42 / 114
第三章 Est-ce que votre jeunesse brille?(君の青春は輝いているか)
物乞いの少女
しおりを挟む
「何をおっしゃいます、お母さま。カトラリーによるマナーがうるさくなったのは、一三世紀ごろ。つい最近のことですわ」
クロードのいうとおり、昔のフランスは「手で食べない方が下品」とまで言われていたらしい。
「なぞマナーはボクメツすべしです。おかあさま」
愛娘たちは、二枚のパンケーキを口いっぱいに頬張る。
母親としては、もっと品のいいレディに育って欲しいのだけれど。
「東洋の打楽器に似ていることから、ドラヤキと言われているでござる」
「変わった食べ方をするのね。東洋は神秘的だわ。生魚も食べるなんて」
「特に珍しくはござらんよ。拙者の国では、カタツムリを食べませぬ」
エスカルゴのことか。
食用に育てたリンゴマイマイという種を加熱し、バターソースとからめるのだ。
「おそらく、ニンニクと『ばたー』が我が国にないからでございましょう。ニホンではめったに食しませぬ」
「フランスにはしょう油がないわ。オソバの調理もご苦労なされたでしょう」
「ソバがあるだけ、まだマシですな。これがなければ、ホームシックにかかっておったことでしょう」
それにしても、ソバのすすり方は苦手だ。
「おやおや、アンってば不器用だね」
アンの隣の席で、見慣れた男女二人組を見つける。リザとレオだった。二人とも、箸を器用に使ってソバをすすっている。
「なかなかに風流ですな、アン殿」
「ワインのテイスティングだと思えば、すする食べ方も悪くないよ」
二人は透明な酒を、えらく小さなカップで飲んでいた。白ワインかと思ったが、匂いがまるで違う。
「ニホンシュって言うんだよ。お米で作ったお酒だってさ。あんたもやりなよ。ソバに合う」
アンは、リザのカップを受け取って、一口だけ舐める。温かく、やや辛口の口当たりだ。ふんわりとした熱がノドを通り過ぎる。
「いいわね。お米ってリゾットくらいしか用途がないって思っていたけれど」
「今度ぜひ、クロ・リュセ城へお立ち寄りください。見せたいモノがございますぞ!」
酒が入ってか、やや興奮気味のレオがアンに告げる。
「ここでは、遺跡のことは黙っていてちょうだい」
「おっと失礼」と、レオは口を手で塞ぐ。
「レオが戻っていると言うことは、何か言いたそうね?」
「その件についてはいずれ。お城へいらしてください」
なにやら、見せたいモノがあるらしい。
イコの妻マチルドが、厨房からイコを呼ぶ。
「ああ。用意しているでござる」
イコが、船尾へと向かう。
そこには、物乞いがイコに施しを受けていた。誰も彼も幼い。クロードより年上だろう。
「あ、あの子」
アンは、物乞いの中に、背の高い少女を見つけた。
この間、レオが助けた少女だ。
クロードのいうとおり、昔のフランスは「手で食べない方が下品」とまで言われていたらしい。
「なぞマナーはボクメツすべしです。おかあさま」
愛娘たちは、二枚のパンケーキを口いっぱいに頬張る。
母親としては、もっと品のいいレディに育って欲しいのだけれど。
「東洋の打楽器に似ていることから、ドラヤキと言われているでござる」
「変わった食べ方をするのね。東洋は神秘的だわ。生魚も食べるなんて」
「特に珍しくはござらんよ。拙者の国では、カタツムリを食べませぬ」
エスカルゴのことか。
食用に育てたリンゴマイマイという種を加熱し、バターソースとからめるのだ。
「おそらく、ニンニクと『ばたー』が我が国にないからでございましょう。ニホンではめったに食しませぬ」
「フランスにはしょう油がないわ。オソバの調理もご苦労なされたでしょう」
「ソバがあるだけ、まだマシですな。これがなければ、ホームシックにかかっておったことでしょう」
それにしても、ソバのすすり方は苦手だ。
「おやおや、アンってば不器用だね」
アンの隣の席で、見慣れた男女二人組を見つける。リザとレオだった。二人とも、箸を器用に使ってソバをすすっている。
「なかなかに風流ですな、アン殿」
「ワインのテイスティングだと思えば、すする食べ方も悪くないよ」
二人は透明な酒を、えらく小さなカップで飲んでいた。白ワインかと思ったが、匂いがまるで違う。
「ニホンシュって言うんだよ。お米で作ったお酒だってさ。あんたもやりなよ。ソバに合う」
アンは、リザのカップを受け取って、一口だけ舐める。温かく、やや辛口の口当たりだ。ふんわりとした熱がノドを通り過ぎる。
「いいわね。お米ってリゾットくらいしか用途がないって思っていたけれど」
「今度ぜひ、クロ・リュセ城へお立ち寄りください。見せたいモノがございますぞ!」
酒が入ってか、やや興奮気味のレオがアンに告げる。
「ここでは、遺跡のことは黙っていてちょうだい」
「おっと失礼」と、レオは口を手で塞ぐ。
「レオが戻っていると言うことは、何か言いたそうね?」
「その件についてはいずれ。お城へいらしてください」
なにやら、見せたいモノがあるらしい。
イコの妻マチルドが、厨房からイコを呼ぶ。
「ああ。用意しているでござる」
イコが、船尾へと向かう。
そこには、物乞いがイコに施しを受けていた。誰も彼も幼い。クロードより年上だろう。
「あ、あの子」
アンは、物乞いの中に、背の高い少女を見つけた。
この間、レオが助けた少女だ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦
*主人公視点完結致しました。
*他者視点準備中です。
*思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
逆行令嬢と転生ヒロイン
未羊
ファンタジー
【注意】この作品は自己転載作品です。現在の他所での公開済みの分が終了後、続編として新シリーズの執筆を予定しております。よろしくお願い致します。
【あらすじ】
侯爵令嬢ロゼリア・マゼンダは、身に覚えのない罪状で断罪、弁明の機会も無く即刻処刑されてしまう。
しかし、死んだと思った次の瞬間、ベッドの上で目を覚ますと、八歳の頃の自分に戻っていた。
過去に戻ったロゼリアは、処刑される未来を回避するべく、経過を思い出しながら対策を立てていく。
一大ジャンルとも言える悪役令嬢ものです
ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!
アイイロモンペ
ファンタジー
地球では無い、何処か不思議な世界。
そこには、『ゴミスキル』とけなされる、役に立たないスキルが幾つかありました。
主人公は、一人暮らしの少女マロン。
彼女は、不味くてどうしょうもない『ゴミスキルの実』の美味しい食べ方に気付きます。
以来、巷の人々が見向きもしない『ゴミスキルの実』を食べ続けると…。
何の役にも立たないと思われていた『ゴミスキル』がなんと。
唯我独尊の妖精アルト、日本からの残念な転移者タロウに振り回されつつ。
マイペース少女マロンの冒険が始まります。
はて、さて、どうなる事やらww
毎日、20時30分に投稿する予定ですが。
最初の導入部は、1日2回、12時10分に追加で1話投稿します。
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる