5 / 282
「第一部 罪深さを求めて」 ダブル炭水化物は、罪の味 ~廃墟食堂でスケルトンの作るチャーハン~
罪人の料理と、ダブルスタンダート
しおりを挟む
どうやら、このスケルトンさんは、わたしが僧侶職だと気づいていらっしゃったようです。
「なぜ、わたしがシスターだとお気づきに?」
「立ち居振る舞い、ですかねぇ。それになにより、漂う魔力でわかりやした……」
皿を布タオルで拭きながら、オヤジさんはこちらに目を向けました。
器用にハチマキや布製のマスクで顔を隠していますが、やはりスケルトンに間違いありません。
「ここにお店を開いて、長いんですか?」
「かれこれ、二〇年になりますかね」
開店当時は普通の人間だったが、病気で死んでしまいました。
「その後、食事係として、ネクロマンサーによって蘇らされました」
厨房も店舗ごと乗っ取られ、一時期ココは死霊術の研究所として機能していたとか。
「そのネクロマンサーさんは?」
「実験中の事故で、死にやした。主従が交代して、今そいつにレジ打ちさせておりやす」
本当ですね。レジスターの前でマネキンのようにガイコツが突っ立っています。
頭がいいから、お会計をすぐ覚えてしまったらしいですね。
「お嬢さん、あっしは、成仏したほうがいいんですかねぇ?」
テーブルを拭きながら、店主のスケルトンさんは寂しそうな声で語ります。
「あっしとしては、もうちっと働きてえ。労働者や冒険者に、うまいもん腹いっぱい食わせてさ。でも、あんたみたいな聖職者に見つかっちまった」
わたしは、プリースト業です。不浄の存在を見過ごすわけにはいきません。
「あっしはやっぱ、元の世界に帰らないといけないんですかねぇ?」
その声は、わずかに涙声でした。
わたしはレンゲを置きます。
「あなたが罪人だというのなら、あなたの料理を食べたわたしは、さらなる罪人なのでしょうね」
「お嬢さん!?」
本来、わたしはここにいてはいけないのです。
貞淑を守る必要ある者です。
質素な生活を重んじ、他のシスター同様、つましい生き方をしなければなりません。
ダブル炭水化物で優勝するなど、もってのほかでしょう。
「あなたはここに現れてから、罪を犯したことはありませんか?」
スケルトンさんは、首を振ります。
「わたしだって、罪人です。人というのは、生きているだけで罪を犯します。誰だって大なり小なり、罪を重ねているはず。けれど、それをいちいちつっついて、どうなるっていうんでしょう?」
人においしいものを提供したいだけなのに、存在自体が悪だなんてどうして言えるでしょう?
せいぜい「営業してはいけない場所で商売」する程度です。
許可さえあればいい。
「だって、許可は取ってあるのでしょう?」
「もちろんでさぁ」
「だったら、いいじゃありませんか」
彼は「商売をしてもいい」からここにいるのです。
「この世界にいてはならない」わけじゃないのですから。
「こんなこと、罪人のわたしが言っても、ダブルスタンダードですね? ならば、ここはいっそお土産で手を打ちませんか?」
「へい。ご注文は?」
「揚げ団子を、一袋ほど」
シスターの子たちに、分けて差し上げましょう。
「へ、へい! おまち!」
気がつけば、あっという間に料理はなくなっていました。
最後に、お水で一気にノドを洗い流します。
幸せな時間でした。
「ごちそうさまでした」
今日も、罪を堪能しました。路地裏ゴハン、また参ります。
帰宅後、改めて懺悔室で、迷い人の声に耳を傾けます。
本来ならば、わたしが懺悔しないといけないんですけどね。
夜になって、わたしは月に祈りを捧げました。
「神よ、お許しください。わたしはまた、罪を犯してしまいました」
神に祈りを捧げて、今日も私はベッドにつくのです。
数日後、待ちに待った日がやってきました。何を食べてもいい日です。
「こんちは! 『出前ニャン』でーす!」
シスターたちが色めき立ちます。
ただひとり、わたしを除いて。
「あっ!」
ゴロンさんが、わたしに気づきました。
「しーっ!」
わたしは、人差し指を立てました。
「二人だけの秘密ですよ」
ゴロンさんに、わたしは微笑んだのでした。
(チャーハン編 完)
「なぜ、わたしがシスターだとお気づきに?」
「立ち居振る舞い、ですかねぇ。それになにより、漂う魔力でわかりやした……」
皿を布タオルで拭きながら、オヤジさんはこちらに目を向けました。
器用にハチマキや布製のマスクで顔を隠していますが、やはりスケルトンに間違いありません。
「ここにお店を開いて、長いんですか?」
「かれこれ、二〇年になりますかね」
開店当時は普通の人間だったが、病気で死んでしまいました。
「その後、食事係として、ネクロマンサーによって蘇らされました」
厨房も店舗ごと乗っ取られ、一時期ココは死霊術の研究所として機能していたとか。
「そのネクロマンサーさんは?」
「実験中の事故で、死にやした。主従が交代して、今そいつにレジ打ちさせておりやす」
本当ですね。レジスターの前でマネキンのようにガイコツが突っ立っています。
頭がいいから、お会計をすぐ覚えてしまったらしいですね。
「お嬢さん、あっしは、成仏したほうがいいんですかねぇ?」
テーブルを拭きながら、店主のスケルトンさんは寂しそうな声で語ります。
「あっしとしては、もうちっと働きてえ。労働者や冒険者に、うまいもん腹いっぱい食わせてさ。でも、あんたみたいな聖職者に見つかっちまった」
わたしは、プリースト業です。不浄の存在を見過ごすわけにはいきません。
「あっしはやっぱ、元の世界に帰らないといけないんですかねぇ?」
その声は、わずかに涙声でした。
わたしはレンゲを置きます。
「あなたが罪人だというのなら、あなたの料理を食べたわたしは、さらなる罪人なのでしょうね」
「お嬢さん!?」
本来、わたしはここにいてはいけないのです。
貞淑を守る必要ある者です。
質素な生活を重んじ、他のシスター同様、つましい生き方をしなければなりません。
ダブル炭水化物で優勝するなど、もってのほかでしょう。
「あなたはここに現れてから、罪を犯したことはありませんか?」
スケルトンさんは、首を振ります。
「わたしだって、罪人です。人というのは、生きているだけで罪を犯します。誰だって大なり小なり、罪を重ねているはず。けれど、それをいちいちつっついて、どうなるっていうんでしょう?」
人においしいものを提供したいだけなのに、存在自体が悪だなんてどうして言えるでしょう?
せいぜい「営業してはいけない場所で商売」する程度です。
許可さえあればいい。
「だって、許可は取ってあるのでしょう?」
「もちろんでさぁ」
「だったら、いいじゃありませんか」
彼は「商売をしてもいい」からここにいるのです。
「この世界にいてはならない」わけじゃないのですから。
「こんなこと、罪人のわたしが言っても、ダブルスタンダードですね? ならば、ここはいっそお土産で手を打ちませんか?」
「へい。ご注文は?」
「揚げ団子を、一袋ほど」
シスターの子たちに、分けて差し上げましょう。
「へ、へい! おまち!」
気がつけば、あっという間に料理はなくなっていました。
最後に、お水で一気にノドを洗い流します。
幸せな時間でした。
「ごちそうさまでした」
今日も、罪を堪能しました。路地裏ゴハン、また参ります。
帰宅後、改めて懺悔室で、迷い人の声に耳を傾けます。
本来ならば、わたしが懺悔しないといけないんですけどね。
夜になって、わたしは月に祈りを捧げました。
「神よ、お許しください。わたしはまた、罪を犯してしまいました」
神に祈りを捧げて、今日も私はベッドにつくのです。
数日後、待ちに待った日がやってきました。何を食べてもいい日です。
「こんちは! 『出前ニャン』でーす!」
シスターたちが色めき立ちます。
ただひとり、わたしを除いて。
「あっ!」
ゴロンさんが、わたしに気づきました。
「しーっ!」
わたしは、人差し指を立てました。
「二人だけの秘密ですよ」
ゴロンさんに、わたしは微笑んだのでした。
(チャーハン編 完)
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
ハズレギフト『キノコマスター』は実は最強のギフトでした~これって聖剣ですか? いえ、これは聖剣ではありません。キノコです~
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
孤児院生まれのノースは、十歳の時、教会でハズレギフト『キノコマスター』を授かってしまう。
他の孤児院生まれのルームメイトたちは『剣聖』や『魔法士』『鍛冶師』といった優遇スキルを授かったのに、なんで僕だけ……。
孤児院のルームメイトが国に士官されていくのを横目に、僕は冒険者として生きていく事を決意した。
しかし、冒険者ギルドに向かおうとするも、孤児院生活が長く、どこにあるのかわからない。とりあえず街に向かって出発するも街に行くどころか森で迷う始末。仕方がなく野宿することにした。
それにしてもお腹がすいたと、森の中を探し、偶々見つけたキノコを手に取った時『キノコマスター』のギフトが発動。
ギフトのレベルが上る度に、作る事のできるキノコが増えていって……。
気付けば、ステータス上昇効果のあるキノコや不老長寿の効果のあるキノコまで……。
「こ、これは聖剣……なんでこんな所に……」
「いえ、違います。それは聖剣っぽい形のキノコです」
ハズレギフト『キノコマスター』を駆使して、主人公ノースが成り上がる異世界ファンタジーが今始まる。
毎日朝7時更新となります!
よろしくお願い致します。
物語としては、次の通り進んでいきます。
1話~19話 ノース自分の能力を知る。
20話~31話 辺境の街「アベコベ」
32話~ ようやく辺境の街に主人公が向かう
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる