転生メスガキ、苦手な食べ物を克服させるだけで勇者を最強に育てる!

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
5 / 9

ピーマン苦手な勇者だなんて、普通にザコザコ

しおりを挟む
「勇者ピッキーって、ピーマンも普通に食べられないのね。ザッコ」

 あたしは、ピーマンの肉詰めをモッシャモッシャ食べる。

 魔王に仕える四天王の一人が収めていた塔を、攻略したばかりだ。

「せめてものおもてなしを」とのことで、ピーマン料理をいただいている。

 この街は、冒険者の初期装備である「竹の槍」の名産でも知られていた。
 驚いたことに、竹は魔法使いの杖としても愛用されている。あたしも魔法の触媒には、ここの竹を使用しているくらいだ。
 エジソンが電球を開発する際に使用していただけあり、やはり竹は魔力の伝導率が高いみたい。
 よく考えたら、おとぎ話に出てくる魔女のホウキも、持ち手は竹だったわね。

 で、この街の名産が、竹とピーマンである。

 出された夕飯は、タケノコごはんと、ピーマンのハンバーグ詰め、ラーメンだ。

「まあ、そういうなって。オイラも苦手だぞ」

「百合に挟まれる三人衆」のひとり、盗賊のマレリーも、ピッキーと同じようにピーマンがキライだ。
 ハンバーグのピーマンだけを、残している。

「でもあなたと違って、勇者はタケノコは食べているわよ?」

 勇者ピッキーも、タケノコは食べるのだ。
 タケノコごはんは、おいしそうに食べている。
 案外、高級品だと思うんだが。それも、日本人の感覚だからなのだろう。
 異世界では、割とメジャーな食べ物なのかもしれない。

「その辺に生えてる、雑草じゃん。あんなの、何がうまいんだってのー」

「そうだそうだ」
 
 同じようにタケノコに手を伸ばさないハッサンと共に、ラーメンをすする。
 メンマとナルト、チャーシューのついた、昔ながらの中華そばだ。
 異世界に「中華」なんてないが。

 ひょっとすると、異世界ではタケノコって、雑穀扱いとかだろうか?

「その割には、二人はおいしそうにメンマを食べているじゃない」

「おう。コリコリしてうまいんだよな」

 ハッサンに至っては、メンマのおかわりまでしている。

 あたしは、どんぶりの中に入っているメンマを取り出した。
 
「メンマの原料は、さっきあなたが『その辺に生えている』と形容した雑草なんだけど?」

「マッ!? メ、メンマの原料が、竹だっていうのか?」

 マレリーが、お箸からメンマを取り落とす。

 メンマがタケノコであることは、本当だ。
 タケノコを蒸して一ヶ月ほど乾燥させたものが、メンマである。
 中国や台湾に、メンマ専用のタケノコがあるらしいけど。

 異世界のメンマは、それに勝るとも劣らない。
 
「どう? 竹も案外、おいしいもんでしょ?」

「おお。デリン。お前、オイラたちのスキキライまでなくして、オイラたちまで百合に溺れさせようってか?」

「てえてみが深い」

 マレリーとハッサンが、青ざめていった。

「ないわよ。安心して食べなさい」

 あたしはただ、竹の偏見をなくしたいだけだ。

「いやあ、竹ヤブでタケノコを取ったときを思い出しますな、勇者よ!」

 ユリー二世がピッキーに声を掛ける。

「そうだな。しかし、成長しすぎたタケノコは、あまりありがたがられなかった」

 タケノコは、成長して青くなると、竹になってしまう。そうなると、もう食べられなくなる。流しそうめんの台にでも、するしかないだろうな。

「子どもが苦手な野菜といえば、ニンジンとピーマンはほぼツートップじゃないのかー?」

「かもしれないわね。あたしも子どもだったときは、ピーマンが苦手だったわ」

 あたしが言うと、ピッキーがあたしの肩を掴む。
 
「デリン! どうやって克服したのか、ぜひ聞きたい!」

「そんなにガッツかなくても、教えてあげるわよ。そうねえ」

 あれは、母親が作ってくれた料理である。
 
 当時はそれほどメジャーではなかったが、無限ピーマンという料理が開発された。

「ツナとピーマンを和えたものよ」

 たしか、ツナの水煮、細ぎりにしたピーマンを使う。
 で、一緒に和えてレンチンし、コショウをかけたらできあがりだ。

「デリン。ツナってなんだー?」
 
 マレリーのリアクション通り、ここにはツナがなかった。
 マグロはあるが、ツナのような保存食品がないのだ。

「でも、うまそうだな。ピーマンって、なにがうまいんだ?」

「食感かしら? 慣れると、苦みもクセになるものよ」

「そうかー。いただきまーす」

 ガマンして、マレリーがピーマンをかじる。

「ううーん、オイラにはまだ早かったかもしれんなー」

「ムリをする必要はないわよ」

 マレリーを強くしたところで、勇者ほど強く慣れるわけじゃない。

「いつものように、ピッキーでも食べられそうなアイデアを考えるわ。ささ、食べさせてみなさいよ」

「わかった。あーん」

 毎度おなじみ、ピッキーによる食べさせっこを始める。

 焼いているためか、コリコリ感はなくなっていた。
 その分、しっとり感が肉と混ざっている。
 苦みが舌を支配する分、肉の旨味がさらに引き立った。
 スキキライを克服させてくれた、母親には感謝だな。

 とはいえ、これは強敵だ。 

 さすがに、勇者にピーマンを食べさせるのは無理だろうか?

 あたしが長考モードに突入していると、運悪く魔物が襲ってきてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...