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第三章 船旅と人魚と水着回

第12話 エクストラクエストの準備

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 準備が整ったと、人魚のメイドさんがオレたちを呼ぶ。
 メロに案内されて、宴会が始まった。


『勇☆恋』本編では実装されていなかった「刺身」が、食べられるとは。

「生のお魚って、こんなにおいしいんだね!」

 恐る恐る食べていたミラベルも、楽しそうだ。

 オレも刺し身の他に、カニなどもいただく。
 
 催しでは、イルカショーなどが展開される。

 ひとまず、人魚の島が大変なのはわかった。 
 ただ、今は楽しもう。

 島での楽しいひとときを再び取り戻すため、オレたちは戦うんだ。
 

 豪華な宴が終わり、本題へ。

「実は、海底洞窟の魔物に、海賊たちが汚染させられました」

 ゲーム本編での討伐イベント後、海賊たちは脱走したそうだ。

「汚染、って?」
 
「何者かの手引かはわかりませんが、とにかく海賊たちは逃げ延びたのです。それで、海底洞窟に逃げ込んだと」

 そこで、財宝に扮した何者かに、魂を売ったのだろうとのこと。

「それ以降、海賊たちはいくら退治しても、また再び蘇ってしまうのです」

 なるほどねえ。

 となると、またあの現象が起きるはず。

 おっと。来ましたよ、クエストログが。

                                * * * *

 
【エクストラクエスト:海底洞窟へ】

 海賊たちを復活させている魔物が、海底神殿に潜んでいます。
 この魔物さえ倒せば、クエスト達成になります。

 ただし、エンドコンテンツならではの難易度となっております。
 今までとは比較にならないボスが、あなたを待っているでしょう。
 

 なお、このイベントは、クリアしなくても構いません。
 船は手に入るため、次の大陸への冒険は可能です。
 しかし、ずっと滞在したままだと、また海賊が復活してしまい、海賊討伐クエストの受け直しとなります。
 次の目的地へ出発するなら、本日中に街へ戻ってください。それで、エクストラクエストを放棄したことになります。
 
 エクストラクエストを受けるなら、今日中に決定してください。

 受けますか?


                                * * * *

 
 オレの眼の前に、【YES】と【NO】というアイコンが表示された。

 こんなの、決まってるじゃねえか!

「【YES】だ!」
 

 オレは、クエストを承諾した。

 眼の前に、海賊に困っている人魚がいるんだ。
 助けるに、決まってるじゃんよ。

 オレは、ミラベルとデートができたらそれでいいわけじゃない。

 こんな一大事を無視して先に進んだら、ミラベルも悲しむだろうが。
 ミラベルは、みんなに幸せになってもらいたいんだ。
 顔を見ていれば、そんなのすぐにわかる。
 
「ミラベル。危険な冒険になるぞ。なんだったら、オレ一人でクエストをこなしてくる」

 オレがいうと、ミラベルがオレの腕にしがみついてきた。服を掴んで、離さない。
 
「ダメだよ、ベップおじさん! わたしもついてくよ!」

「しかし、ここから先は、かなりヤバイ戦闘になるぜ」

「なら、余計にわたしが一緒に行くよ! おじさんの、力になりたい!」

 オレが言っても、ミラベルは効かなかった。

 仕方ない。連れて行くことにした。

「ただ、ここからはもう、初心者縛りとかはなしだ。全力でやる」

 今まで温存していた装備品も、フル稼働させる。
 
 今のミラベルのレベルは、一三ほど。
 ボスのレベルは、おそらくミラベルを軽く超えてくるだろう。

 だったら、周回プレイで集めてきたレジェンド装備で、ミラベルを固めるしかない。

「うわ。すっごい。べップおじさん、これってどうしたの?」

 ゴツゴツしたアイテム類を見て、ミラベルが目を丸くした。
 
「勇者との……お前さんの兄貴との冒険で手に入れてきた、貴重品だ」

 コイツを、ミラベルにつかってもらう。
 
「ちょっとガチ目のビルドになるぜ。いいか、ミラベル?」

「いいよ。人魚さんたちを助けよう」

 そうと決まれば、さっそく着込んでもらおう。


 その前に、運営に質問をさせてもらう。

 ログの横に、メッセージを送る欄があるから、そこに小声で話しかけた。

「質問なんだが、メロは死ぬキャラクターか? もし死亡するキャラなら、こちらで装備をガチガチにしないと」

 お、回答が返ってきたぞ。
 
[問題ありません。メロは初期装備のままでも、充分戦力となります。体力がゼロになっても、戦闘不能状態になるのみです。蘇生アイテムさえあれば、何度でも復活できます]

 フムフム。
 
[ただしミラベルは、体力がゼロになると死亡扱いになります。ご注意を] 


 OKだ。
 じゃあ、ミラベルの装備だけを充実させればいいんだな。

 おそらく、メロも次回作での攻略対象なんだろう。
 メロを攻略対象にしたら、メロが死んだら消滅するってわけか。

 二人分の装備も、あるっちゃあるんだがな。
 
 よし。方針は決まった。

 補助魔法を効果的に活用してもらうため、メロには知力が上がる装備を。

 ミラベルは、全体的にユニーク以上の装備でガチガチにしてやろう。

「えっと。頭は【叫ぶ兜】でいくか」

 鹿の頭を模した兜を、ミラベルにかぶせた。
 これは、弱い魔物を追い払う効果あり。

「胸部は【不死鳥の胸当て】を」

 常に体力を回復させるユニークアイテムだ。

 手には【燃え盛る氷】という手甲を。上腕だけを覆うプロテクターなので、指輪をはめた状態でも装着できる。右手に炎属性の、左手には氷属性のエンチャントがかかっているスグレモノ。

 足はユニークの上の等級、レジェンダリ装備を。

「これは【影ぬいの具足】っつってな。ダメージ床が無効になるんだ」
 
 うん。素晴らしく固くなった。
 レベルによる装備制限のあるアイテムなだけあって、性能もバッチリだ。
 これならラスダンどころか、エクストラダンジョンでも乗り越えていけるだろう。
 
 だが、見た目が絶望的である。

「なんだか、禍々しいね」

「そうなんだよなあ」

 見た目からして、ネタ装備だ。

 冒険に出るだけなら申し分ないが、ちょっと街は歩けない。
 

 いかに「始まりの街」にいたドワーフおっさんのセンスが、オレと丸かぶりしていたか!
 彼は装備の外見において、神がかっていたからなぁ。

 そんな、外見でお悩みのあなたに!
 

「周回プレイの特典といえば、この【イリュージョン・ツール】だろ」

 オレはミラベルの中指に、指輪をはめた。

 指輪の爪には、まだ宝石がはまっていない。

「イリュージョンって、なに?」

「全身の外見を変更するツールだ。装備品の性能そのままに、見た目だけを変更するってアイテムだよ」

 周回クリアするたびに、様々なバージョンが手に入る。

 手に入れたときは、「これって、なんに使うんだよ」って思っていた。
 なるほど、このためだったのか。
 てっきり、ネタを楽しむフレーバーアイテムなんだと思っていたが。

 えっと……【バイキング・レイジ】は、違うな。こっちが海賊になってどうするんだ。
【死者の呼び声】も違う。ネクロマンサーになって魔物と一緒に冒険とかは、ソロ狩りでやるわい。

「あった。これだ。【旅立ちの勇者】シリーズ! これこそ、ミラベルにとって大事なアイテムだ」

 オレはいろんな着せ替え機能の中から、一つに絞り込む。

「これって、どうなるの?」

「まあ見てろって」
 

 オレはミラベルの指輪に、魔法石をはめ込んだ。
 
「おお、バッチリじゃん!」
  
  ミラベルの見た目が、女勇者のそれになった。
 ヨロイの腰部分は、ミニスカになっている。

 うん。最高だな。

「すごい! お兄ちゃんの装備みたい!」
 
「そうなんだよ。見た目だけだが、勇者の女バージョンに変えられるんだよ」


 これ、かなり当たりのフレーバーアイテムなのでは?

 
「あとは武器なんだが」

 オレが持ってる武器を装備するには、ミラベルのレベルが足りない。

「こちらをお使いください」

 メロが、母親から譲り受けたという。
 巻き貝のようなアイテムで、バトルハンマーよりやや長い。
 随所に、穴が空いている。
 見た目は金管楽器のフルートみたいだが、穴の感じからして縦笛とかオカリナに近い。

「これはまさか、【海の主の角笛】か?」

「そうです。母がぜひにと」

 海の主の化石から作られたという、角笛状のステッキだ。

 吹いて杖に魔力を流し込むことで、物理攻撃効果がアップする。
 またマジックアイテムとしても、魔法攻撃力増強効果が高い。

 コイツ、未実装のレジェンダリーアイテムじゃねえか!
 データだけ存在していて、「出てこねえ」って客が騒いでサイトが炎上したんだよなあ。

 それが今、ミラベルだけの手に。
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