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第一章 オレは、勇者の妹に恋をする。

第3話 初戦闘

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 オレとミラベルは、街の外へ向かった。

 その前に。
 

「では、戦闘準備を」

「はい」
 
 ミラベルが棍棒を取り出し、ネコミミフードをかぶる。
 おお、かわいい。天使。

 目的は、薬草採取だ。冒険者として、初歩的な訓練をする。

「薬草取りだって、ギルドや商人たちがどのような働きをしているかを知る、重要な仕事だ。バカにできないんだよ」
 
 オレの説明を聞きながら、ミラベルがメモを取った。
 素直! 天使。

「おっ」

 草原に、モンスターが現れる。 
 街の外に出て、いきなりモンスターと出くわすか。


 半透明の球体が、ポヨンポヨンと跳ねている。
 点々と口といった、簡素な顔が表面には描かれていた。

「かわいいー」
 
「スライムだ」
 
 飛んで遊んでいるだけで、危険なモンスターではない。
 普段スライムは、そのへんの雑草を食べている。いわば、草食系モンスターだ。
 が、馬車の荷台を溶かして、食べ物を吸収してしまうことも。

「間近で見ると、大きいな」

「顔はかわいいけど、ちょっと怖いね」

 三体いるうち、二体は大型犬くらいのサイズだ。
 親玉は、ゆるキャラのきぐるみくらいの、大きさはあるか。

 スライムは悪意をもって、人を襲っているわけじゃない。モンスターの本能が、そうさせるのだ。
 魔王の瘴気に当てられている、といえばいいか。

「軽く小突いてやれ。そうしたら改心して消えていく」

「はい。このー」

 ミラベルが、棍棒を振り回してスライムに突進した。

「おわ!?」

 ずっこけた拍子に、スライムに重い一発を与える。
 
 スライムの頭上に、星のエフェクトが走った。
 そのままスライムが、目を回しながら消えていく。

 エンドコンテンツに出てくる魔物は、基本的にファンシーな造形になっている。

 実際のスライムは、もっと凶暴な姿をしていた。
 ミラベルの性格に合わせて、形を変えたみたいだな。

「そっか、ははーん。なるほど」

 こんな優しい世界観になると、魔王討伐といったシビアさを表現しづらい。

 だからミラベルは、攻略対象から外されたのだろう。

『勇☆恋』だって、それなりにファンシーなのである。
 とはいえ、シナリオ自体はシリアスだ。

 ミラベルが活躍するには、このゲームの世界はハードすぎる。

 だが、ミラベルと旅をするモードだと、世界観がマイルドになるようだな。
 これなら、ミラベルのかわいさに一層集中できる。
 いい塩梅な、世界観じゃないか。
 リアルなファンタジー世界だと、ギスギスしちゃったりするからな。
 心が荒んでしまう。
 
「なにを、一人で納得しているの、ベップおじさん?」

 おっと、またメタな妄想をしてしまったか。
 
「別になんでもない。なんとなくメタ視点で、運営側の事情を察しているだけだよ」

「ん?」

「続けて」

「は、はいっ。とあー」

 レベル一だからか、やっぱりミラベルは動きが鈍い。戦闘がたどたどしかった。

 だが、オレは手伝わない。
 そうしないと、ミラベルが何も覚えられないから。

 戦闘の大変さや、少しずつ強くなっていく楽しさや痛み。

 勇者である兄に憧れているなら、この感覚を覚えてから冒険に出たほうがいいよな。

「終わった」

 三体のスライムを、どうにか倒す。

「レベルが上がった!」

 ミラベルのレベルが、二に増えている。

 ステータスが、さっきの割り振りで上がっていた。

「なるほど。こうやって強くなるんだね」

「ああ。ついでに、魔法も使えるようになったな」

 レベルが上がると、スキルポイントというポイントを得られる。
 ポイントを割り振って、スキルを覚えられるのだ。
 魔法使いとして、魔法スキルは大切である。

「うん。【ファイアボール】を取るね」

 まあ、読んで字のごとくなので、説明はしない。

 スライムの消えたポイントに、アイテムが落ちている。

「この石ころ、キレイだね。【魔石】だっけ?」

 ミラベルが、小石サイズの石ころを拾った。
 
「おう。魔物討伐の証拠品になるから、拾っておこう」

 大小様々な大きさの魔石を、三粒手に入れる。
 他のドロップアイテムは、薬草だ。オレたちが現れたから、消化しきれなかったのだろう。

「じゃあ、本命の薬草取りに向かおう」

「はい」

 薬草を取りつつ、レベルを上げていく。

「こっちは、ちょっと怖いね」

 集団で現れたのは、ゴブリンである。
 弱いとはいえ、コイツらはほぼ必ず集団で向かってくる。
 囲まれると厄介だ。

 とはいえ、ファイアーボールを撃つ機会でもある。

「やっちまえ」

「いくよ。【ファイアボール】!」

 ミラベルが、火球を放った。
 ファイアがピンクでハート型とか、狙ってんのかって思うが。
 
 だが、そんな熱いハートに、ゴブリンが昇天する。
 同じように、ゴブリンを蹴散らしていった。
 
「またレベルが上がった!」

 ミラベルは、またポイントを割り振る。
 覚えられる魔法の中から、今度は【キュア】を取った。

 スライムとゴブリンを退治しつつ、薬草採取を再開する。

 思ったが、ミラベルはアイテムの引き運が強い。
 薬草といっても、割とレアな草を集めている。
 上質なポーションが、作れそうだ。

 
「おっと。ボスのお出ましだな」
 
 
 空をフヨフヨ浮いている、二体の魔物が。
 
「チョウチョかな?」
 
「いや。毒蛾だな」

 こちらも、かなり大きい。
 現実世界の蛾なんて、デカくてもせいぜいホームベースくらいのサイズだろう。
 しかしこの世界の蛾は、幼稚園児くらいデカい。赤ん坊くらいなら、さらってこられるんじゃ?

「近づこうとしないで、魔法で倒そう」

 攻撃魔法の【ファイアボール】を撃つように、ミラベルへ指示を送る。

「大丈夫? ここ、森の中だよ?」

 草に引火して火災になるのを、ミラベルは警戒しているのか。

「心配はない。思い切り撃ってごらん」

 あとは、オレが魔法で鎮火する。
 
 オレは丸い宝石を、ミラベルに投げ渡した。

 宝石の周りには、金属製の輪っかがついている。

「これはなに? 棍棒にスッポリと、フィットしそうだけど?」
 
「棍棒につける、アタッチメントだ。これを棍棒の先に装着してみな」

「うん」

 ミラべルが、棍棒の先端に宝石付きのアクセサリを取り付けた。

 物理武器としてしか使えない木剣と違い、棍棒はこういった使い方ができる。
 杖としても、棍棒は役に立つのだ。
  ドワーフが勧めてくれた理由が、それである。

「ヤバイよ。早くやっつけよう」

 あの毒蛾ヤロウ、鱗粉を撒いて地面をダメにしようとしてやがるじゃん。
 巣作りに、薬草のキツイ匂いが邪魔なんだろう。

「撃つよ。ファイアボール!」

 野球ボールくらいの火球が、毒蛾に飛んでいく。
 火球は、あさっての方向に飛んでいった。ミラベルがためらったせいだろう。
 が、ちゃんと毒蛾に軌道を変えてヒットする。
 魔物を敵とみなせば、多少のブレなら魔法のほうが修正してくれるのだ。
 それが、【攻撃魔法】の特色である。

 この世界には、単なる生活用魔法としてのファイアボールも、存在するわけ。暗いダンジョンに、明かりをつけるとか。
 それを攻撃用にアレンジしたのが、攻撃魔法なのだ。

 
 一体は、ミラベルがやっつけた。

 もう一体のほうが、こちらに気づく。

 攻撃対象が、こっちに移った。

「手伝おうか?」

 オレは、魔法の準備を行う。

「いや。自分でやる」

「わかった。でも危険だから、バフを掛けておく」

「ばふ?」

「今は覚えなくて、いいから」

 オレは、攻撃力と敏捷性が上昇する肉体強化魔法を、ミラベルに施した。

「なんか、強くなった気がする」

「実際に強くなっているよ。それで殴ってごらん」

「よし。【ファイア・フィスト】!」

 ミラベルは拳を固めて、炎属性魔法を付与する。
 ファイアボールだと引火を恐れたのか、近接攻撃に移行したらしい。

 敵が接近戦に持ち込んできたから、ちょうどいいだろう。

 ミラベルの職業は、【バトルメイジ】だし。

 毒蛾が迫ってきたのを、ミラベルが炎の拳で殴り飛ばす。

 一発殴られた毒蛾が、目を回して消滅した。

 毒に汚染されていた薬草たちが、一気に元気になっていく。

 依頼達成のようだ。
 
「やったぁ」

 魔力を使い果たしたのか、ミラベルがへたりこむ。

「大丈夫か?」

「立てないよ」

「よし。おぶってやろう」

「いいよ。そういうのは、『にぃに』にだってやってもらわないから」

 すっかり、子どもじみた口調になってきたな。緊張がほぐれてきた証拠だろう。
 
 ミラベルは勇者と二人きりのとき、兄のことを「にぃに」と呼ぶ。

「いいから。今はオレに甘えておきなさい」

 オレは、ミラベルをおぶった。

「慣れているね?」

「田舎に弟がいてな。子どもの頃は、よくおぶっていた」

「ベップおじさんの、きょうだいって?」

「兄貴が一人と、弟が一人」

 オレは、三兄弟の真ん中だ。
 学校こそ共学だったが、男子校みたいなノリの家だった。
 
 だからこそ、女きょうだいに憧れている。

 今、その念願が叶ったのだ。
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