借金一千万のメンヘラVTuberが、五千万の借金があった女社長に指導を受けて、資産一億を手に入れるまで

椎名 富比路

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第三章 メンヘラ、投資を開始する

第15話 ラテマネー

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 今まで使用していたPCは、初期化した。
 パーツに分解して、近々電気街へ売りに行く。

「スマホとどちらにしようか、と思いました。ノートパソコンは使わないそうなので」 

 車の運転をしながら、むつみちゃんが言う。

「ああ、うん。ノートがあったら、仕事がデキる女アピールができるんやけどな」

 ウチはノートPCは使わない。身体が弱くて、持ち運べないのだ。
 外で作業するときは、スマホとワイヤレスキーボードを使う。
 また、ゲームをするのでノートでゲームしようとすると、高いスペックが要求される。

 そのため、ノートPC代は必要ない。

「ええし。スマホは契約の問題とかもあるから、自分で買う」

「わかりました。光回線から、ポケットWi-Fiに切り替えるとかはありますか?」

 たしかにポケットWi-Fiがあったら、外でも家でも同じくらいの回線が使えるだろう。
 
「特に外で作業するってことがないから、ええかな」

 ウチは基本インドアだ。
 配信も、ゲーム配信以外はやらない。外でも、スマホで散歩風景を自撮りとかがほとんどだ。
 ブログを本格的に書いているならともかく、外出先で作業はしない。
 家以外で動画編集なんかも、やったことがなかった。

「なら、格安SIMを使っても問題ないかと」

 外配信を特にやらないなら、格安SIMで充分だろうとのこと。
 
「やっす! ええな。格安SIM」
 
「ただ、外で動画をめちゃくちゃ見るというなら、やめたほうがいいのですが」

「ないな。そもそも外に出えへんし」

 やったぜ。これで、お金の問題がちょっと解決した。

 買い物を終えて、お茶にする。
 抹茶ケーキの美味しい店で、一休み。

「この抹茶ケーキ、めちゃうま」

 程よくほろ苦くて、中のアンコが優しい味わいだ。それを、周りの生クリームが上品に包んでいる。なにより、香りがたまらない。
 
「そうですね。今度、あぶLOVEで取材できないか、聞いてみましょう」

「せやね」

 ウチは、コーヒーのカップを置く。

「なんか、こういうお茶の代金も、節約したほうがええんやろうね」

「ああ、『ラテマネー』ですね」

 コンビニコーヒーやちょっとリッチなカフェ、ファーストフード店のお茶など、意識していないドリンクの出費を「ラテマネー」という。
 たいていのお金持ちは、家で代用できるなら買わないんだとか。
 水筒を持参する富裕層は、少なくない。

「節約テクニック系の動画を、色々見てたんよ。その中に、特に必要性のない飲み会とかお茶会は避けろっていうのがあってや」

「はい……」

 自分にとって、特に大事だとは思っていない知り合いの誘いなどは、すべて断れと。
 たいして利益のない相手と、お酒をただ流し込むだけ。
 そんな付き合いは、さっさとやめろと。
 
「せやけどウチは、むつみちゃんとのお茶の時間は大切にしたいんよね」

「ありがとうございます」

 むつみちゃんはウチにとって、大事な人だ。

「実は、とある大物とのコラボを企画中です。詳細は明かせませんが」

「おっ」

「お金のお話として、役に立つかもしれません。その人がお金をくれたり貸してくれたりは、当然ありませんが」

 ん? 誰だろう? コラボ相手って?

「ところでさ、お礼がしたいんやけど」

「いえ、いいですよ。わたしは間に合っていますから」

「アカンアカン! もらってばっかりやん! こんなんテイカーって言うんやろ? 

 世の中には、与えるばっかりのギバーと、もらってばっかりのテイカーという人種に別れるという。
 どちらの属性も併せ持つマッチャーという属性もいるらしいが、たいていはどちらかに偏るらしい。
 
「ウチ、テイカーなんかになりたくない! やってもらったことは、恩返しするねん!」

 ああ、ちょっと声のトーンが上がりすぎたか。

 近くにいたゴスロリ少女が、ビビってる。

「すいません」と、ウチは声のトーンを落とす。
  
 
 だから。

「今度はウチが、むつみちゃんのノートを買ったるわ」

「ありがとうございます」

 むつみちゃんのノートPC代は、ウチが払った。
 といっても、今あるPCのヴァージョン違いだが。

 
 夜は同郷のタコ・カイナと、ゲームコラボ配信である。

「おお、つよつよPCになったから、今まで参加できなかったハイスペックゲームにも参加できるで」

「いいねー。こっちとしては、麻雀とかスイカでの対戦を要求したいところだけど」

「なんやとー? なんでよ?」

「食べながら配信できるから」

 たしかに。【あぶLOVE】が大食い箱だってことを、今になって思い出す。
 所属タレントたちにとって、大食いなのだ。

 今日は、FPSを一緒に遊んでもらう。

 SF世界を舞台にした、チーム戦の一人称ガンシューティングだ。
 壁を塗りつぶすゲームと違って、舞台は荒廃したポストアポカリプス世界である。

 つよつよPCにしたおかげで、ウチがラグで動きが遅くなる心配はなくなった。

 練習では、かなり高いスコアを叩き出す。

「おお、うまいじゃん。対戦行けそうじゃね?」

「おっしゃ。いっちょ、やるか! リスナー相手に、対戦や!」

 配信者チームとリスナーチームに分かれて、対戦をする。
 
 しかし、まったく勝てない。
 
「あーダメだ。ブランクありすぎ。全然勝てなかったね」

「せやな。でも、今回は勝てそうじゃない?」

「いけるか……ほああああ! ウソウソウソ!」

 さっきまで順調だったカイナのキャラが、急に挙動不審になる。同じところを、グルグルと回りだした。その間に、敵に撃たれて死ぬ。

「どうしたん、カイナ?」

壬生ミブ ペーターゼンさんが、見に来てる!」

「ウソやん? どこ?」

「ここここ。スパチャ投げてきてる」

「ホンマや! こんばんはー」
 

 壬生ペーターゼンとは、元最大手の箱にいたヴァーチャル・タレントだ。
 最近は円満退職して、独立。個人勢として活躍をしている。
 個人事務所兼スタジオを建てたとき、三五年ローンを組んだというのが話題になった。
 マッスルカーを二台持っていることでも、知られている。ぶっちゃけそのマシンを置く場所を、事務所に作り変えたというが。

 
「ぺーちゃんが見てるんなら、恥ずかしい試合ができんぞ」

「せやけど、もう遅くない?」

「あー。ホントだ。陣地取られて、あー」

 結局、このチーム戦も落とすことに。
 
「ペーターゼンさんが見に来たとき、明らかに動揺してたもんな」

「そうそう! ぺーちゃんさ、アタシと同じママだからさ、『姉妹配信になってる!』って、コメントも盛り上がったよな。手が震えちゃった!」

 同じママといえど、壬生ペーターゼンは、天上界の人だ。
 元の箱のスケールも、所有財産もまるで違う。

「いや。一勝くらいはさしてやりたかったけどね。今日は強いチームにばっかり当たった。すまん」
 
「ええって。こちらこそ、ウチのわがままに付き合ってもろてゴメンやで。コラボゲーム実況、ありがとうな」

「どういたしまして。ほな、ラストの対戦いってみよー」

 ウチらは、泣きの一戦を開始した。

「お詫びに、告知とかあったらどうぞ」

「おっ! 気が利くじゃないのー」

 嬉々として、カイナの声のトーンが上がる。

「実は六月頃、アタシのアクスタが、クレーンゲームの景品として出ます。ゲーセンに並ぶから、みんな取ってね」

 他にも、マグカップやタオルなどが、専用のネットショプで買えるという。

「サインとか書きまくったからさー。マジで買ってもらいたい」

「ところでさ、聞きたいんやけど」

「スパチャとグッズって、どっちが売れたらうれしい?」

「ぶほおおお!」

 急に、カイナのキャラが棒立ちになる。そのまま、敵に撃ち抜かれた。
 ラストなのに、不甲斐ない形でのゲームオーバーに。

「そそそ、それは、タレントに聞いたらあかんヤツやからぁ!」

 草を生やしながら、カイナが地元言葉で語りだす。
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