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第五章 メンヘラ、炎上した先輩に会いに行く
第26話 歌枠と重大発表と、メンヘラの過去
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『徐 行でーす。今日は、歌枠! 平成アニソンを歌うよ~。ウチ、平成世代やからね。昭和歌謡でもええかなって思ったけど、それは次の機会でやるわな』
ワン先輩の実家から帰宅後、ウチはどうしようもなく歌いたかったので、新しい自宅兼スタジオで、カラオケをすることにした。
家で気兼ねなくカラオケできるって、すばらしい!
団地に住んでいた頃は、まさかこんな暮らしができるなんて考えもしなかった。
自分がアイドルになることも、節約貯金どころか投資もやることも。
「一応、ここマンションなんよね。身バレするとあかんよってに、詳細は伏せるけど。スーパーも近所やし、一時間だけ使えるジムもあってね。社長が、ええところを見つけてくださいました」
ただ、ロクに活用をしていなかったなと。
なにをしようか、やってほしいネタをリスナーに募集した。「歌枠してくれ」との要望が多かった。
ここ、アイドル事務所だもんね。歌なら、だいたいみんな知っているし。
映画同時視聴だと、どうしてもウチの趣味に偏ってしまう。
『~♫』
でもしょっぱなで歌うんは、劇場版探偵少年の歌やけどな!
『ええやん! この映画好きやねんよ! やっぱり平成は、この歌から始まらんと! 印象深いし。この映画な、ウチが初めて家族と見に行った映画やねんよ』
リスナーから、「ちょっと、子供向けじゃなくね?」みたいなコメントが来た。
『そうそう。もっと児童向けの作品を見に行ったよ、って親からは言われてるんよ。でも、覚えてるんはこっちやねん。物心ついたときに見たんが、これやねんよね』
両親はその後、ロクに映画なんて連れて行ってくれなかったが。
なので、バイトして自分で行くようになった。
お金が続かないので、DVDを借りるようにもなったが。
ウチの家族は、団地住まいだった。
特に、仲がいいわけじゃない。
家に帰ると、まず両親がケンカ。
父が同僚との麻雀でスッて帰っては、揉める。
母がスロットで負けて帰ってきては、口論になるのだ。
どっちもお酒飲みだったから、声もでかい。
手を上げたりはしなかったが、言葉の暴力がものすごかった。
ウチも姉も、学費にまでは苦労したことはない。とはいえ、毎日生活費はカツカツで。
だが、旅行にもロクに言ったことがなかった。
ウチは本を読むか、DVD見るかの人生だったのである。
続いて、ウチが中高生の頃にかかっていた曲を歌う。
『学生時代はどうやったんか? 友だちはおったよ。でもなぁ、オタクサークルには入らんかった。見学してみたけど、創作系ではなかったんよね。アニメの感想言うくらいでさ。つまらんかった』
もっと自分でなにか会報やら機関誌を出すなら、少しは考えたのだが。
『あのねえ。姉はね、オタサーにおったんよ。「サークルを潰すんが趣味なんか?」みたいな女で、行く先々のオトコを狂わせていくんよ』
サークルだけではなく、バイト先の男性もトリコにしていった。
「姉ちゃんってモテるの?」との質問が、リスナーからくる。
『なんか、モテてんよ。ウチはギャルやったけど、男子からは近寄りがたいって印象やってんて。せやけど姉はねえ、ブサイクではないんやけど普通やってんよ』
見た目はおとなしめで、スキが多かったような気がした。
家庭的で、料理も得意だった。親は何も教えてくれなかったので、自力で料理本を図書館で借りて学んでいたようだ。
だが、レストランに務めると接客ばかりやらされていたらしい。
本人としては、男性以外に愛想を振りまくのはムダと考えていたみたいだが。
『一言でいうと姉は、バイトが変わると男も変わる女やった』
リスナーと爆笑する。
『仕事はするんよ! 仕事は。家族の面倒も見るんよ。大学の費用も、自分で稼いだし』
ウチも、ゴハン作ってもらうのは姉ばっかりだった。
姉だってクラブやバイト、社会人になってからは仕事もしていたのに。
どこにそんなバイタリティがあるのか、わからない。
ウチだったら、家に帰ったらなにもしたくないタイプだっただけに。
短大の学費も、ほとんど親から出してもらっていた。
『せやけど姉は、人間関係のせいで何もかもやめる、典型的な女やったわ』
どこで男をひっかけてくるねん、という女だったなと。
『で、ホストに狂って、ヘラって帰って来るっていうのを繰り返していたなぁ』
仕事はできるため、ウチより社会人としての適応力は高かった。
しかし、男関係にだらしなく、稼いだ金はすべてホストの懐に入っていく。
『いや、なんでこんな話をしたかって言うと、この間屋台で飲んでたんよ。そしたら、ホストが同伴しててさ』
それで、姉を思い出したのである。
『あいつ今、どないしてんねやろ? 捕まることはせんとは思うけど』
ちなみに、姉がひいきにしていたホストは、つい最近刺された。テレビでも、大々的に報じられている。容疑者は掴まったが、姉ではなかったのでホッとしたが。
被疑者も、その男に金を貢ぎまくっていたらしい。で、他の客にばかり色目を使うホストに腹を立てたとか。
『音信不通やけど、大丈夫やろうとは思うわ。表面的には、まっとうな社会人やから』
あくまでも、表面的には、だが。
『Vのタレントやってるんちゃうって? ないない! 絶ッ対ない! Vの存在自体、知らんのとちゃう? ウチのオカンと一緒で、ネットメディアに疎いんで。YouTuberすら、よくわかってへんと思う』
「両親は、お金があるなら仕送りしてこいと言われないのか」との質問が。
『これがねえ。ないのよ。それくらい疎遠で。いてへんもんやと思われてる。短大の学費は返したよ? それっきり会うてない。ウチも、帰るつもりないし』
リスナーから立て続けに質問が。「連絡は?」と来た。
『二年前かな? 引っ越したらしい。父方の実家を譲ってもらったって。両親って、どっちも親戚とは疎遠やってんけど。父から祖父かな? が、亡くなって。でもオカンは「介護したくない!」ってワガママ言うてるみたい』
「元気やから、あんたの世話にはならん!」って、祖母は言っているらしいが。
なんだかんだ言って、ここから両親と祖母が和解できればいいかなと思っている。
身内と縁がないってのは、ウチとだけにしてほしい。
『「アンちゃんは、結婚願望ないの?」っか……ない。これはハッキリ言える。ないなぁ』
元々、男性に興味がない。
別に「女性の方が恋愛対象だ」とは言わないが。
『姉の恋愛遍歴で、ちょっとクズ男を見すぎたアハハ!』
男性のダメな部分しか見てこなかったので、男性に対して嫌悪感しかないのだ。
『結婚してくださいムリムリムリ! ウチ料理もできへんし、子どもを産むとか、なんの想像もできへん!』
「家族を持ったら、自分もあんな両親みたいになるかも」と、ウチは未だに思っている。
むつみちゃんがいなかったら、投資どころか節約や貯金もできなかっただろう。
『というわけで、重大発表です。なんとウチは……ファッションメンヘラでしたー!』
だがリスナーからは、「移籍前から知ってた」と返ってきた。
『うそお! ウチかなり、姉を擬態してみたんやけど!? トレス力には、割と自信あったのに!』
数日後、ハッカむしヨケさんと再会した。
なんと、事務所の会議室で。
「ど、どうも」
「今回お会いしたのは、あなたについてなんです」
「……はい?」
ウチ、なんか、やらかしたか?
「実は、あぶLOVEのタレント様へ楽曲提供する件で、以前から春日社長と打ち合わせをしておりまして」
「は、はあ」
「徐 行さんに新曲を書いてくれと」
「おおおおお!?」
それが、ハッカさんと会社とが和解する条件だという。
(第五章 おしまい)
ワン先輩の実家から帰宅後、ウチはどうしようもなく歌いたかったので、新しい自宅兼スタジオで、カラオケをすることにした。
家で気兼ねなくカラオケできるって、すばらしい!
団地に住んでいた頃は、まさかこんな暮らしができるなんて考えもしなかった。
自分がアイドルになることも、節約貯金どころか投資もやることも。
「一応、ここマンションなんよね。身バレするとあかんよってに、詳細は伏せるけど。スーパーも近所やし、一時間だけ使えるジムもあってね。社長が、ええところを見つけてくださいました」
ただ、ロクに活用をしていなかったなと。
なにをしようか、やってほしいネタをリスナーに募集した。「歌枠してくれ」との要望が多かった。
ここ、アイドル事務所だもんね。歌なら、だいたいみんな知っているし。
映画同時視聴だと、どうしてもウチの趣味に偏ってしまう。
『~♫』
でもしょっぱなで歌うんは、劇場版探偵少年の歌やけどな!
『ええやん! この映画好きやねんよ! やっぱり平成は、この歌から始まらんと! 印象深いし。この映画な、ウチが初めて家族と見に行った映画やねんよ』
リスナーから、「ちょっと、子供向けじゃなくね?」みたいなコメントが来た。
『そうそう。もっと児童向けの作品を見に行ったよ、って親からは言われてるんよ。でも、覚えてるんはこっちやねん。物心ついたときに見たんが、これやねんよね』
両親はその後、ロクに映画なんて連れて行ってくれなかったが。
なので、バイトして自分で行くようになった。
お金が続かないので、DVDを借りるようにもなったが。
ウチの家族は、団地住まいだった。
特に、仲がいいわけじゃない。
家に帰ると、まず両親がケンカ。
父が同僚との麻雀でスッて帰っては、揉める。
母がスロットで負けて帰ってきては、口論になるのだ。
どっちもお酒飲みだったから、声もでかい。
手を上げたりはしなかったが、言葉の暴力がものすごかった。
ウチも姉も、学費にまでは苦労したことはない。とはいえ、毎日生活費はカツカツで。
だが、旅行にもロクに言ったことがなかった。
ウチは本を読むか、DVD見るかの人生だったのである。
続いて、ウチが中高生の頃にかかっていた曲を歌う。
『学生時代はどうやったんか? 友だちはおったよ。でもなぁ、オタクサークルには入らんかった。見学してみたけど、創作系ではなかったんよね。アニメの感想言うくらいでさ。つまらんかった』
もっと自分でなにか会報やら機関誌を出すなら、少しは考えたのだが。
『あのねえ。姉はね、オタサーにおったんよ。「サークルを潰すんが趣味なんか?」みたいな女で、行く先々のオトコを狂わせていくんよ』
サークルだけではなく、バイト先の男性もトリコにしていった。
「姉ちゃんってモテるの?」との質問が、リスナーからくる。
『なんか、モテてんよ。ウチはギャルやったけど、男子からは近寄りがたいって印象やってんて。せやけど姉はねえ、ブサイクではないんやけど普通やってんよ』
見た目はおとなしめで、スキが多かったような気がした。
家庭的で、料理も得意だった。親は何も教えてくれなかったので、自力で料理本を図書館で借りて学んでいたようだ。
だが、レストランに務めると接客ばかりやらされていたらしい。
本人としては、男性以外に愛想を振りまくのはムダと考えていたみたいだが。
『一言でいうと姉は、バイトが変わると男も変わる女やった』
リスナーと爆笑する。
『仕事はするんよ! 仕事は。家族の面倒も見るんよ。大学の費用も、自分で稼いだし』
ウチも、ゴハン作ってもらうのは姉ばっかりだった。
姉だってクラブやバイト、社会人になってからは仕事もしていたのに。
どこにそんなバイタリティがあるのか、わからない。
ウチだったら、家に帰ったらなにもしたくないタイプだっただけに。
短大の学費も、ほとんど親から出してもらっていた。
『せやけど姉は、人間関係のせいで何もかもやめる、典型的な女やったわ』
どこで男をひっかけてくるねん、という女だったなと。
『で、ホストに狂って、ヘラって帰って来るっていうのを繰り返していたなぁ』
仕事はできるため、ウチより社会人としての適応力は高かった。
しかし、男関係にだらしなく、稼いだ金はすべてホストの懐に入っていく。
『いや、なんでこんな話をしたかって言うと、この間屋台で飲んでたんよ。そしたら、ホストが同伴しててさ』
それで、姉を思い出したのである。
『あいつ今、どないしてんねやろ? 捕まることはせんとは思うけど』
ちなみに、姉がひいきにしていたホストは、つい最近刺された。テレビでも、大々的に報じられている。容疑者は掴まったが、姉ではなかったのでホッとしたが。
被疑者も、その男に金を貢ぎまくっていたらしい。で、他の客にばかり色目を使うホストに腹を立てたとか。
『音信不通やけど、大丈夫やろうとは思うわ。表面的には、まっとうな社会人やから』
あくまでも、表面的には、だが。
『Vのタレントやってるんちゃうって? ないない! 絶ッ対ない! Vの存在自体、知らんのとちゃう? ウチのオカンと一緒で、ネットメディアに疎いんで。YouTuberすら、よくわかってへんと思う』
「両親は、お金があるなら仕送りしてこいと言われないのか」との質問が。
『これがねえ。ないのよ。それくらい疎遠で。いてへんもんやと思われてる。短大の学費は返したよ? それっきり会うてない。ウチも、帰るつもりないし』
リスナーから立て続けに質問が。「連絡は?」と来た。
『二年前かな? 引っ越したらしい。父方の実家を譲ってもらったって。両親って、どっちも親戚とは疎遠やってんけど。父から祖父かな? が、亡くなって。でもオカンは「介護したくない!」ってワガママ言うてるみたい』
「元気やから、あんたの世話にはならん!」って、祖母は言っているらしいが。
なんだかんだ言って、ここから両親と祖母が和解できればいいかなと思っている。
身内と縁がないってのは、ウチとだけにしてほしい。
『「アンちゃんは、結婚願望ないの?」っか……ない。これはハッキリ言える。ないなぁ』
元々、男性に興味がない。
別に「女性の方が恋愛対象だ」とは言わないが。
『姉の恋愛遍歴で、ちょっとクズ男を見すぎたアハハ!』
男性のダメな部分しか見てこなかったので、男性に対して嫌悪感しかないのだ。
『結婚してくださいムリムリムリ! ウチ料理もできへんし、子どもを産むとか、なんの想像もできへん!』
「家族を持ったら、自分もあんな両親みたいになるかも」と、ウチは未だに思っている。
むつみちゃんがいなかったら、投資どころか節約や貯金もできなかっただろう。
『というわけで、重大発表です。なんとウチは……ファッションメンヘラでしたー!』
だがリスナーからは、「移籍前から知ってた」と返ってきた。
『うそお! ウチかなり、姉を擬態してみたんやけど!? トレス力には、割と自信あったのに!』
数日後、ハッカむしヨケさんと再会した。
なんと、事務所の会議室で。
「ど、どうも」
「今回お会いしたのは、あなたについてなんです」
「……はい?」
ウチ、なんか、やらかしたか?
「実は、あぶLOVEのタレント様へ楽曲提供する件で、以前から春日社長と打ち合わせをしておりまして」
「は、はあ」
「徐 行さんに新曲を書いてくれと」
「おおおおお!?」
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