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第一章 オレは、勇者の妹に恋をする。

第4話 念願のデートイベント

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 その後、旅の途中で出てきたモンスターは、オレが倒していった。

「ベップさん。ミラベルちゃん、お疲れ様でした。魔石がこんなに」

「八割は、ミラベルが倒した分だ。換金を頼む」

「はい。お待ちを」

 受付嬢は魔石を奥へ持っていき、質などをチェックする。
 査定があるとか、なんか質屋みたいだな。
 でもアイテムの売買なんかも、こんな感じなのかも。

「お待たせしました。こちらです。冒険者カードに、振り込みましたので」
 
 冒険者証に、完金額が表示された。

 金額は、通常の三割増しほどである。

 想像以上の成果に、オレは舌を巻く。
 
「うわ。魔石が上質だったのか?」

「はい。たいていの魔石は歪なんですが、ミラベルさんが狩った魔物の魔石は、きれいな形でした」

 実際、オレの魔石は安く買い叩かれた。いつも通りなので、文句なんて言わないが。
 
 始まりの街なのに、こんなに稼いでいいものか。

「装備品を新調しても、まだお釣りが来るな」

「じゃあ、ベップおじさん。デートしよ」

 ミラベルの口から、とんでもない発言が。

「デートって?」

「うん。あのデートだよ? 今日お世話になったお礼に、一緒に街を色々回ろうよ」

「オレの想像している通りの、デートで構わない?」

「そうそう。ちょっと街で遊ぶくらいなら、ごちそうするよ」

 え、めちゃうれしいんだけど。
 オレ、泣いていいか?
 

「ありがとう、ミラベル。でも、金はオレが用意するからいいよ。そのお金は、大事に取っておくといい」

 今後、必要な装備品が出てくるかもしれない。

 オレにだって、かなりの蓄えがある。
 なんたって、このゲームを四周してるからな。
 その分の経験値や金・アイテム類は、引き継いでいるのだ。

「わかった。でもデートはしようね」
 
「うん。じゃあ、おやすみ」

「あ、待って」

 ミラベルが、オレを呼び止める。

「ちなみに、エッチなのはダメだよ。ゴメンね」

「ああ、気にしないで。じゃ、おやすみ」
 
 その後、オレは自室で一休みをする。
 この家も、周回プレイで手に入れたものだ。

……デートか。

 入浴しながら、ため息をつく。

 最高じゃん。

 エッチなコトなんて、ないな。
 他のプレイヤーならともかく、オレはそんな要求はしない。
 
 
 勇者でプレイしていたときは、そんな兄妹イベントなんて皆無だったのに。
 ずっと家の中で、おしゃべするだけだった。
 無意味に話しかけたり、この子の2D立ち絵をず……っと眺めたり。

 それだけで、オレは満足だった。
 
 ようやく念願が叶って、街へ連れ出すことに成功したぞ。



 翌朝、デートの待ち合わせ地点に。
 待ち合わせ場所は、噴水のある中央広場だ。

 それなりのいい服を来て、待ち合わせをする。
 
 オレのアイテム欄には一応、【私服】もあるんだよな。

 本ゲームは、街を歩くときに武器を持ち歩けない。
 フレーバー的な要素かと思っていたが、ちゃんと理由があった。
 こういうイベントのために、必要だったのか。


「おまたせ。ベップおじさん」

 私服姿のミラベルが、噴水の広場まで走ってきた。

 かわいすぎる! 天使が来たのかと思った。いや天使だろう。
 邪なオレの心が、浄化されていく。

「どうしたの、ベップおじさん?」

 身体をモジモジさせて、ミラベルが首をかしげた。

「なんでもない。似合ってるよ」

「ホント? ありがと」

 ミニスカートで、ミラベルがくるりんと一回転する。

 ああ、本物だ。
 いつも立ち絵かドット絵でしか見られなかった、リアルなミラベルが。
 ちゃんと、生きている。

「じゃあ、行こうか」

「うん。あ、そうだ」

 ミラベルが、手を繋いできた。

「んっ!」

「今日はデートだもん。いいよね?」

「いいよ」

 むしろ、もう離したくないっ!
 
 その後、オレはショッピングをすることに。

  出店のアクセサリを、ミラベルはずっと眺めている。
 
「これ、おじさんにいいんじゃない?」

 ミラベルが選んでくれたのは、指輪だ。

「これね。バフの効果が上がるんだって」

「ホントだな」

 鑑定してみると、エンチャントなどの魔力付与効果が【二%増】とある。
 これはいい。

「ありがとう。大事にするよ」

「えへぇ」

 ミラベルが、満足気に笑った。

 しかし、プレゼントが指輪とは。
 胸がドキッとするな。

「ミラベルには……」

「わたしは、いいかな。装備品を、たくさん買ってもらったし」

「そういうわけには、いかない。オレばかりもらっていてもなあ」

 なにより、オレがあげたい。

「好きなものを、選んで」

「わかった。じゃあこれ!」

 ミラベルが選んだのも、指輪じゃないか。しかも、おそろい色違い!
 オレがオレンジ色で、ミラベルは水色だ。
 ただミラベルの方は、【攻撃力+五】と書いてある。

「いいよね?」

「もちろんっ!」

 安物だが、ミラベルは「うれしい!」と言ってくれた。

「ありがとう、ベップおじさん! わあああ」

 指輪をじっと見つめながら、ミラベルはウットリしている。

 だが、そんなムードも腹の虫によって阻まれた。
 
「えへへ。おなかすいちゃった」
 
「じゃあ、食事にしよう」

 このゲームでの食事は、冒険者としての栄養補給だけじゃない。
 なんたって、ベースは恋愛シミュレーションだ。
 山の景観が拝めるおしゃれなカフェだとか、王宮に近いレストランとかが点在する。
 その中から、素敵なお店をチョイスするのだ。

 が、ミラベルはラーメン屋を選ぶ。
 しかも、濃厚ガッツリ系を。

「一度、行ってみたかったんだぁ。女一人だと、入りづらくてさ」

 豪快に、ミラベルは麺をすする。
 うまそうに食うんだよなあ。
 男勝りにガッツくミラベルも、またかわいい。
 
「もう少しムードのある店に、行くものだと思っていたが?」

 オシャレなカフェだと、女子ばかりいるからガツガツ食べられないとか。
 待たされるのも、あまり好きではないという。
 
「同じお食事デートだったら、公園で買い食いとかのほうがいいかな。今日はお天気もいいから、きっと気持ちいいよ。お話もしたい」

 なるほど。それも一理ある。

「じゃあ、午後は公園に行って話そうか。そこで、ソフトクリームの屋台に寄ろう」

「賛成!」
 

 草原のある市民公園で、ベンチに腰掛けた。
 手には、屋台で買ったアイスクリームがある。

「王宮が近いと、守られてるって感じがしていいね」

 ミラベルが、アイスを舐めた。
 この街の平和な感じを、より一層感じられる。

「ああ。実際にオレたちを守ってくれているからな」

 この街の王様は、人柄がいい。
 というか、実際に会ったことがある。
 勇者として会っただけだから、このアバターで会ってもオレだと認識しないだろうけどな。

「おじさん、アイス付いてるよ」

 ミラベルが顔をグッと近づけて、オレの口元についたアイスを拭き取る。

 おおおおお。

 オレ、明日死ぬのでは?

 ここに来れただけでも、一生分の運を使い果たしたと思っていたが。

「ありがとう、ミラベル」

「どういたしまして」
 
 そういえば、話があるって言っていたな。

「オレになにか、相談に乗ってもらいたいのか?」

「うん。実はね、街の外に出たい」

 オレは、黙り込む。

「街の外に出て、お兄ちゃんが見てきた世界を、わたしも見てみたいんだ。お兄ちゃんが守った世界を、この目に焼き付けたい」

 いくら兄が街を救った後でも、なんらかの小さいトラブルがある。
 ミラベルは、そう見越していた。
 その小さい事件を自分が解決してあげれば、兄も寄り道せずに住むと考えているらしい。

 たしかに、このゲームって結構な数のサブクエストがあるんだよな。
 周回しないと、出てこないシナリオもあるし。

「まあ、お前さんの兄貴が救った街ばかりだからな。危ない旅には、ならないと思うが」
 
 トラブルなら、他の冒険者に任せればいいと思う。
 わざわざミラベルが、出向くことではない。
 
 それでも。

「よし、街の外に出よう」

「いいの?」

「オレには、転移魔法がある。こっちには、いつでも帰ってこられるからな」

 また、オレは危なくないダンジョンの知識もある。

 道中でミラベルのトレーニングをしつつ、ダンジョンに潜ってもいい。

「ただし、ちゃんとおふくろさんから、許可をもらってくれ。兄貴にも、話をつけておくんだ。そろそろ、転送魔法で家に帰ってくる頃だろ?」

  あいつなら、絶対に反対なんてしないだろう。
 
「うん! わかった!」

 ミラベルを、家まで送った。
 
「じゃあね、ベップおじさん。今日はありがとう!」

「おう。おやすみ、ミラベル」
 
 
 明日から、冒険がもっと楽しくなるぞ。

(第一章 完)
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