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第六章 メンヘラ、レコーディングをする

第28話 レコーディングと、案件

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 ウチのレコーディングが、始まった。
 
 打ち合わせで、ハッカむしヨケさんと話し合った。歌詞のイメージを、ウチに寄せていく。

「アンさんのメンヘラキャラは、お姉さんがベースだとお聞きしましたが?」

「そうなんですよ。ウチやと、どうしても劣化コピーなんですわ」

「けど、それくらいがいいかもしれません。ガチすぎると太客はつくのですが、大衆受けは難しいです。ややマイルド目なほうが、いいと思いますね」

「中途半端になりませんかね?」

「それがまたいいんじゃないですかね? メンヘラになりきれない。でもうちに秘めた思いは爆発しそうだ、といった感じの」

「なるほど」

 で、大事なことを聞き出すことに。

「あのですね。ホンマに、タダでやってもらえると?」

 ワン・タンメン先輩との交際発覚によって、ハッカさんは多額の賠償金を払わされる。

「円満に交際していても、どのみち会社にはご迷惑をおかけします。仕事がもらえるだけでも、こちらとしてはありがたい」
 
「はい。こればかりは、無料で楽曲提供させていただきます。もちろん、アレンジャーにはお金を払っていただきますが」

 どうやら、そういう仕組みのようだ。

「そうはいっても、お子さんが産まれるんですよ? もうワン先輩のお腹も大きくなってますし、今からお金がかかるのでは?」

「ご心配なく。楽曲提供元は、あなただけではないので」

 どうもハッカさんには、仕事が大量に舞い込んできているという。
 むつみちゃんが、動いてくれたらしい。
 会社としては楽曲提供で手を打ったので、あまり咎めないでほしい、と。

春日かすが社長には、頭が上がりませんよ。ホントに、ありがたく思っています」

「よかったです。でもしんどいんとちゃいます?」 
 

  
 ボイストレーニングとランニングも、本格的になっている。
 シノさん……壬生ペーターゼンと共に、ジム通いも追加した。
 出費は、大きい。とはいえ、今はプロの指導がほしかった。下手に素人考えで行動すると、ムチャをするか実力不足になる。大事な新曲なので、失敗は許されない。


 しらすママは、随分前からアニメの作画に携わっているという。基本は監修という形だが、「自分で手掛けたい」と何度もぼやいていたらしい。「他の仕事も抱えているので」と、編集さんに止められたというが。


 で、その仕事というのが……。


「これ、ホンマに着んとアカンの?」

 ウチのもとには、とあるメーカーの新作水着が。

「アバターだけやと思ってた。ウチまで水着を着るとか、聞いていないんやけど?」

 ウチは、新作の水着を着させられている。

 またこの水着が、かわいいのだ。
 布で造花をあしらっていて、露出度は高いのに花に目が行く作りに。
 背中もケツも全開とはいえ、フリルを付けたらあまり気にならない感じになる。 

 ムリヤリとはいえ、この水着なら悪くはない。

「でもさあ、こういう水着撮影って、アダルト系のVさんの仕事ちゃうん?」

 アダルト系Vとは、ちょっとセンシティブな配信をなさる方々のことだ。

「Youtubeって、肌色審査キッツイやん? これ、大丈夫なん?」

 スタイリストさんに胸の位置を調節されながら、ウチはむつみちゃんに尋ねる。
 
「それがですねえ。あぶLOVEってどちらかというと、『超美麗3D配信』が多いでしょ?」

『超美麗3D』とは、顔を出さない全身を映しての配信のことだ。

「アンさんって、いくらファッションメンヘラっていっても、スタイルだけは病的じゃないですか」

 それで、「細い子でもかわいく見える水着を開発したので、着てもろて」とオファーが来たらしい。
 
「マジかいな。ホンマに胸はないで。絶対、カイナの方が喜ばれるって!」
 
 他のVタレントさんは、中身もグラビアアイドル並みに胸がデカい。お腹がタプタプがちな子もいるが、それはそれでだらしなくてかわいいのだ。

 中でもタコ・カイナは、バツグンのプロポーションを維持している。あれだけ深夜大食いをカマシているというのに。

「カイナさんの水着グラビアも、ございます。どうぞ」

「おおー」

 白ビキニ姿のカイナが、ウチに抱きつく。

「水着案件は、いずれ来ると思っていたさ!」

「堂々としとるなあ……」

「まあ、元ジュニアアイドルだしね」

「マジか?」

「マジよ。地元の浜寺でスカウトされた」

 とはいえ、男性向け雑誌のグラビアを二、三年やった程度らしい。
 スカウトされた時期が夏だったので、水着撮影もあったという。

「いつのときよ?」

「小五」

 おお……読者さんは、ヘンタイさんですね。

「その頃から、歳の割にデカかったからねー。いいオカズになったんでは、と」

「オカズ言うなや」

 お嬢様でセクシー小学生のナイスバディとか、エロゲの世界だ。
 誰でも、カイナの身体は拝みたくなるのだろう。

 子どもを二人産んだとしても、そのプロポーションは一向に衰えを知らない。

「どないやったら、その身体を維持できるねんよ?」

「変わらないよ。常に運動は、欠かさないからね。子育てしてるとね、身体を動かしていないとストレスが溜まっていくんだよ。ダメってわかってても、子どもに当たりそうになる。それを防止するために、めちゃトレーニングするんだよね」

 自分の時間を常に作り、自己をいじめぬくそうだ。

「ウチは、そこまでストイックになられへんわ」

「なにをおっしゃるか。アンはあれだけ酒飲んでるのにさ、やつれないよね」

「そうかな……」

 ウチは、あまり自分の身体に自信がない。

「あんたは自分が思ってる以上に、スタイル抜群だからね。背も高いし」

「背はね。デカいんが特徴なので。せやけど、そのせいで全然モテへんかったよ?」

 自分より身長のある女は、男性には好かれないみたいだ。

 ハッカむしヨケさんを初めてみたときの感想だって、「ちっさ!」だったし。
 ウチがでかいだけなんよね。

「撮影終わったらさ、飲みに行こうよ」
 
「ええな! 時間大丈夫なん?」

「遅くならなかったら、大丈夫」

「よっしゃ、どこがいい?」

 今から、予約しておく。

「食べ飲み放題がいい。腹に目一杯詰め込みたいっ。明日オフだから、ニンニクもOKだよ」

「わかった。近くに、焼き肉バイキングがあるわ。行こうか」
 
 スマホで予約を完了したと同時に、撮影が始まった。

 カイナは慣れたもので、撮影でも堂々としている。

 ウチはオドオド気味で、ポーズもぎこちない。

 いくら顔出しがないといっても、全身を見られている。
 ちょっと恥ずい。

「お疲れさまでした」

 カメラマンさんから、OKが出た。

 ウチは即座に着替えて、頭を焼き肉に切り替える。
 
「この水着、くれるって」

 カイナが、着用していたビキニをカバンに詰め込んだ。

「ええのん? もらい!」

 ウチも、水着をしまい込む。

 でも、いつ着たらいいんだ?
 スライムASMR配信でもするときに、風呂場で着てみるか。

「焼き肉行くよ!」

「行こか! むつみちゃんは?」

「あ、まだ仕事がありまして」

 二人だけで行ってこいと、むつみちゃんは言う。
 
「そうなん? 時間がかからへんのやったら、待っとこうか?」

「ご心配なく。移動しないといけないので」

 むつみちゃんは、別の場所で夕飯を済ませるそうだ。

「ほな。行ってきます」

「お気をつけて」

 カイナと一緒に、焼き肉へ繰り出す。

 しかし、むつみちゃんが気になる。
 
「どうした?」

「いやな。むつみちゃん、大変やなって」

 考えごとをしていたら、ハラミを焦がしてしまった。
 責任を持って、ウチが食べる。

「心配ないって。社長はアンタより、体調管理とかもバッチリだから」

 そう言って、カイナは虚空を見上げた。

「どないしたんよ?」

「いや、社長なんだけどさ。アンタのいうとおり、最近ちょっとしんどそうなんだよね」

 カイナと別案件で仕事をしたとき、むつみちゃんは早退したらしい。
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