追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第六章 最終決戦

第57話 北バリナンのアウゴエイデス

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 北バリナンには、すでにカイムーンの王子がソラドロアの兵隊と組んで、魔物と戦闘状態になっていた。

「助太刀します! 【電光石火】!」

 カイムーン王子の背後にいたモンスターの群れを、雷撃のサーベルを伸ばして撃ち抜く。

「かたじけない、ディートヘルム王子! 父さえ見捨てることしかできなかった不甲斐ない男を、お許しください」

「礼には及びません。それより、カイムーンの国王は……」

「父は、あれになりました」

 北バリナンにそびえ立つ、黒い山を指差した。

「なんだあれは」

「父だったものです」

 眼の前にいるのは、黒い皮膚を持つ巨人だ。あぐらをかいているのに、それでも山より大きい。立ち上がった姿は、雲さえ突き破りそうだ。老人の顔を持つが、肉体は人間の形をなしていない。赤黒い皮膚を持ち、バリスタの落石や海軍の砲撃を、たやすく弾き飛ばす。

 巨人が、両手を広げた。雷が手の間に発生し、横一線になったまま飛んでいく。

 放たれた雷撃は、一直線に海軍の船を襲って、すべて破壊した。

「私が見ていたのは、父ではなかったのかもしれません」

 実の息子である王子にさえ、この言われようとは。

「そんな昔から?」

「はい。父は、魔界への侵攻を行ってから、人が変わってしまいました。私は、魔族の領土などに関心はなかったので、深入りはしませんでした。ですが、魔族の持つ【魔改造】という特殊技術に興味を示してからは、配下を実験体に色々と研究をしていたようなのです」

 確信できなかったが、もう隠すことすらしなくなったので、ソラドロアへ亡命したのである。王子はソラドロアに保護されつつも、ボニファティウスに援護をするなど尽力していた。

「北バリナンに、魔王の実体があったとは」

「あれは……【アウゴエイデス】っちゅうやつじゃ」

「それは、魔王の正体という意味ですね、リユ様?」

「そうじゃ。アタシらドラゴン族の言い伝えでしか見たことはねえ。じゃが、あれはアタシらの国で壁画にすらなっとる」

 アウゴエイデスとは、別次元に存在する天使や悪魔の本体だ。本体を保管して、人間界には依代を配置するのが普通なのである。実体を破壊されたら、二度と復活できないからだ。

 僕が倒してきたデーモンロードたちも、アウゴエイデスである。

「私には魔族の血が流れていません。なので、どこかのタイミングで乗っ取られたのかと」

 今の魔王は、カイムーン王の身体を借りて顕現していたのかもしれない。

「ドラゴンでさえ、アウゴエイデスが相手じゃとちと苦しいぞよ」

「やるしかない。リユ」

「ディータ、いくらアタシでも、あれが相手では守ってやれんぞ」

「いいんだ」

 僕は、リユやカイムーン王子をかばうように、前に立つ。

「魔王よ! 僕が相手だ!」

 声が聞こえたのか、魔王がこちらを向く。

「ディートヘルム王子、逃げずによく来たな。だが、アウゴエイデスすら持たぬ魔族のハーフごときに、ワシは倒せぬぞ!」

 僕が矮小な存在かどうか、戦って思い知るがいい。
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