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第二章 おひとりさま男子、婚約者と同居を始めます。

第8話 再生数 一四

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「じゃあ、いくぞ夢希ムギ

 顔を寄せ合って、オレは夢希に声をかけた。

「じらさないではやくして、快斗カイト

「だって、手が震えて」

「じれったい」

 オレの手と、夢希の手が重なる。

「ポチッとな」

 ウルトラノートPCに繋げたマウスのスイッチを、夢希が押した。

 オレたちはその後も、映画の紹介・感想などをアップしたりなど、自分で工夫をしてみた。

 以前録画した引っ越し動画を前後編に分けて、アップしたものである。前半はオレが引っ越しソバを作る動画で、後編は夢希が部屋の整理をする場面だ。

 一週間後、初動画の再生数をチェックする。一週間くらい様子を見ないと、具体的な数字はわからないらしい。それまで、再生数を確認しないように星梨セイナおばさんから釘をさされていた。

「一四か」

「うわー。リアルねえ」

 結果を見たおばさんが、ソファに寝そべった。

「まだまだ世間には認知されていないようだな」

「バズらない限り、認識されないのかも」

 ただ、バズるための方法を間違えると、自身のチャンネル消滅に繋がってしまう。いわゆる「迷惑系」というジャンルだな。そっちの路線に向かうと、地獄まっしぐらだ。

 ともあれ、チャンネルが無事なのだけでもありがたい。あの爆乳地味子映像は、オレにとってはダイナマイト級だったからな。あの胸をずっと眺めながら編集作業をしていた身としては、あの映像は目に毒だ。

「映画紹介とか、もっと注目してもらえるかなって思ってた」

「みんなやってるからよ。閲覧数数十のチャンネルと、専門的なチャンネルでは、やっぱり信憑性が違うわ。雑学系はこの動画に限らず、反応は薄いかもよ」

「たしかに、わたしの片付け方法って、動画サイトで見たやつでした。片付けの方法が知りたかったら、そっちに行けばいいんですもんね」

 でも、やってはダメなわけではない。ネタがなければ、作ればいいのだ。引き続き、毎日更新を欠かさない方向で行く。

「毎日動画をアップするんだな。でも、できが悪くていいのか?」

 オレとしては、渾身の力作をアップしてバズる、といった具合だと思っていた。そのため、多少の大胆な行動はやむなし、と予想していたんだが。

「いいのいいの。まったりいきましょ。そうやって伸びていったチャンネルもあるわ。あの日本一有名なYouTuberも、毎日更新していくうちに人気が上がっていったの」

 要は、視聴者に習慣化させていくのがいいらしい。毎日なにかしらを一定の時間に更新し、そのルーティンを相手に叩き込むと。

「面白い動画って、なんなんだ?」

 何をアップすればいいかわからず、オレは考え込む。

「誰にもわからないわよ。プロの芸人でも、毎回笑わせるなんて不可能よ。面白いネタを視聴者が求めているなら、芸人のチャンネルが一番盛り上がっているはずよね?」

 言われてみれば、そうだ。

 逆に「どうしてこんなネタが?」といった動画の方が、ウケていたり。

 法則性を探そうとすると、頭がパニックになる。

 では、試行錯誤しつつ自分にあったスタイルを探す方が先ではないのか、と結論に達した。

「まあとにかく少しずつ認知されるように、がんばるしかないわね」

 星梨おばさんが、缶のジンソーダを開けた。

 今日の夕飯は、夢希が作ってくれた天ぷらだ。

 もちろん、再生数の結果も食べる場面も、動画に撮る。

「じゃあ、決起集会も兼ねて、ムゥちゃんの引っ越しおめでとー。我が家にいらっしゃーい。かんぱーい」

 オレたちはコーラで乾杯をした。

「くあああ。キンッキンに冷えてる」

「お料理よそうね、カイカイ」

「ありがてえ!」

 夢希が肉中心に、オレの皿に唐揚げやトンカツをよそってくれる。

「あはあ。たまんねえええ」

 トンカツの衣が、サックサクだ。カツカレーにしても、いい感じだろうな。

「よし、今度はオレが、ムゥによそってやるぞ」

「ありがたい!」

 夢希の皿に、好きなものを乗せてあげた。夢希はノリや、シソを好んだ。
 パリッとした音が最高に食欲をそそる。
 オレもチャレンジしてみたが、シソがなんともいえねえ。

「野菜の天ぷらって、こんなにうまいのか。見事だなムゥ」

「ありがとう。シメは丼にする? おうどんにする?」

「両方いただくぜ」

 濃い天つゆをかけてかき込む天丼も、あっさりダシですする天ぷらうどんも、最高にうまい!

「ああ。ムゥの手料理は最高だな。雑なオレの料理と違って、繊細だ。さすがだな。といったわけで、決起集会を終えようと思う! じゃあ次の動画で会おうな! 高評価と登録よろしく頼むぜ、じゃあな!」

 パンパンに膨れた腹を叩きながら、この動画を閉じる。
 
 

 なぜか、この動画だけが一〇〇〇再生を超えた。
 なにが流行るかなんて、誰にもわからない。
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