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第4話 シイタケを食べられない勇者に負けるなんて、クソザコ
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このキノコヤロウを打倒できるレシピが、完成した。
あとは、調理して食べさせるのみ。
スーツケース型アイテムボックスから、あたしは鉄鍋を取り出す。
火の玉を浮かべて、その上に鍋を置いた。火を通した後、油を引く。
「ピッキー、まずはお肉を食べてもらうわ! 生卵をかき混ぜながら、待っていて!」
「わかったよ、デリン!」
小鉢と生卵を、ピッキーに投げ渡す。
ピッキーは、器用にキャッチした。
あたしは熱した鉄鍋に、おしょう油とお砂糖を混ぜた割下をドババーっと注ぐ。
「さて、このミスジ肉をじゅんわーっと焼く!」
牛の肩甲骨から手首までのところにある肉を、ミスジという。
すき焼きでも、特に美味しい部分だ。
「おおおお! 今から食べるのが楽しみだ!」
「はいピッキー。召し上がれ」
「いただきます!」
ピッキーが溶いた生卵に、お肉をからめる。
「ふわああ。肉が一瞬で溶けたよ、デリン。なのに、この満足感はなんなんだ? 心が満たされていくよ!」
「まだ、もっと沼らせてあげるわ」
続いて、この割下に野菜などの具材を。
「ウチはすき焼きに、白菜を入れるの。水が出るから、割下をマイルドにしてくれるのよ」
味が薄まるから、白菜のすき焼きを嫌がる人もいる。
だが、ウチには秘密兵器があるからいいのだ。
「じゃじゃーん。これに、キノコをドバっと!」
「……ゴクリ」
あれだけシイタケを嫌っていたピッキーが、ノドを鳴らす。
「さて、白菜、おネギ、シイタケをよそってあげるわ。さっきのお肉と一緒に、めしあがってちょうだい」
「うん。いただきます!」
ピッキーは、シイタケだけを口へと運ぶ。
「デリン、ボクはどうしてキノコを嫌ったいたのか、今はわからなくなってしまったよ」
「そうでしょ?」
「噛めば噛むほど、旨味が溢れ出てくるんだ。それが他の野菜と融合して、より高みへ連れて行ってくれる。キノコって、こんなにおいしいんだね?」
「ええ。それが、シイタケのポテンシャルよ」
「すき焼きにシイタケが存在する意味を知ることが、オトナへの一歩だ」と、聞いたことがある。
地球にいた頃は、「ただのポジショントークでしょ」と鼻で笑っていた。
今なら、その言葉の意味がよくわかる。
すき焼きに、シイタケは欠かせない。
「ごちそうさまでした! うおおおお!」
シイタケ入りのすき焼きを平らげて、ピッキーがまた強くなった。
身体強化、精神耐性強化、魔力増幅など、さまざまなバフが、ピッキーに付与されていく。
「ブモモー! このマタンゴ・ミノタウロスは無敵だモー!」
相手はまだ、自分が優勢だと思っているらしい。胸を張り上げ、筋肉を見せびらかす。
愚かな。細切れになることも知らずに。
「シイタケの味を知ったボクに、キミの挑発は効かない」
「ブモモー! そう言っていられるのも今のうちモー!」
ミノタウロスが、ピッキーに殴りかかった。
だがピッキーは、ミノタウロスの腕を片手で掴んでしまう。
「それだけかい?」
「ブモ!?」
「今度は、こちらからだ!」
ピッキーが手をかざす。
相手を浄化させる光線を、ミノタウロスに浴びせた。
「ンブモモー!?」
一切相手を傷つけることなく、ピッキーは敵を浄化していく。
「フン。シイタケを克服しただけの勇者に負けるなんて、クソザコすぎ」
後には、おいしそうな牛肉が残っているだけ。
「さあ、みなさんもすき焼きを楽しみましょ」
あたしは、残ったお肉をすき焼きにして振る舞った。
丸一日かけて、あたしたちはすき焼きを食べ尽くす。
「やべえ。もう一生分、肉を食った感じがするぞ」
「まったくですな」
マレリーとユリー二世が、腹を擦りながら地べたに仰向けになる。
「さてピッキー。あーん」
「食べさせてくれるのか、ありがとう。あーん」
あたしは、ピッキーにすき焼きを食べさせた。
「てえてえ」
ゾンビのように、戦士ハッサンがあたしたちの様子を伺っている。
「どうしたのよ、ハッサン?」
「ところで、デリン。教会が、また締め出されたって話が」
ハッサンによると、教会が禁制品であるマツタケの不正栽培と密輸で摘発されたという。
「盛者必衰ってやつよ」
勇者をそそのかしてうまい汁だけをいただいている奴らなんて、裁かれるべきだ。
「さて、ざまぁも堪能したことですし、次の街もちゃちゃっと救っちゃいましょ」
「乗り気ですな、デリンは。ようやく、勇者としての自覚が生まれましたかな?」
「そんなわけないでしょ? あたしはただの、ピッキーの毒見役よ」
魔法使いにできることなんて、たかが知れている。
それは、勇者のスキキライをなくすこと。そして、勇者を強くすること。
あたしが、直接戦うわけじゃない。
戦闘をするのは、あくまでも勇者ピッキーだ。
それでいい。
「ふむ。ですが、あなたもまことの勇者ですぞ。教会に喝を入れるお気持ちは、本物ですからな。あなたなら、まことに教会を再建できるかもしれません」
「いらないわよ、ユリー。そういうのは、現地の人がなさいな。あなたみたいな」
(シイタケのすき焼き編 おしまい)
あとは、調理して食べさせるのみ。
スーツケース型アイテムボックスから、あたしは鉄鍋を取り出す。
火の玉を浮かべて、その上に鍋を置いた。火を通した後、油を引く。
「ピッキー、まずはお肉を食べてもらうわ! 生卵をかき混ぜながら、待っていて!」
「わかったよ、デリン!」
小鉢と生卵を、ピッキーに投げ渡す。
ピッキーは、器用にキャッチした。
あたしは熱した鉄鍋に、おしょう油とお砂糖を混ぜた割下をドババーっと注ぐ。
「さて、このミスジ肉をじゅんわーっと焼く!」
牛の肩甲骨から手首までのところにある肉を、ミスジという。
すき焼きでも、特に美味しい部分だ。
「おおおお! 今から食べるのが楽しみだ!」
「はいピッキー。召し上がれ」
「いただきます!」
ピッキーが溶いた生卵に、お肉をからめる。
「ふわああ。肉が一瞬で溶けたよ、デリン。なのに、この満足感はなんなんだ? 心が満たされていくよ!」
「まだ、もっと沼らせてあげるわ」
続いて、この割下に野菜などの具材を。
「ウチはすき焼きに、白菜を入れるの。水が出るから、割下をマイルドにしてくれるのよ」
味が薄まるから、白菜のすき焼きを嫌がる人もいる。
だが、ウチには秘密兵器があるからいいのだ。
「じゃじゃーん。これに、キノコをドバっと!」
「……ゴクリ」
あれだけシイタケを嫌っていたピッキーが、ノドを鳴らす。
「さて、白菜、おネギ、シイタケをよそってあげるわ。さっきのお肉と一緒に、めしあがってちょうだい」
「うん。いただきます!」
ピッキーは、シイタケだけを口へと運ぶ。
「デリン、ボクはどうしてキノコを嫌ったいたのか、今はわからなくなってしまったよ」
「そうでしょ?」
「噛めば噛むほど、旨味が溢れ出てくるんだ。それが他の野菜と融合して、より高みへ連れて行ってくれる。キノコって、こんなにおいしいんだね?」
「ええ。それが、シイタケのポテンシャルよ」
「すき焼きにシイタケが存在する意味を知ることが、オトナへの一歩だ」と、聞いたことがある。
地球にいた頃は、「ただのポジショントークでしょ」と鼻で笑っていた。
今なら、その言葉の意味がよくわかる。
すき焼きに、シイタケは欠かせない。
「ごちそうさまでした! うおおおお!」
シイタケ入りのすき焼きを平らげて、ピッキーがまた強くなった。
身体強化、精神耐性強化、魔力増幅など、さまざまなバフが、ピッキーに付与されていく。
「ブモモー! このマタンゴ・ミノタウロスは無敵だモー!」
相手はまだ、自分が優勢だと思っているらしい。胸を張り上げ、筋肉を見せびらかす。
愚かな。細切れになることも知らずに。
「シイタケの味を知ったボクに、キミの挑発は効かない」
「ブモモー! そう言っていられるのも今のうちモー!」
ミノタウロスが、ピッキーに殴りかかった。
だがピッキーは、ミノタウロスの腕を片手で掴んでしまう。
「それだけかい?」
「ブモ!?」
「今度は、こちらからだ!」
ピッキーが手をかざす。
相手を浄化させる光線を、ミノタウロスに浴びせた。
「ンブモモー!?」
一切相手を傷つけることなく、ピッキーは敵を浄化していく。
「フン。シイタケを克服しただけの勇者に負けるなんて、クソザコすぎ」
後には、おいしそうな牛肉が残っているだけ。
「さあ、みなさんもすき焼きを楽しみましょ」
あたしは、残ったお肉をすき焼きにして振る舞った。
丸一日かけて、あたしたちはすき焼きを食べ尽くす。
「やべえ。もう一生分、肉を食った感じがするぞ」
「まったくですな」
マレリーとユリー二世が、腹を擦りながら地べたに仰向けになる。
「さてピッキー。あーん」
「食べさせてくれるのか、ありがとう。あーん」
あたしは、ピッキーにすき焼きを食べさせた。
「てえてえ」
ゾンビのように、戦士ハッサンがあたしたちの様子を伺っている。
「どうしたのよ、ハッサン?」
「ところで、デリン。教会が、また締め出されたって話が」
ハッサンによると、教会が禁制品であるマツタケの不正栽培と密輸で摘発されたという。
「盛者必衰ってやつよ」
勇者をそそのかしてうまい汁だけをいただいている奴らなんて、裁かれるべきだ。
「さて、ざまぁも堪能したことですし、次の街もちゃちゃっと救っちゃいましょ」
「乗り気ですな、デリンは。ようやく、勇者としての自覚が生まれましたかな?」
「そんなわけないでしょ? あたしはただの、ピッキーの毒見役よ」
魔法使いにできることなんて、たかが知れている。
それは、勇者のスキキライをなくすこと。そして、勇者を強くすること。
あたしが、直接戦うわけじゃない。
戦闘をするのは、あくまでも勇者ピッキーだ。
それでいい。
「ふむ。ですが、あなたもまことの勇者ですぞ。教会に喝を入れるお気持ちは、本物ですからな。あなたなら、まことに教会を再建できるかもしれません」
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