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第一章 おひとりさま男子、カップル配信始めました。

第3話 ソロ活仲間と手作り肉じゃが

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 白浜シラハマさんが、オレなんかと飯を食いたいだと?

「なぜ、男の家に?」

 一応、オレはこの家で叔母と暮らしている。にしても、男子の家に入ってくるなんて。

斎藤サイトウくんは、危なくないと思ったから」

 まあ、オレは映画さえあればなにもいらないからな。

 しかし、どうしたってんだ? こんなラッキーなこと、今までなかったぞ。

 バイトしているから、金に困っているのか聞いてみたい。もちろん、聞かないが。そもそも、白浜さんがオレの金目当てなら、もっといい手段を取ってくるだろう。それこそ不良と結託して脅すとか。ただ、そんなことをする人には見えない。

 うーむ。ソロ活を充実させようと思っていたが、寂しいのも事実だ。変なプライドを持って、自分を追い詰めてどうする?

 こういうのは、なにごとも経験だろ。

「ちょうどいいぜ。コーラが余っていたところだ。一緒に平らげてくれ」

「ありがとう斎藤くん。お邪魔します」

 ホントになんの警戒心もなく、白浜さんは上がり込んだ。

「しまった。客用のカップくらい買っておくんだった」

 普通のタンブラーしかない。

「いいよ。いただきます」

 白浜さんは不満一つ漏らさず、氷を入れてコーラを飲む。

「おいしい。親からは控えなさいって言われているんだけどさ、悪い子としているみたいで止まらないね」

「それが、背徳の味だ」

 オレが言うと、フフフ、と白浜さんが笑った。

 まずは、肉じゃがをもらう。

……うめえ。

 スーパーのお惣菜とはまた違った、優しい味だ。野菜が適度にゴロゴロなのも、家庭的でたまらねえ。

「おいしいかな? あんまり料理が得意じゃなくて」

「これは、白浜さんが作ったのか?」

「うん。両親が、仕事の都合で海外に行っちゃって。今は一人で」

 それで寂しくなって、一緒にメシを食ってくれる人を探していたのか。

「女子の友だちは、いないのか?」

「いないというより、特定の仲間は作らないかな?」

 仲がいいグループはいるが、学校の外でまでは交流しないらしい。色々あるんだな、女って。

「バイトも、用事があったら、誰も誘ってこないからやってるだけ」

「そうか。なるほど。頭がいいな、白浜さんは。その手があったか」

 真に迫ったら、オレもバイトしてみるか。
 どうせ帰宅部だ。家で映画三昧と思っていたが、それだと社会と隔絶しちまう。より落伍者待ったなしだ。
 少しでも、社会と触れ合ったほうがいいかもな。

「バイクの免許があるとか、すげえな」

「原付だけ。どうせ普通自動車も取るし、いいかなって」

 バイクがあれば、どこへでも行ける。そんな生活に憧れていたらしい。

「ありがてえ、白浜さん。オレも、なんかいいバイトを探してみるよ」

 オレは引き続き、肉じゃがをいただく。

「けど白浜さんは、なんでこんなところに?」

 白浜さんは、クラスメイトってこと以外、接点なんてなかったはずである。どうしていきなり?

「毎日出前だと、身体を悪くしないかなって」

「たしかに、それは正解だ。高校生活での不摂生からきた病気は、大人になっても続くって言うからな」

 オレの叔母も金を貯めるために、タバコをやめた。だが、まだ咳が出るときもあるって言うからな。

「億万長者になってわかったことは、健康が一番だってことらしい。金を持っていたって、病気になったらどこにも行けねえしな」

「大変なのね」

「ああ。とはいっても、人生は一度きり、高校生活なんて、それこそ一度きりなんだ。だったら、楽しまなきゃ!」

 オレはとある映画で知った。

「斎藤くんは、人間ギライなの?」

「キライというか、苦手だな。ウチは親戚が多すぎてな。毎日遺産だ相続だで、きょうだい全員がギスギスしていた。相手の顔色をうかがうクセが、ついちまったんだ」

 そんな自分がイヤで。高校に上がったら、一人暮らしをするのが夢だった。

 遠くの学校に通うからというと、叔母が家に住まわせてくれたのだ。築三〇年のボロ屋だが、オレにはぜいたくすぎる。

「ご親戚と、一緒に住んでいるんだね?」

「日本に希望を持てないって、シンガポールに移住しようとしたが、オレの話を聞いてとどまったらしい」

 親戚いわく、国内の投資家や金持ちの行き着く先は、東南アジアだという。税金が安いというより、日本が高すぎるからだ。高齢化にしかならないから、日本はどうしても増税対策を取らざるをえないとか。オレにはよくわかららんが、あの人が言うならそうなのかもな。

 この家は、快適この上なかった。親戚も映画好きで、映画に関するアイテムはすべて揃っている。サブスクをスイスイ見られるネット環境も、完備だ。

「いいなあ。毎日楽しそう」

「ああ。オレだって、友だちと一緒に過ごすことを否定はしない。だが、オレの性には合わないってだけだ。人と合わせるのを嫌う、オレの民度が低すぎるだけだ。気にするな」

「人に気を使いすぎなんじゃないかな? みんなそこまで神経質じゃない気がするけど」

「そうかもしれないな」

 だとしても、オレから積極的に人に絡むってイメージは浮かばないな。

 映画を見終わって、白浜さんは席を立つ。

 結局、話をするだけで夢中になってしまった。映画の内容なんて、全然頭に入らなかったな。

「あのさ、学校が変わっちゃったけど、これからもここに来ていいかな?」

「え、来てくれるのか?」

 なんだ、このリア充イベントは? 降って湧いたような素敵展開じゃないか。

 いつの間にか、映画は終わっていた。 
 
 主人公を追って、ヒロインが婚約破棄して逃げていくエンドだ。

「わたしさ、婚約者がいるんだ」

 急に、重い話が飛んできた。

「親が勝手に決めてきて、顔も知らない人と婚約させられたの。ひどくない?」

「まるでラノベとか映画みたいな話だな。ぶっ飛びすぎだろ」

 そうか、一応伴侶となる人がいるんだな。

 もちろん、オレは白浜さんに変なことをするつもりはない。彼女は映画好きの同志だ。同志に手を出すなんて、最悪もいいところだな。

「だからさ、ちょっと自立したいんだよね。学生の間だけでいいから」

「おう。バイトもその一環だと?」

「うん。ごはんも、こんなのでよかったら、毎日作ってもいいよ」

「毎日来てくれるのは、ありがてえ。けど、お料理は遠慮するよ」

 オレがそういうと、白浜さんは少し寂しそうな顔になった。

「そうだよね。やっぱりおいしくないよね」

「違うんだ。ただでさえバイトでしんどいのに、毎日料理なんてさせられないからな。来てくれるだけでうれしいから、料理とかで気を利かせなくていいからさ」

 女子に料理を作ってもらうなんて、オレの生き方からすれば考えられないことだ。この頼みを断る理由なんて、おそらくなかろう。

 だが、それで楽しいのは、おそらくオレだけ。

 バイトで大変な思いをしているのに、さらに料理までせびるなんて、鬼畜だろーが。

 とんでもないことだ。

「むしろオレが料理を振る舞うよ。いくらでもごちそうしてやる」

「なにもしなくて、いい?」

「当たり前だ。話し相手になってくれるだけで、十分だ。というか、オレでいいのか? 話すのって。もっと楽しい連中がいるだろうに」

「ありがとう、斎藤くん。映画を見ている学生って、そんなにいないから、話が合わないんだよね」

 だったら、オレが適任か。話すだけなら、婚約者も別に嫌な顔をしないだろう。

 皿を洗いに、二人でキッチンへ。

「オレが洗うから、座っててくれ」

「いやいや。ここは私が」

 そんなやりとりをしていると、叔母がキッチンに立っていた。

「ではわたしが」

「どうぞどうぞ」

 オレは、叔母に洗い物を押し付ける。

「はいはい、って違うから」

 叔母から、ノリツッコミが返ってきた。

「あたしは水城ミズキ 星梨セイナ快斗カイトの母親の妹で、この家の家主よ」

「は、はじめまして。白浜シラハマ 夢希ムギです。よ、よろしくお願いしますっ」

 白浜さんが、星梨おばさんにあいさつをする。

「話は聞かせてもらったわ、快斗カイト。ここで、一つ提案なんだけど」

「ん?」

「二人のやりとり、配信をしなさい」
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