追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第六章 最終決戦

第53話 魔将フェンリルとの戦い

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「き、貴様……っ!」

 フェンリルが、両手をオオカミ前足に変えた。爪を伸ばし、僕の武器を受け止める。

「そりゃ!」

「むぐうっ!」

 さっきと同じく、顔面に蹴りを食らわせた。

 幻の攻撃を出せる箇所は、腕だけじゃない。足でも放つことができるのだ。

 僕の力は、おそらくフェンリルを凌駕する。
 しかし、その力は僕の精神を著しく削ってしまう。

 リユに「城を吹っ飛ばせ」といったのは、僕が暴走してしまう可能性があるから。

 なるべく、短期決戦が望ましい。

「そりゃそりゃそりゃ!」

 パピルサグ相手に行った連続パンチを、フェンリルにも浴びせる。

「くそ! だが、慣れてきちゃったわ」

 とはいえ、さすが魔王直属の配下だ。フェンリルはすぐに、僕の動きに適応してきた。パワーは向こうのほうが上かも。

「息切れかしら、シンクレーグのガキ?」

 僕はモンスターの群れがいる地点まで、追い詰められた。パワーを使い果たし、幻の腕も消えてしまう。長時間攻撃を続けたせいで、脂汗をドッとかく。

「じゃあ、その首をいただくわね!」

 フェンリルがさらに爪を伸ばし、僕に切りかかった。
 だが、やつは知らない。おびき寄せられたのが、自分のほうだと。

「リユ!」

「グルウウウウウウウ」

 フェンリルの真横に、ドラゴンに戻ったリユが降り立った。大きな口を開けて。

「なんだと!?」

「ゴアアアアア!」

 リユが、炎の剣のさらに上を行く、紅蓮のブレスを放つ。

 いくらデーモンロードと言えど、ドラゴンのブレスを受ければひとたまりもない。

「アフロが爆発しちゃうでしょおおおおお!」

 配下のモンスターも全て巻き込んで、フェンリルはリユのブレスによってチリとなった。

 僕は追い詰められたふりをして、何もない草原までモンスターたちを密集させていたのである。リユが本気のブレスを吐けるポイントまで。

 リユが、ドラゴンから人間の姿に戻る。

「やったのう、ディータ」

「ああ。課題も大きいけどね」

 やはり、全力で戦うのは五分ほどが限界のようだ。常に自身に【魔改造】を施して戦えるようになったとはいえ。まだ僕は未熟である。

「ごめんね。パワーレベリングみたいな作戦だったね」

 パワーレベリングとは、強い敵を相手にトドメだけを刺させてレベルを上げる方法だ。しかしリユは、そんなマネをしなくても強い。

「ええんじゃ。さっきのサソリ男には油断してしもうたし。ザコも一層できてスッキリさわやかじゃ」

 まったく気にする様子もなく、リユは答えてくれる。

「よくやった。ディートヘルム」

「すごいね。魔将クラスをあっという間にやっつけるなんて」

 父王と南バリナン王が、僕たちの功績をたたえた。

「もったいないお言葉です。お二方。それよりバリナン王、お身体の方は?」
「あの程度で、ボクがくたばるかっての。じゃあボクは先にバリナンに帰っているよ。準備が整い次第、なるはやでよろしく」

 妻であるボクの姉さんと娘は、ボニファティウスに残すという。もうボニファティウスに魔物は襲ってこないだろうから。

 さっきのブレスで、魔王たちは七〇%の戦力を失ったと、ボニファティウスは予測した。

「父よ、姉さんを頼みます」
「あいわかった。気をつけて戻れよ」
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