9 / 114
第一章 Cordialement,Courage!(よろしく勇気!)
制度の壁に怒る!
しおりを挟む
「えーと、バロールバロールはー、っと」
帰宅した後、アンは早速、自室にある本を読みあさる。
アンは嫁ぐ際に、家に置いてあった大量の書物を持ってきた。いわば嫁入り道具である。
本以外は衣類一着すら持ってこなかった。練習用の剣一本のみである。
「あったわ。これね」
壁一面に保管された書籍の中から、一冊の伝承本を見つけた。
見た物の命を奪う邪眼を持つ隻眼の魔王、それがバロールだ。ケルトでも有名な魔王で、当時の神族を滅ぼしたとされる。自分の孫に退治されたと聞く。
「殿下、何をお調べになっておいでです?」
不意に、ロウソクの火が近づいてきた。顔を照らされる。
「ひい!」
暗がりで作業していたから、アンは思わず息を殺す。
「心配ご無用、オルガです」
宰相夫人のオルガ・ダカンが、ロウソクの火の向こうに現れる。
「なんだオカンかー」
自分を照らす相手が見知った人物だと分かり、アンは緊張を解いた。
「なんだとはなんですか。夜に明かりが灯っていたので、てっきり放火魔かと思ったのはこちらです。鍵が開いていたからよかったものの」
早々に、オルガの小言が飛んでくる。
娘には優しいのだが、オルガはアンに手厳しい。
有力者の娘で、頭が凄く切れた。メイドや執事の人選なども務めている。アンより年上の四〇歳だ。何より、愛娘の面倒を見てくれていた。娘たちも、オルガ・ダカン夫人を「オカン」と略し、懐いている。宰相自身はルイ寄りだが、宰相夫人は見逃してくれていた。
「バロールの伝承を調べているの。エチエンヌ伯爵という人物が、バロールと関与していると聞いてね」
「あの古狸ですか」
オルガの故郷に近い領地を治めているらしい。しかし、あまりいい評判は聞かないという。
「確かに、あの男ならバロールと繋がっていてもおかしくございません。彼は芸術品マニアです。バロール関連の品なら集めているかと」
「聞けば、世界各国の芸術品を盗作し、我が物としようと企んでいると言うではありませんか。エチエンヌのような男は文化の敵です。見過ごすわけには」
「失礼ながら、パトロールは兵士の仕事かと思います」
オルガの言葉はもっともだ。
自分は王妃である。王の妻自身がパリじゅうを警備なしで歩くこと自体、非常識だろう。
「それに、王妃殿下とはいえ、領地一つ一つの統治者には、口出しできませぬ」
アンの前に、封建制度という制度が邪魔をした。
国王は基本、民ひとりひとりの声になど耳を貸さない。
領主も、国に兵隊や軍備は貸す上に、忠誠も誓う。けれども、自身の土地で勝手放題してもいい。
民はあくまで、「領主の所有物」である。領主が配下をどうしようと構わないのだ。
「ではダカン夫人、フランスがどうなっても構わなくて?」
帰宅した後、アンは早速、自室にある本を読みあさる。
アンは嫁ぐ際に、家に置いてあった大量の書物を持ってきた。いわば嫁入り道具である。
本以外は衣類一着すら持ってこなかった。練習用の剣一本のみである。
「あったわ。これね」
壁一面に保管された書籍の中から、一冊の伝承本を見つけた。
見た物の命を奪う邪眼を持つ隻眼の魔王、それがバロールだ。ケルトでも有名な魔王で、当時の神族を滅ぼしたとされる。自分の孫に退治されたと聞く。
「殿下、何をお調べになっておいでです?」
不意に、ロウソクの火が近づいてきた。顔を照らされる。
「ひい!」
暗がりで作業していたから、アンは思わず息を殺す。
「心配ご無用、オルガです」
宰相夫人のオルガ・ダカンが、ロウソクの火の向こうに現れる。
「なんだオカンかー」
自分を照らす相手が見知った人物だと分かり、アンは緊張を解いた。
「なんだとはなんですか。夜に明かりが灯っていたので、てっきり放火魔かと思ったのはこちらです。鍵が開いていたからよかったものの」
早々に、オルガの小言が飛んでくる。
娘には優しいのだが、オルガはアンに手厳しい。
有力者の娘で、頭が凄く切れた。メイドや執事の人選なども務めている。アンより年上の四〇歳だ。何より、愛娘の面倒を見てくれていた。娘たちも、オルガ・ダカン夫人を「オカン」と略し、懐いている。宰相自身はルイ寄りだが、宰相夫人は見逃してくれていた。
「バロールの伝承を調べているの。エチエンヌ伯爵という人物が、バロールと関与していると聞いてね」
「あの古狸ですか」
オルガの故郷に近い領地を治めているらしい。しかし、あまりいい評判は聞かないという。
「確かに、あの男ならバロールと繋がっていてもおかしくございません。彼は芸術品マニアです。バロール関連の品なら集めているかと」
「聞けば、世界各国の芸術品を盗作し、我が物としようと企んでいると言うではありませんか。エチエンヌのような男は文化の敵です。見過ごすわけには」
「失礼ながら、パトロールは兵士の仕事かと思います」
オルガの言葉はもっともだ。
自分は王妃である。王の妻自身がパリじゅうを警備なしで歩くこと自体、非常識だろう。
「それに、王妃殿下とはいえ、領地一つ一つの統治者には、口出しできませぬ」
アンの前に、封建制度という制度が邪魔をした。
国王は基本、民ひとりひとりの声になど耳を貸さない。
領主も、国に兵隊や軍備は貸す上に、忠誠も誓う。けれども、自身の土地で勝手放題してもいい。
民はあくまで、「領主の所有物」である。領主が配下をどうしようと構わないのだ。
「ではダカン夫人、フランスがどうなっても構わなくて?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力を受け取り、第二の人生の舞台である以前とは別の異世界へと送り出された。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
取り敢えずの目標は世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
第二艦隊転進ス 進路目標ハ未来
みにみ
歴史・時代
太平洋戦争末期 世界最大の46㎝という巨砲を
搭載する戦艦
大和を旗艦とする大日本帝国海軍第二艦隊 戦艦、榛名、伊勢、日向
空母天城、葛城、重巡利根、青葉、軽巡矢矧
駆逐艦涼月、冬月、花月、雪風、響、磯風、浜風、初霜、霞、朝霜、響は
日向灘沖を航行していた
そこで米潜水艦の魚雷攻撃を受け
大和や葛城が被雷 伊藤長官はGFに無断で
作戦の中止を命令し、反転佐世保へと向かう
途中、米軍の新型兵器らしき爆弾を葛城が被弾したりなどもするが
無事に佐世保に到着
しかし、そこにあったのは………
ぜひ、伊藤長官率いる第一遊撃艦隊の進む道をご覧ください
ところどころ戦術おかしいと思いますがご勘弁
どうか感想ください…心が折れそう
どんな感想でも114514!!!
批判でも結構だぜ!見られてるって確信できるだけで
モチベーション上がるから!
自作品 ソラノカケラ⦅Shattered Skies⦆と同じ世界線です
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる