借金一千万のメンヘラVTuberが、五千万の借金があった女社長に指導を受けて、資産一億を手に入れるまで

椎名 富比路

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第二章 メンヘラ、投資を学ぶ

第9話 リスナーの金銭感覚を聞いてみた

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 それは、一日前のこと。
 この日は、一九時から夜中まで、ずっと配信していた。

「どうも、オモムロ アンです~。人生徐行運転がええよね。では、今日も張り切ってゲームやっていこうか! よろしくおねがいします!」
 
 プレイしていたのは、壁や床を塗りつぶすゲームである。
 このゲームならリスナーと対戦もできるし、逆に協力プレイもできるのだ。

「うわーごめん、左端が甘かった! うわ負けたー!」

 ダメだな。やはり、やり込んでいるリスナーには勝てない。 

「あ~。スパチャ投げありがと~。うわー。結構ええ額くれるやん」
 
 ゲームをしながら、スパチャ読みをする。

「あのさあ、前から、聞きたかったんやけどな?」
 
 ウチは以前から、気になっていたことがあった。

「スパチャのお金って、どっから捻出してるん?」

 リスナーのどこに、そんなお金があるのか。

 ウチに限らず、Vのリスナーはだいたいオタクだろう。
 そんなリスナーたちが、ガチャやグッズ以外にスパチャを投げる金なんて、どこから捻出しているのか。
 ほしいもだって、そうだ。どうやって買ってるねんと。
 太客ならなおさら、金の出どころが気になった。

 彼らとて富豪ではないだろう。

「今からゴハンの用意するから、ちょっとコメントしてや。スパチャは投げんでいいから」

 今日は自炊熱が湧き上がってきたので、自分で作ることにする。
 下手くそでも、楽しかったらいい。
 手軽に、カレーを作ることにした。
 リスナーからもらった海軍カレーでもよかったが、なんか自炊したい気分なのである。
 海軍カレーは料理が億劫になったときか、非常食としていただくことにした。
 幸い、アニメが監修した非常糧食もあるし。あれは半年持つ。
 
 カレーを煮込みつつ、リスナーのコメントを読む。

「ふんふん。結構稼げる企業に勤務していると。稼ぎがええんかな?」

 金の使い道が家賃くらいしかなくて、持て余していると。

「切り詰めてます? アカンで。投資は、余剰資金でやるもんやで。心まで貧乏になっていくから、ちゃんと自分のためにも使い」

 ウチのためにお金を出してくれるのは、素直にうれしい。
 だが、そのために自分の生活を犠牲にするなんて、誰も望んでいないのだ。

「別に精神論で、あんたらを諭すつもりで言うてないからね。単純問題、種銭が枯渇するのよ。そんな生活をしていると」

 爪に火をともす生活なんてしていると、まともな思考にならない。
 ストレスで、判断力も鈍る。

「アカンて! オレの勝手やんけとか、アカンて! ホンマに。自分を大切にしてっ! せやから、ちゃうちゃう! 今しかないねんとか、ちゃうからね。スパチャって、競うもんと違うからね」

 カレーを混ぜながら、コメントに目を通した。

「推しに心配してもらいたいのはわかるけど、それは単純に印象悪いで。気を引こう思ってるんとちゃうかなって見破るから。推しに心配させるとか、そんな印象操作はアカンで。約束な」

 Vだって、人をちゃんと見ているのだ。
 危険な考えの者は、なるべく出さないようにしないと。 

「そんな人ってさ、投資に手を出すとか考えへんかったん?」

 リスナーに質問すると、「知識がない」という意見が大半を占めた。

 そもそも、そういう生活をしようとしている人は、推し活をしない?

「ほお。でもさ、今はFIREだのNISAだの言われてるやん? 投資信託とか、ウチでも聞いたことあるわけよ。そっちで資産を増やしてさぁ、楽に推し活する道だってあるわけやんか。そっちの方向性とかはなかったん?」

 ウチとしては、それこそ配当金だとか、売却益なんかで、推し活をするイメージが見えたのだが。
 
 し ら ん け ど。

「リスナーってさ、そういった金融資産を持って、資産を膨らませつつ推し活もすることはあるの?」
  
 だが、これまた「ない」ときっぱり。

「そんなことに使うなら、推しに費やすか。そうかー」

 やはり、知識がないと手が出ないのだろう。

「あーはいはい。『でも、ゲーム会社に個別投資はしている』かー。なるほどなー」

 他にも、アニメーション会社や、最近上場したVTuber運営会社への投資も経験済みのリスナーがいた。

「はいはい! 『買った途端に半値になりました』と! はいはい! それで投資が怖くなりました、と。うわーっ。怖い」

 ウチも、個別株投資はやらんかなぁ。

「カレーができたんで、食べたいと思います。いただきまーす」

 今日のメニューは、ポークカレーだ。
 料理は、やれるうちにやっておかないと、習慣がつかない。
 苦手でもいいから、自炊するクセをつけておくか。
 しばらく自炊してみて、向いてないと思ったら、きっぱりデリに頼ることにしよう。
 
 できあがったカレーを頬張りつつ、コメントを読み漁る。
 
……ん?

 食べてみて思ったのは、いうほどおいしくはなかったことである。
 カレーって、誰が作ってもウマいはずなのに。
 
 むつみちゃんと、何が違うんだろうか?

「えー、なんかおいしくない。社長が作ってくれた料理は、あんなにおいしかったのに」

 何度も首をかしげていると、有意義なコメントが。

「社長がいないからちゃう? なるほどね!」

 むつみちゃんといっしょに食べてないから、おいしく感じないのか。
 たしかに、誰かのために作らないと、料理って身につかないかも。

「わかるわ。ウチは、親とも疎遠やったし。親とはケンカばっかりしとったさかい。親のために料理はせんかったなぁ。親も親で共働きやったから、なんも教えてくれへんかったし」
 
 親の話をすると、悲しくなってきた。リスナーとの話に戻る。

「では、カレーを食べている間に、リスナーにアンケ取るわ。金融資産を持ってるかどうかは……後で聞こうか。NISAやってますか? でええか」

 アンケートを書き、コメ欄に載せた。
 カレーを食べながら、結果を待つ。

「あー。仮想通貨ね! やっぱり、失敗した人もいるんやね。何割かは。うん、あれは博打か。そうかそうか。うん」

 推し活を継続するため、振り幅の高い投資に手を出した人もいるようだ。
 しかし、成績は芳しくない人ばかり。

 
「ほんならさ、ウチが投資はじめましたってときはさ、うれしくなかったんかな?」

 オタクの中には嫌儲主義というか、お金の話を嫌う人が多数いる。

 なぜかと思うが、現実から離れたいのかな、と。
 
 現実的な話をしないために、オタ活をしている人もいるのだろう。

 とはいえ、ウチの投資話は、好意的な意見が多い。
 
「ほーっ。投資なら、推しがスパチャを運用してもらうほうがいいって? そういう見方もあるんか」

 自分より、推しが潤う方がうれしいと。ふむふむ。
 
「みんなで投資を始めてウィン・ウィンとか、ないんかー。ああ、そっちは投資詐欺の手段になってまうと。はいはい。たしかにな。そう見られても、しょうがないわな」

 メンバー限定にして投資情報を流すとか、もろインサイダー取引になりそう。
 インサイダー取引ってどんなんか、しらんけど。
 
「えっと、『どういう感じの話になりそう』か。うーんどうやろ? まずは、ノウハウ系にはならんわ。それは安心して」

 投資のノウハウなんて、こっちが知りたいくらいだ。

 ウチだって、投資信託と個別株の違いなんて、まるで知らない。
 名前しか知らないレベルなので、知識はリスナーと同レベルだろう。

「基本、ウチがワケわからんまま投資して、生活資金が足らんようになってあたふたしてるさまを披露することになるんとちゃうか? せやろ。みんなが見たいんはそっちやんね? ね?」


 うまく話がまとまったところで、飲酒を解禁した。

 そのときの時刻は、二二時だったか。

 そこからの記憶が飛んでいる。

 むつみちゃんに起こされるまで、なにも覚えていなかった。
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