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第三章 メンヘラ、投資を開始する
第12話 個別株か、投資信託か
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「では、これからは、本格的に投資を行いたいと思います」
「おねがいします」
まずは、NISAなどの非課税制度の説明を受ける。
現時点では、非課税の枠に一八〇〇万円もの投資が可能だ。
一八〇〇万か。大手の箱だったら、一晩で埋められそう。
「ああ、現段階では、年間投資上限枠は、三六〇万円までです」
それでも大手なら、はした金で埋められるだろうな。
「有名YouTuberだと、二億飛んできたっていうし」
「そういう方なら、投資をしなくても生きていけるでしょうね。するとしても、むしろ節税対策でしょう」
金を稼ぐほど、多額の税金を持っていかれる。
「国からのカツアゲ」と表現しているVもいた。
「特定の商品に投資ができる枠と、できない枠がありますので、それだけ注意してください。ひとまず目標は、枠を埋めることでしょうか」
ただし月に三万円投資では、枠を埋めるのに五〇年かかるとか。
気が遠くなる。
そもそもウチのようなフィジカルよわよわ人間では、五〇年も生きられないだろう。
「生活防衛資金を、つぎ込むのは?」
「ダメです。値下がりしたら、心に余裕がなくなります」
定期的な積立貯金で、「生活防衛資金を確保」する。
人生のイベントか事故・病気などのトラブル以外では、絶対に手を付けない。
ウチが確実に貯金できる金額は、せいぜい三万円くらいだ。
とはいえ投資を続けていれば、欲が出てさらに増額したくなるとか。
「あくまでも、投資は余剰資金で行うのがベストです。今は少額ですが、そのうち金額も増えていくでしょう」
ホンマやろか? と思ったが、むつみちゃんの言葉を信じることにした。
「基本的なことですが、副業、貯金、節約がメインですね。中でも一般的な副業は、【ギグワークス】です。単発のお仕事ですね」
「たとえば?」
話を聞こうとした直後に、玄関のチャイムが鳴る。
デリを頼んでいたんだった。
「それです」
個人の出前業も、ギグワークスに含まれるという。
「ただ、力仕事ですし意外と経費もかかります」
デリに使う自転車や車は、自前で用意する必要がある。
そういえばウチも、日雇い労働者系YouTuberが、安いカブを手に入れて出前に励む動画を見たことがあった。
「事故のリスクもありますし、多少の接客スキルがないとお客からの評価も下がります。オススメはしません」
まだ、ポイ活している方がマシだという。
あれも、立派な副業になるらしい。
「ほんで、投資やけど、どの会社を買えばいいん?」
「個別の会社は買いません。【インデックスファンド】を買います」
インデックスファンドとは、市場全体の動きを表す代表的な指数に連動した成果を目指す投資信託のことである。
「日経平均とか?」
「まあ、そんなところです」
投資信託とは、「投資家から集めたお金をまとめて、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品」のことを指す。
「他にも【アクティブファンド】という商品があります。こちらは、人間が買います。インデックスファンドは、コンピュータが買います」
運用の専門家が、「自力で」投資するファンドのことをいうらしい。
ただし、過去の統計から見て、アクティブファンドがインデックスに勝てる見込みはないそうだ。
「で、投資先ってどこにしたらええの?」
「基本は、アメリカか、全世界です」
世界の中心は、現時点ではアメリカだ。
アメリカは人口増加もいまだ顕在で、世界じゅうの会社が集まっている。
もはやアメリカに投資しているだけでも、全世界に投資しているのと同じだとか。
「全世界は、文字通り全世界の会社に投資をします」
欧米だけでなく、日本も含まれるそうだ。
「あのさ、日本って今、景気がいいそうやん? 投資したらアカンの?」
ウチだって、ニュースにはちょっとだけ目を通す。
最近だと、「日経平均が最高値!」という話題が目立つが。
「どうでしょうか。これまでの日本の動向を見る限り、投資先としての魅力には欠けますね」
むつみちゃんは、首を傾げた。
特定の会社は、たしかに業績はいい。
しかし、日本は少子高齢化が進みすぎた。
今後は労働力が、目に見えて落ち始める。
そんな国に投資をしても、値下がりを黙って見ているしかないだろう、とのこと。
「特定の企業は、なんらかの対策をしているはず。なので、個別銘柄としては買ってもいいでしょう。とはいえ、難しいです。よって、候補からは外れますね」
個別株に詳しくなって、余裕資金があれば、日本企業へ投資もアリだという。
とりあえず、今は考えない。
「あとさ、インドは?」
「インドも、悩ましいところです」
学習が行き届いているからか、インドは経済成長が著しい。
「とはいえ感想としては、インドが世界の中心になるかどうかは疑問なんですよね。インフラ整備も、これからだそうですし、『成長』には期待できますが、『成熟』するかと言われると謎なんですよね……」
現時点のままでは、インドの個別株投資を日本で購入できないそうだ。
投資信託など、少額のファンドを買うしかない。
「最悪のパターンとして、バブルが弾けて日本みたいな『失われた〇〇年』が始まってしまうことです。となると、なんのために投資したのか」
「マジか。それはアカンな」
「インドが自由経済国家になるかもしれませんし、ならないかもしれない。不確実性が高すぎるんですよね」
なのでむつみちゃんも、様子見をしている状態だという。
投資するとしても、少額でやっていくらしい。
「それとリアンさん、これは覚えておいてください。『オススメされている段階で、もう遅い』のだと」
注目されている段階で、すでに投資上級者に買われている。今の段階で手を出しても、割高なだけなんだとか。
「だから、成熟しているアメリカがええってことやね?」
「はい。少なくとも大手中の大手なので、大きく崩れる心配は少ないです」
「そうなん? もっと値動きとか見てないとアカンねやと思ってた」
「それは、デイトレードですね」
投資家の中には、投資信託で組む銘柄なんて自分でセッティングすればいいと考える人もいる。その方が儲かるし、ちゃんとした投資の勉強になると。
「わたしとしては、オススメはできません。アンさんは、ロナルド・リードをご存知ですか?」
「なんやったっけ。聞いたことがある。遺産がえげつなかった人やろ?」
「はい。生涯で八〇〇万ドル稼いでいたという、伝説の投資家です」
彼は、三〇代から投資を始めていて、それから六〇年ずっとほったからかし投資を行っていた人物だ。
「証券会社の人が見ても、貧乏そうと思ったらしいです。ボタンの取れたコートを、安全ピンで固定して着ていたそうですよ」
だが、遺産を整理していたら、投資金額が日本円で九億円にまで膨れ上がっていた。
いわばリード氏は、「世界一金持ちのフリーター」である。
「投資を始めて六〇年もの間、彼が買っていたのは、個別株だったそうです」
「すごいやん。個人投資家バンザイやんけ」
「ですが、彼の投資成績は、アメリカ優良企業の指数に連動したインデックスファンドに負けていた、というデータもあるんです」
なので、投資信託がおすすめだとか。
「投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットなる人物がいるんですが」
「ああ、日本株を押し上げた人やねんてな?」
「よくご存知で」
その投資の神様でさえ、奥さんに「自分が死んだら、投資銘柄は全部アメリカの指数に連動したファンドを買え」と伝えているという。
それくらい、投資は難しいのだ。
「おねがいします」
まずは、NISAなどの非課税制度の説明を受ける。
現時点では、非課税の枠に一八〇〇万円もの投資が可能だ。
一八〇〇万か。大手の箱だったら、一晩で埋められそう。
「ああ、現段階では、年間投資上限枠は、三六〇万円までです」
それでも大手なら、はした金で埋められるだろうな。
「有名YouTuberだと、二億飛んできたっていうし」
「そういう方なら、投資をしなくても生きていけるでしょうね。するとしても、むしろ節税対策でしょう」
金を稼ぐほど、多額の税金を持っていかれる。
「国からのカツアゲ」と表現しているVもいた。
「特定の商品に投資ができる枠と、できない枠がありますので、それだけ注意してください。ひとまず目標は、枠を埋めることでしょうか」
ただし月に三万円投資では、枠を埋めるのに五〇年かかるとか。
気が遠くなる。
そもそもウチのようなフィジカルよわよわ人間では、五〇年も生きられないだろう。
「生活防衛資金を、つぎ込むのは?」
「ダメです。値下がりしたら、心に余裕がなくなります」
定期的な積立貯金で、「生活防衛資金を確保」する。
人生のイベントか事故・病気などのトラブル以外では、絶対に手を付けない。
ウチが確実に貯金できる金額は、せいぜい三万円くらいだ。
とはいえ投資を続けていれば、欲が出てさらに増額したくなるとか。
「あくまでも、投資は余剰資金で行うのがベストです。今は少額ですが、そのうち金額も増えていくでしょう」
ホンマやろか? と思ったが、むつみちゃんの言葉を信じることにした。
「基本的なことですが、副業、貯金、節約がメインですね。中でも一般的な副業は、【ギグワークス】です。単発のお仕事ですね」
「たとえば?」
話を聞こうとした直後に、玄関のチャイムが鳴る。
デリを頼んでいたんだった。
「それです」
個人の出前業も、ギグワークスに含まれるという。
「ただ、力仕事ですし意外と経費もかかります」
デリに使う自転車や車は、自前で用意する必要がある。
そういえばウチも、日雇い労働者系YouTuberが、安いカブを手に入れて出前に励む動画を見たことがあった。
「事故のリスクもありますし、多少の接客スキルがないとお客からの評価も下がります。オススメはしません」
まだ、ポイ活している方がマシだという。
あれも、立派な副業になるらしい。
「ほんで、投資やけど、どの会社を買えばいいん?」
「個別の会社は買いません。【インデックスファンド】を買います」
インデックスファンドとは、市場全体の動きを表す代表的な指数に連動した成果を目指す投資信託のことである。
「日経平均とか?」
「まあ、そんなところです」
投資信託とは、「投資家から集めたお金をまとめて、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品」のことを指す。
「他にも【アクティブファンド】という商品があります。こちらは、人間が買います。インデックスファンドは、コンピュータが買います」
運用の専門家が、「自力で」投資するファンドのことをいうらしい。
ただし、過去の統計から見て、アクティブファンドがインデックスに勝てる見込みはないそうだ。
「で、投資先ってどこにしたらええの?」
「基本は、アメリカか、全世界です」
世界の中心は、現時点ではアメリカだ。
アメリカは人口増加もいまだ顕在で、世界じゅうの会社が集まっている。
もはやアメリカに投資しているだけでも、全世界に投資しているのと同じだとか。
「全世界は、文字通り全世界の会社に投資をします」
欧米だけでなく、日本も含まれるそうだ。
「あのさ、日本って今、景気がいいそうやん? 投資したらアカンの?」
ウチだって、ニュースにはちょっとだけ目を通す。
最近だと、「日経平均が最高値!」という話題が目立つが。
「どうでしょうか。これまでの日本の動向を見る限り、投資先としての魅力には欠けますね」
むつみちゃんは、首を傾げた。
特定の会社は、たしかに業績はいい。
しかし、日本は少子高齢化が進みすぎた。
今後は労働力が、目に見えて落ち始める。
そんな国に投資をしても、値下がりを黙って見ているしかないだろう、とのこと。
「特定の企業は、なんらかの対策をしているはず。なので、個別銘柄としては買ってもいいでしょう。とはいえ、難しいです。よって、候補からは外れますね」
個別株に詳しくなって、余裕資金があれば、日本企業へ投資もアリだという。
とりあえず、今は考えない。
「あとさ、インドは?」
「インドも、悩ましいところです」
学習が行き届いているからか、インドは経済成長が著しい。
「とはいえ感想としては、インドが世界の中心になるかどうかは疑問なんですよね。インフラ整備も、これからだそうですし、『成長』には期待できますが、『成熟』するかと言われると謎なんですよね……」
現時点のままでは、インドの個別株投資を日本で購入できないそうだ。
投資信託など、少額のファンドを買うしかない。
「最悪のパターンとして、バブルが弾けて日本みたいな『失われた〇〇年』が始まってしまうことです。となると、なんのために投資したのか」
「マジか。それはアカンな」
「インドが自由経済国家になるかもしれませんし、ならないかもしれない。不確実性が高すぎるんですよね」
なのでむつみちゃんも、様子見をしている状態だという。
投資するとしても、少額でやっていくらしい。
「それとリアンさん、これは覚えておいてください。『オススメされている段階で、もう遅い』のだと」
注目されている段階で、すでに投資上級者に買われている。今の段階で手を出しても、割高なだけなんだとか。
「だから、成熟しているアメリカがええってことやね?」
「はい。少なくとも大手中の大手なので、大きく崩れる心配は少ないです」
「そうなん? もっと値動きとか見てないとアカンねやと思ってた」
「それは、デイトレードですね」
投資家の中には、投資信託で組む銘柄なんて自分でセッティングすればいいと考える人もいる。その方が儲かるし、ちゃんとした投資の勉強になると。
「わたしとしては、オススメはできません。アンさんは、ロナルド・リードをご存知ですか?」
「なんやったっけ。聞いたことがある。遺産がえげつなかった人やろ?」
「はい。生涯で八〇〇万ドル稼いでいたという、伝説の投資家です」
彼は、三〇代から投資を始めていて、それから六〇年ずっとほったからかし投資を行っていた人物だ。
「証券会社の人が見ても、貧乏そうと思ったらしいです。ボタンの取れたコートを、安全ピンで固定して着ていたそうですよ」
だが、遺産を整理していたら、投資金額が日本円で九億円にまで膨れ上がっていた。
いわばリード氏は、「世界一金持ちのフリーター」である。
「投資を始めて六〇年もの間、彼が買っていたのは、個別株だったそうです」
「すごいやん。個人投資家バンザイやんけ」
「ですが、彼の投資成績は、アメリカ優良企業の指数に連動したインデックスファンドに負けていた、というデータもあるんです」
なので、投資信託がおすすめだとか。
「投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットなる人物がいるんですが」
「ああ、日本株を押し上げた人やねんてな?」
「よくご存知で」
その投資の神様でさえ、奥さんに「自分が死んだら、投資銘柄は全部アメリカの指数に連動したファンドを買え」と伝えているという。
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