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第三章 船旅と人魚と水着回

第14話 推し変の誘い

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 魔王の娘だと?
 そんなヤツいたっけ?

 いや。最近になって、実装されたのかもしれない。

 あるいは元々存在していたが、容量の都合で出せなかったか。
 

「【デッドフィールド】!」
 
 
 オレに考える余裕すら与えず、イクスはオレとミラベルたちを断絶した。

「なにをした?」

「ベップ・ハスヌマ。あなたにお話があるの。取引しましょ」

 取引だと?

 オレは、障壁を破れないか試してみた。
 叩いてみたり、肩で押してみる。
 やはり、ビクともしない。

「いうこと聞かないと、まずいわよ。アンタのバフ魔法を、障壁魔法で遮断したの」

 ミラベルの方を見ると、カメ型のボスに苦戦している。

 ボスのカメは、攻撃こそ鈍重だ。が、防御に全振りをしているようで、一向にダメージが通らない。

 メロが分析してくれているおかげで、ミラベルは善戦こそしている。しかし弱点がわかったとしても、攻撃がそこまで届かないようだ。

 あれだけ強力な武装でガチガチにしても、裏ボス相手だとキツイか。

 オレのバフさえ通れば……。

 くそう。こんな事態は、予測していたはずなのに。
 順調すぎて、油断したか。

 しかし、この障壁はオレのレベルでも破れない。
 なんらかの法則があるようだ。
 
「目的はなんだ?」
 
 怪しげな瞳を、イクスはこちらに向けてきた。

「あなた、推し変しない?」

「どういうことだ?」

 オレが尋ねると、イクスは鼻で笑う。
 
「察しが悪いわね。あたしに乗り換えないかって聞いてんの。あたしの下僕になったら、色々してあげなくもないわよ?」

 これみよがしに、イクスはテーブルの上で足を組み替える。

「なぜ、オレなんだ?」

「あんたの補助魔法に、興味があるの。あれだけのバフを扱えるなら、勇者の活躍で劣勢に立たされている魔王軍も、巻き返すことができるわ」

 得意げに、イクスは語りだす。

「……お前のほうだろ、察しが悪いのは。オレが推し変なんぞすると思うか?」

「秒で断ってきたわね」

 意外というような表情を、イクスが見せた。

「どうしてオレが、お前なんかに推し変せねばならん?」
 
「ずいぶんと、はっきり言うわね?」

「当然だ。オレはミラベルしか興味がない。損得勘定だけで動いているやつに、オレはなびかないんだよ」

 そもそもどうして、さっきみたいな勧誘方法でオレが落ちると思ったのか?
 理解できない。
 自分から「罠だ」と、教えているようなもんじゃないか。 
 
「断っていいのかしら? あなたの大事な推しがピンチなのよ? あたしに鞍替えすれば、このフィールドを解いて、助かるのに」
 
「大丈夫だ。ミラベルしか勝たん」

 確信を持って、オレは断言した。
 
「なぜ、そこまであの子を信頼できるの?」

「ミラベルは、オレの推しだからだ」

 オレは障壁越しに、ミラベルの方へ向く。

「攻撃を受けるんだ! ミラベル!」

 カメの攻略法を、大声で叫んだ。
 
「えーっ!? マジで言ってるの!?」

「多分、それしか方法がない!」
 
 このイクスって女は、イジワルである。
 それくらいの攻略法を、仕掛けているに違いない。

 さっきからどうも、敵の動きが遅いと思っていた。
 それに、ダメージの通らなさ。

 これは、なにかあると思ったのだ。
 
「わざと攻撃を受けて、寸前でジャストガードだ!」

「ジャストガード……やってみるよ!」


 カメが、ミラベルを踏み潰そうと足を振りおろした。

 その絶妙なタイミングで、ミラベルはトンファーで防御する。

「今だ!」

「ジャストガード!」

 ミラベルが、カメの大きな前足を弾き返した。

 たったそれだけで、カメのモンスターがひっくり返る。

「よし! 畳み掛けろ、ミラベル!」

「はいっ! 【ピンクサンダー】!」

 ミラベルは、角笛を吹いてパワーを集中させた。溜まった魔力をカメの腹に雷として叩き込む。

 カメの怪物が、ミラベルの雷撃を受けて消滅した。

 同時に、フィールドも消えてなくなる。


「どうして、あいつの攻略法がわかったの?」

 呆れた様子で、イクスがオレに問いかけた。

「なんとなくだ」

 ボスってのは法則性があるもんだ。
 完全なるチートキャラなんて、ゲームとしては成り立たないからな。
 単に硬いだけとか、無敵時間が長すぎるだけとかのボスなんて、今どきは炎上するんだよ。

「よって、なんらかの攻略手段ってのは、用意されているもんだ」

「メタな推理ね。それにしても、あたしを殺して障壁を消すことだってできたのに」

「そんな発想には、至らなかったな」

 考えもしなかった。 
 
「……どうして、そうしなかったの?」
 
「お前は、ここのラスボスだろ? 『どうせ攻撃が通らないんだろうな』って、メタな推理をしただけだよ」

 フン、と、イクスが鼻で笑う。

「大正解よ。あたしはエクストラ・ラストダンジョンで待っているわ。それまで、死んじゃったらダメよ」

「言ってろよ、メスガキ」

「ベップ。あたしを選ばなかったこと、いずれ後悔するわよ」

 最後まで憎たらしい笑みを浮かべたまま、イクスがその場からいなくなる。


「ベップおじさん。さっきの女の子と、なにを話していたの?」

「何も。ナンパしてきたから、断っただけだよ」

「ダメだよ。知らない女の子についていったら」

「もちろん!」

 オトナが子どもに諭すようなことを、ミラベルから言われた。
 どっちがオトナなんだろうか。


 海底洞窟のボスを倒して、宝石を手に入れた。

 しかし、オレたちはこの宝石には手を付けない。呪いがかかっているからだ。

「この宝石を、カメの怪物が飲み込んでいたのですね」

 禍々しく光る宝石を、メロは両手でそっと持ち上げる。
 
「持っても、大丈夫なのか?」

「平気です。人魚に、呪いは効きません」
 
 メロが、宝石を台座に置く。さっきまでイクスが立っていた、台座である。
 
 カメが体内で宝石を複製し、海賊はそれを手にした。
 だから、ゾンビ化してしまったというわけか。

「呪いを、浄化します」

 メロは、自分の角笛を用意した。宝石に向けて、笛を吹く。

 あれだけ歪な光を放っていた宝石が、キラキラと光りだした。
 
「これで、宝石は本来の力を取り戻しました。これからは、海の守り神となることでしょう」


 メロの発言と同時に、クエスト達成のログが。


 人魚の島に、戻ってきた。

 大量のイベント達成経験値をもらう。
 オレは受け取った経験値を、すべてミラベルに注ぎ込んだ。
 ミラベルが、大幅にレベルアップする。

 さらに、島の近くにあるリゾート地に宿泊できるチケットをゲットした。

 あと残っているのは、【メロとのデートイベント】である。

 もらったこのチケットは本来、メロとのデートで使うようだ。
 
 メロとミラベルといっしょに、コナンベルルの街を回る。

 本格的に港町として再生した街は、活気に溢れている。
 大量に、屋台も出ていた。

 メロのドカ食いは、見ていて気持ちがいいまである。

「すごいね。あんな小さな体のどこに、入っていくんだろ?」

 ただ呆然とメロを見守りながら、ミラベルも串焼きを口へ運ぶ。

 続いて、リゾート地へ案内してもらった。

 メロの手引で、コテージで休む。

 快適すぎて、ずっとここに住んでいたいと思わされた。

 たまには、のんびりするのもいい。

 このゲームは本来RPGじゃなくて、恋愛シミュレーションだもんな。
 女の子とのふれあいが、テーマなんだ。

 しかし、そうも言っていられない。

「ベップおじさん。そろそろ行こうか」

 数日リゾートを満喫したところで、ゾンビ海賊はもう出ないと確認できた。

「じゃあ、出発するか」

 目的地は、東にあるヤマト国か、北にある雪山地帯シバルキアだ。

「どっちにする?」

「ヤマト国! 文明レベルが、おじさんの故郷に近いんでしょ?」

「いや、どうだろうな?」

 異世界だし、ちょっと違うかも。

「でも行ってみたいな」

「よし。じゃあヤマト国へ向かうぞ」


(第三章 完)
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