また参ります。




 帰宅後、改めて懺悔室で、迷い人の声に耳を傾けます。
 本来ならば、わたしが懺悔しないといけないんですけどね。



 夜になって、わたしは月に祈りを捧げました。

「神よ、お許しください。わたしはまた、罪を犯してしまいました」

 神に祈りを捧げて、今日も私はベッドにつくのです。 




 数日後、待ちに待った日がやってきました。何を食べてもいい日です。

「こんちは! 『出前ニャン』でーす!」

 シスターたちが色めき立ちます。


 ただひとり、わたしを除いて。


「あっ!」

 ゴロンさんが、わたしに気づきました。

「しーっ!」

 わたしは、人差し指を立てました。

「二人だけの秘密ですよ」

 ゴロンさんに、わたしは微笑んだのでした。
 


(チャーハン編 完)
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