借金一千万のメンヘラVTuberが、五千万の借金があった女社長に指導を受けて、資産一億を手に入れるまで

椎名 富比路

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第六章 メンヘラ、レコーディングをする

第30話 しらすママのチャンネルに呼ばれる

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『現実はクソ! どうも、イラストレーターVのTuberの紋白もんしろ しらすです。今日はゲストがいらしていますよ。どうぞ』

『メンヘラVの、おもむろ アンです。出にくいわ!』

 今日は、しらすママの配信チャンネルにお邪魔している。

『あの、ウチは今回初めて、しらすママの家にお邪魔したんですけど、外観がまさにビル! って感じでした』

壬生みぶ ペーターゼンちゃんの家に比べたら、「え? 家? ただの壁じゃん?」って思うでしょ?』

 ママの家はシノさんの家と違って、まったく色気がない。
 ただし外観がビルみたいってだけで、内装はエグかった。

 当たり前のように、祭壇がある。
 五〇年近くの歳月をかけて集められたコレクションが、部屋一面に飾られていた。
 箱も古いものから、新しいものまで。

『ママは、プラモをちゃんと作る人やねんね?』

 プラモ好きの中には、作る時間がないからか、箱で置いている人も多い。
 しらすママは、すべて組み立てて置かれている。

『プラモはね。愛だから。どれだけプレミアがつくよっていわれても、箱から出してやることに意味があるって思ってるの。ちゃんとガラスケースに入れて、ホコリが入らないようにしているのよ』

 まさに、執念だ。
 SNSでよくある、「リスナーのオタク部屋訪問」に出てくるような、ヤバさだった。

 ただし作業場は、いかにもイラストや音声配信の作業に特化した部屋であり、機材以外はすべてリビングに集結している。
 
 そのため、リビングだけが異質な空気を放っていた。


『今回の企画は、「映画ジャンル 食わず嫌い王」ということで、四個のジャンルの中で、どれがキライか当てていくというネタです』

『はい。ウチが選んできたのは、この四本』

 名作の多いが同じシーンばかり見させられる、「ループもの」。
 推理小説スキの間でも賛否両論に分かれる、「特殊能力持ちミステリ」。
 アホな主人公が勝つとわかっていても、人によってはイライラさせられる「ざまぁ系コメディ」。
 殺される側に感情移入できない、「復讐系グロ」。

 この中から、あまりスキではないジャンルをママに選んでもらう企画だ。
 ウチは、ディベートして魅力を語る。
 ママは、ウチのウソを暴くのだ。

 しらすママが人を呼ぶときは、たいていこの企画がある。

『……というわけで、アンちゃんが苦手だったのは、特殊能力持ちのミステリでした~』

『はや! 当てるの早すぎへん!?』

『いや、わかりやすすぎでしょ。話を聞いていても、詳しくないもん』

『うわあ。そんなスキマで当ててくるんか。プレッシャーやなあ』

 思いの外、企画が早く終わってしまった。

 続いて、「マシュマロ焼き」である。

 マシュマロ、いわゆるコメント・質問箱なのだが、処理が早すぎるので「焼きマシュマロ」と呼ばれている。
 辛辣なコメントではなく、マシュマロのような害のない発言を投げ合おうというコンセプトで、「マシュマロ」と命名されているらしい。

 だが、ママに送られてくるマシュマロはひどいものだ。

『最初のお便りです。「このコメントを永遠にしらすの網膜に刻んでやる!」やって』

『刻まれません。はい次』

『はい。「マシュマロを投げ合う仲になろうって言われているけど、マシュマロって結構ベタベタするよね。白くて粘つくなにかになっちゃう」とありますが』

『避けるんで害はないです。はい次』

 間近で見ていたけど、しらすママの処理能力が高すぎる。

『「しらすママも、やっぱオルカン?」ってあるけど』

『アンちゃん。これ、あんたが送ってきたんじゃない?』

『違う違う。ママって割とあけっぴろげに「投資してます」って話をしてるやん』

『うん。ワタシはねぇ。バランスファンドだね』

 バランスファンドとは、株式だけではなく、国債・海外債にも投資をするファンドのことだ。リターンは低いが、下落相場にめちゃくちゃ強い。

 債権は、株式が下がると値上がりする仕組みになっている。そのため下落相場において、クッションになってくれるのだ。
 株と債権を半々で持っている方が、暴落時に被害が少ないらしい。

 ウチは、債権を持つ余裕なんてないけど。

『バランスファンドに投資しておいて、老後は切り崩す感じ。今はイラストで食べていけてるから、まったく手を付けていないわね。とにかく、自分で管理したくなかったのよ。そんな時間なんてないし』 

『株式一本ではなく?』
 
『若い頃はね。今は五〇近くて、金額も膨らんじゃった。なので、バランスファンドに切り替えているところ』
 
『続いてのおたより。これ、ウチも聞きたいんやけど、「ETFってやらないの?」やって』

 ETFとは、「上場投資信託」と言われる。
「成長しきった会社に投資をする投資信託」といえば、わかりやすいか。

『年齢的に、狙ってもいいかもね。実際、ワタシの友だちも「ETFで分配金をもらって過ごすんや」って人が多いわね』

 ETF最大の魅力は、分配金があることだろう。
  分配金とは、「証券会社が」投資信託の運用益を一部切り崩し、投資家へ定期的に分配するお金のことだ。
 ちなみに似たようなもので「配当金」があるが、そっちは「会社自体が」払う。

 個別株から受け取るのが「配当金」で、投資信託から受け取るのが「分配金」とおぼえておけばいい。

『めちゃ税金かかるから、受け取りたくないって人も多いやん。せやから、戦略としてどうなんよって。目安として、どう考えておいたらええんやろ?』

『ワタシは、投資信託型を買っているわ。結局は、「配当金を受け取るより、切り崩して使うほうが合理的」らしいから』

 ここでも、複利の力が働く。
 投資信託型ETFの場合、分配金を吐き出さず、ファンド内で運用をしてくれる。

『ここだけの話よ。実際、普通のETFも買ってみたのよ。でも、分配金って使わないわね』

『なんで?』

『思っていたより、入ってきた額が安いのよ』

 ETFはどれだけ投資しても、月に数万円しか入らない。
 水道光熱費や家賃を賄おうと思ったら、かなりの費用と時間を要する。
 普通に働いて、投資信託に回したほうが早い。

『それに扱っている銀行によっては、引き出しづらいの。ワタシはメインでネット銀行を使っているんだけど、投資に特化した銀行だから引き出すには手間がかかるわね』

 投資にしか使わないなら、わざわざ税金を払ってから分配金再投資はムダだ。初めから投資信託型にして、ファンド内で回してもらうのがベストだと、ママは考えたという。
 
『人によるんじゃないかしら? 働きたくないなら、配当金・分配金を得る生活だっていいし。好きな仕事についているなら、いちいち税金を取られる分配金をもらうより、投資信託でふくらませる方がベストでしょうし』

 どちらにしても、結局は種銭が必要だ。

『アンちゃんの投資額なら、まあイケルんじゃない? 働かなくても、分配金で食べていくくらいは稼いでいるはずよ?』

『そうでもないんよ。電気代がヤバイのもあるし、あと家のローンもまだまだかかるさかい』

『はいはい。わかるわ。ワタシも、家のローンが残っているわ。税金対策だけど』

『わかりました。最後に告知いいですか? 人のチャンネルやけど、ママも関係しているから!』

『はい。いいですよー』

『なんと、来月ですけど、CD出します!』

『わーい』

『イラスト投稿サイトの販売ブースにて、四二〇〇円で売られています。ウチのグッズを買ってくれてる人なら、あの販売スペースですから。エロサイトのんとちゃうよ。あれは二次創作やからね。ウチの公式とちゃうからね』

『水着が解禁されてから、エロ絵師がアップをはじめたわよね。ママとしては、罪悪感を感じているわ』

『めっ! ていって、やめるような人らとちゃうし。やめんでもいいし。悩ましいよね』

『これは自由ということで、では、ありがとうございました。あ、そうそう、PVもつきますよ! だから四〇〇〇円以上もするのよ!』


 こうして、順調にV生活は続いていた。

 しかし、予想外のことが。

 ウチの活動が、本物の親にバレた。

 
(第六章 おしまい)
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