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第三章 Est-ce que votre jeunesse brille?(君の青春は輝いているか)

物乞いの少女

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「何をおっしゃいます、お母さま。カトラリーによるマナーがうるさくなったのは、一三世紀ごろ。つい最近のことですわ」

 クロードのいうとおり、昔のフランスは「手で食べない方が下品」とまで言われていたらしい。

「なぞマナーはボクメツすべしです。おかあさま」

 愛娘たちは、二枚のパンケーキを口いっぱいに頬張る。

 母親としては、もっと品のいいレディに育って欲しいのだけれど。

「東洋の打楽器に似ていることから、ドラヤキと言われているでござる」

「変わった食べ方をするのね。東洋は神秘的だわ。生魚も食べるなんて」

「特に珍しくはござらんよ。拙者の国では、カタツムリを食べませぬ」

 エスカルゴのことか。
 食用に育てたリンゴマイマイという種を加熱し、バターソースとからめるのだ。

「おそらく、ニンニクと『ばたー』が我が国にないからでございましょう。ニホンではめったに食しませぬ」

「フランスにはしょう油がないわ。オソバの調理もご苦労なされたでしょう」

「ソバがあるだけ、まだマシですな。これがなければ、ホームシックにかかっておったことでしょう」

 それにしても、ソバのすすり方は苦手だ。

「おやおや、アンってば不器用だね」

 アンの隣の席で、見慣れた男女二人組を見つける。リザとレオだった。二人とも、箸を器用に使ってソバをすすっている。

「なかなかに風流ですな、アン殿」
「ワインのテイスティングだと思えば、すする食べ方も悪くないよ」

 二人は透明な酒を、えらく小さなカップで飲んでいた。白ワインかと思ったが、匂いがまるで違う。

「ニホンシュって言うんだよ。お米で作ったお酒だってさ。あんたもやりなよ。ソバに合う」

 アンは、リザのカップを受け取って、一口だけ舐める。温かく、やや辛口の口当たりだ。ふんわりとした熱がノドを通り過ぎる。

「いいわね。お米ってリゾットくらいしか用途がないって思っていたけれど」

「今度ぜひ、クロ・リュセ城へお立ち寄りください。見せたいモノがございますぞ!」

 酒が入ってか、やや興奮気味のレオがアンに告げる。

「ここでは、遺跡のことは黙っていてちょうだい」
「おっと失礼」と、レオは口を手で塞ぐ。

「レオが戻っていると言うことは、何か言いたそうね?」
「その件についてはいずれ。お城へいらしてください」

 なにやら、見せたいモノがあるらしい。

 イコの妻マチルドが、厨房からイコを呼ぶ。
「ああ。用意しているでござる」

 イコが、船尾へと向かう。

 そこには、物乞いがイコに施しを受けていた。誰も彼も幼い。クロードより年上だろう。

「あ、あの子」

 アンは、物乞いの中に、背の高い少女を見つけた。

 この間、レオが助けた少女だ。
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