57 / 63
第六章 最終決戦
第57話 北バリナンのアウゴエイデス
しおりを挟む
北バリナンには、すでにカイムーンの王子がソラドロアの兵隊と組んで、魔物と戦闘状態になっていた。
「助太刀します! 【電光石火】!」
カイムーン王子の背後にいたモンスターの群れを、雷撃のサーベルを伸ばして撃ち抜く。
「かたじけない、ディートヘルム王子! 父さえ見捨てることしかできなかった不甲斐ない男を、お許しください」
「礼には及びません。それより、カイムーンの国王は……」
「父は、あれになりました」
北バリナンにそびえ立つ、黒い山を指差した。
「なんだあれは」
「父だったものです」
眼の前にいるのは、黒い皮膚を持つ巨人だ。あぐらをかいているのに、それでも山より大きい。立ち上がった姿は、雲さえ突き破りそうだ。老人の顔を持つが、肉体は人間の形をなしていない。赤黒い皮膚を持ち、バリスタの落石や海軍の砲撃を、たやすく弾き飛ばす。
巨人が、両手を広げた。雷が手の間に発生し、横一線になったまま飛んでいく。
放たれた雷撃は、一直線に海軍の船を襲って、すべて破壊した。
「私が見ていたのは、父ではなかったのかもしれません」
実の息子である王子にさえ、この言われようとは。
「そんな昔から?」
「はい。父は、魔界への侵攻を行ってから、人が変わってしまいました。私は、魔族の領土などに関心はなかったので、深入りはしませんでした。ですが、魔族の持つ【魔改造】という特殊技術に興味を示してからは、配下を実験体に色々と研究をしていたようなのです」
確信できなかったが、もう隠すことすらしなくなったので、ソラドロアへ亡命したのである。王子はソラドロアに保護されつつも、ボニファティウスに援護をするなど尽力していた。
「北バリナンに、魔王の実体があったとは」
「あれは……【アウゴエイデス】っちゅうやつじゃ」
「それは、魔王の正体という意味ですね、リユ様?」
「そうじゃ。アタシらドラゴン族の言い伝えでしか見たことはねえ。じゃが、あれはアタシらの国で壁画にすらなっとる」
アウゴエイデスとは、別次元に存在する天使や悪魔の本体だ。本体を保管して、人間界には依代を配置するのが普通なのである。実体を破壊されたら、二度と復活できないからだ。
僕が倒してきたデーモンロードたちも、アウゴエイデスである。
「私には魔族の血が流れていません。なので、どこかのタイミングで乗っ取られたのかと」
今の魔王は、カイムーン王の身体を借りて顕現していたのかもしれない。
「ドラゴンでさえ、アウゴエイデスが相手じゃとちと苦しいぞよ」
「やるしかない。リユ」
「ディータ、いくらアタシでも、あれが相手では守ってやれんぞ」
「いいんだ」
僕は、リユやカイムーン王子をかばうように、前に立つ。
「魔王よ! 僕が相手だ!」
声が聞こえたのか、魔王がこちらを向く。
「ディートヘルム王子、逃げずによく来たな。だが、アウゴエイデスすら持たぬ魔族のハーフごときに、ワシは倒せぬぞ!」
僕が矮小な存在かどうか、戦って思い知るがいい。
「助太刀します! 【電光石火】!」
カイムーン王子の背後にいたモンスターの群れを、雷撃のサーベルを伸ばして撃ち抜く。
「かたじけない、ディートヘルム王子! 父さえ見捨てることしかできなかった不甲斐ない男を、お許しください」
「礼には及びません。それより、カイムーンの国王は……」
「父は、あれになりました」
北バリナンにそびえ立つ、黒い山を指差した。
「なんだあれは」
「父だったものです」
眼の前にいるのは、黒い皮膚を持つ巨人だ。あぐらをかいているのに、それでも山より大きい。立ち上がった姿は、雲さえ突き破りそうだ。老人の顔を持つが、肉体は人間の形をなしていない。赤黒い皮膚を持ち、バリスタの落石や海軍の砲撃を、たやすく弾き飛ばす。
巨人が、両手を広げた。雷が手の間に発生し、横一線になったまま飛んでいく。
放たれた雷撃は、一直線に海軍の船を襲って、すべて破壊した。
「私が見ていたのは、父ではなかったのかもしれません」
実の息子である王子にさえ、この言われようとは。
「そんな昔から?」
「はい。父は、魔界への侵攻を行ってから、人が変わってしまいました。私は、魔族の領土などに関心はなかったので、深入りはしませんでした。ですが、魔族の持つ【魔改造】という特殊技術に興味を示してからは、配下を実験体に色々と研究をしていたようなのです」
確信できなかったが、もう隠すことすらしなくなったので、ソラドロアへ亡命したのである。王子はソラドロアに保護されつつも、ボニファティウスに援護をするなど尽力していた。
「北バリナンに、魔王の実体があったとは」
「あれは……【アウゴエイデス】っちゅうやつじゃ」
「それは、魔王の正体という意味ですね、リユ様?」
「そうじゃ。アタシらドラゴン族の言い伝えでしか見たことはねえ。じゃが、あれはアタシらの国で壁画にすらなっとる」
アウゴエイデスとは、別次元に存在する天使や悪魔の本体だ。本体を保管して、人間界には依代を配置するのが普通なのである。実体を破壊されたら、二度と復活できないからだ。
僕が倒してきたデーモンロードたちも、アウゴエイデスである。
「私には魔族の血が流れていません。なので、どこかのタイミングで乗っ取られたのかと」
今の魔王は、カイムーン王の身体を借りて顕現していたのかもしれない。
「ドラゴンでさえ、アウゴエイデスが相手じゃとちと苦しいぞよ」
「やるしかない。リユ」
「ディータ、いくらアタシでも、あれが相手では守ってやれんぞ」
「いいんだ」
僕は、リユやカイムーン王子をかばうように、前に立つ。
「魔王よ! 僕が相手だ!」
声が聞こえたのか、魔王がこちらを向く。
「ディートヘルム王子、逃げずによく来たな。だが、アウゴエイデスすら持たぬ魔族のハーフごときに、ワシは倒せぬぞ!」
僕が矮小な存在かどうか、戦って思い知るがいい。
0
お気に入りに追加
386
あなたにおすすめの小説
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果
kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。
自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。
魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】令嬢は愛されたかった・冬
ここ
ファンタジー
伯爵令嬢ファリナは、実母の出自から、
家族に疎んじられていた。
誰からも愛されたことのない人生。
けれど、ファリナは魔法使いの適正があった。
使い魔とともに、魔法使いに弟子入りする。そこで待っていたのはこれまでとはまったく別世界で。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
伏して君に愛を冀(こいねが)う
鳩子
恋愛
貧乏皇帝×黄金姫の、すれ違いラブストーリー。
堋《ほう》国王女・燕琇華(えん・しゅうか)は、隣国、游《ゆう》帝国の皇帝から熱烈な求愛を受けて皇后として入宮する。
しかし、皇帝には既に想い人との間に、皇子まで居るという。
「皇帝陛下は、黄金の為に、意に沿わぬ結婚をすることになったのよ」
女官達の言葉で、真実を知る琇華。
祖国から遠く離れた後宮に取り残された琇華の恋の行方は?
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる