借金一千万のメンヘラVTuberが、五千万の借金があった女社長に指導を受けて、資産一億を手に入れるまで

椎名 富比路

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第一章 メンヘラ、借金を背負う

第4話 メンヘラ、部屋を片付ける

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 食後、むつみちゃんはタクシーを呼んだ。
 ウチを同席させて、ウチの家に向かう。   
 
「ムリムリ! アカンって、むつみちゃん! ホンマ今日はアカン!」

 ウチの家は、部屋が散らかっているなんてレベルではない。
 ネコがイタズラしたのかってほど、ひどい有り様だ。

「アカンから、片付けるんです。リアンさん」

 むつみちゃんは、引き下がらない。
 
「事務所移籍してからの撮影一発目は、片付け配信です」

 堂々と、むつみちゃんがウチのチャンネルを乗っ取っていた。

「ちょっと! サムネまでできてるし!」

 片付け配信を予告するサムネイルが、Youtubeにアップされている。 
 しらすママが、張り切ってサムネを用意してくれたらしい。
 
「片付けなんて、投資に意味があるん?」

「おおありです。特にモノの整理は、節約につながるんですよ」

「そうやっけ?」

「はい。人はモノに囲まれすぎると、正確な判断が難しくなります。モノに思考が支配されてしまうんです」

 モノを大量に持っていると、そのモノを直すスペースも必要になる。

 だがスペースが空くと、またモノで埋めたくなる習性があるのだ。

「これで、無限ループの完成です。お金持ちになる第一歩は、自分に必要な品物を、自分でちゃんと把握しているかどうかなんです」

「そう簡単に行くんかな?」

「いかなくていいんです。片付けは、少しずつキレイになっていけばいいので」

 一日でダーッとやってしまおうとするから、片付け下手くそ勢は挫折するのだという。

 少しずつモノを減らしていき、キレイにしていく。

「せやけど、ウチの部屋を見たら、心が折れてしまうかも」

「折れても、また修繕すればいいので」

 メンタル、つよつよすぎぃ!

「あと、今日はゲストの方もお呼びしています」

「ゲストが? むつみちゃん自身が、司会を回せせへんの?」

 元V界隈トップレベルの、タレントだったのに?
 
「社長のわたしが出しゃばると、『タレントをえこひいきしている!』と、思われてしまうので」

 ゲストの名前を聞いて、ウチはすこし安心する。
 あいつなら、大丈夫だ。

 ウチたちは、マンションに到着した。
 
「ほな、空けるで」

 キーを回し、扉を開ける。

「おお、これはまた、片付け甲斐のある部屋ですね」

 むつみちゃんは、ちっともドン引きなんてしなかった。
 状況を冷静に、分析している。
 どのゴミをどうすればいいのか、頭で整理できているかのよう。

「慣れてるんやね?」

「他のVの子は、生ゴミが産卵していました」

「散乱じゃなくて?」

「はい。散乱もしていましたが、産卵も。あの茶色い物体が」

 うわああ。

「ほな、片付けを」

「お待ちを。その前に配信をしないと」

 そうだった。この惨状を自力で片付けるのが、今回の配信テーマだったっけ。

「スマホだけでいいです。撮影はわたしがしますので、リアンさんは、片付けに専念してください」

「OKOK。おおきに」

「では時間なので、始めます」

 むつみちゃんの合図で、撮影が始まった。
 
「どうも~。人生徐行運転系VTuberの、オモムロ アンで~す。はじめましての人は、はじめましてかな? 元からのリスナーさんたちは、いつもありがとうな。さて。事務所を【あぶLOVE】に移籍して一発目の配信ということで、お片付け生配信です~」

 ドンキで買った馬マスクで顔を覆い、ウチは部屋を手で指し示す。

「ごらんください」

 ウチの腕に合わせて、むつみちゃんがスマホを移動させていく。

「この段ボールの山! 今から、このあたりを片付けていこうと、思います」

 部屋の中なので、比較的おとなしめのテンションで話す。

「今日はね、ウチのお友だちも参加しているので。どうぞ」

 ウチが言うと、むつみちゃんが自分のスマホを用意した。

「いえーい。毎度ー。たこ焼き屋の【多古タコ カイナ】ですー」

 デフォルメされたタコのアバターが、スマホ画面でフヨフヨと浮いている。

 この子は元々、あぶLOVE所属のタレントさんだ。
 ウチが事務所を移籍してもなお、交流してくれるらしい。

「今日から同期やからな。よろしゅうに」
 
「いえーい。よろー。アンちゃん、ようやくお片付けをする決心がついたんだ?」

 カイナが、ウチに声を掛ける。

「せやねん。事務所を移籍したやん? やっぱりさ、心機一転せんと」

「だよねー。アタシがオフでそっちの部屋に行ったときさー。もう足の踏み場がないなんてレベルじゃなかったもんね。『どこでゴハン食べるの?』って」

「泊まりに来たけど、日帰りしたんよね」

 鼻をつまみながら。

「そうそう! こんなところで寝たら、ゴミに犯される! って思った」

「ひどい!」

「でも、それくらいヤバイよ。あんたの家は」

「だから、今後は人も呼べるような家にしますさかい」

「お願いしますねー」

 むつみちゃんが、カイナが映っているスマホをシューズラックに。

「こちらの配信は、こちらでも見られますか?」

 小さい声で、むつみちゃんがカイナと話し合う。

「目線もうちょっと、上のほうがいいかな? お願いできますか、社長?」

「はい。やってみます」

 むつみちゃんが、脚立を用意する。

「うわ。脚立を置く場所さえ確保できない」

「はいはい。片付けますよ」

 ポイポイポイと、玄関の外に段ボールを放り出す。通路を塞がないように、ちゃんとビニールヒモでくくって、と。

 その後、玄関脇のメタルラックにスマホを吊るすことに。

 これで、あちらもウチの光景が配信できる。

「玄関からして、靴がエグいよね?」

「せやねん。靴が溢れてる」

 玄関周りを片付けようとしたとき、カイナが「待った」をかけた。

「とにかくさ、アンちゃん。とにかく、地面を見えるようにして。生活動線と、寝床を確保しよう! このままじゃ、いつまで経っても身体が休まらないからさ」

 ひとまず玄関は段ボールだけ片付けて、シューズやヒール類は後日整理せよとのこと。
 たしかに、靴だけで一日仕事になってしまう。
 
「任せなさい」

 ウチは、お着替えの服を洗濯機に放り込んでいく。
 
「あのさー。寝床に下着放置とか、意味わからんわ」

「たしかにな。アンタの家に入ったとき、ウチの部屋とはまるで違ってたよな!」

 多古 カイナの家は、こことは違ってめちゃ片付いている。

 まあ、オトコと同居しているからなのだが。

「ところで、なんで標準語なん? 同じ堺市民やんけ?」

 カイナとは、学校こそ違うが同い年だ。
 ウチが南区の、団地住まいである。むつみちゃんはウチのいた団地の下にある、分譲に住んでいた。
 
 カイナは「屋台のたこ焼き屋の看板娘」という設定なのに、お金持ちが住む西区・浜寺出身だ。お嬢様ムーブを時々するので、キャラに合わなくて炎上する。
 
「そりゃあアンタ、リスナーの混乱を防ぐためやん」

 関西弁で、反論された。

「前にアタシの配信でさー、アンタとBL論争したときあったやん。それでリスナーからクレーム来たんよ。『どっちがしゃべってるか、わからん』って」

「はいはい。切り抜きで、えらい言われたよな」

 手を動かしながら、カイナの話を聞く。

「あんたは実家に、部屋を片付けなさいって言われた?」

「言われたよ」

 またカイナが、標準語に戻る。

「しつけが厳しかったからね。アタシの家は。だからその反動で、V活をやってるんだけど」

 三姉妹の次女で、カイナだけが定職につかなかった。
 姉が銀行員で、妹が先生だったか。

 とはいえ、カイナが干物に近いのは、オトコのせいではない。
 カイナのカレシはしっかり者で、カイナのアシスタントをやりつつ家事もこなし、食事も用意してくれる。特に飼い犬の世話は、プロ級らしい。
 カイナは元々が、だらしないのだ。

 とはいえカイナは夜型人間なので、単に生活リズムが人と違うだけ。
 日常生活に支障が出るレベルの、だらしなさはない。

「おっ。地面が見えてき……ぎゃああああ!」

 地面が見えた瞬間、ウチの青紫の下着が出てきた。
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