追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第六章 最終決戦

第52話 故郷は、渡さない!

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 魔物の群れは、ボニファティウスのもろい部分を的確に突いていた。

 といっても、僕の手にかかれば「罠にかかった」と言ってもいい。

 わざと両方の側面を攻めさせて、僕とリユで片付ける。ザコは騎士や冒険者に任せて、僕たちはボスクラスを撃滅した。

「燕返し、プラス、【ブレイズ】!」

 リユが炎の剣を振り回し、街を襲っているモンスターの群れを焼き払う。大型の敵には、直接刃を打ち込んだ。

「【電光石火】、乱れ打ち!」

 僕は上空から、モンスターだけを狙って雷撃を撃つ。

 雷に打たれて、魔物たちが消し炭となった。

「ディータ! ボニファティウスはでかすぎるわい! 一人じゃと埒が明かん!」

 雑魚モンスターを斬り捨てながら、リユが音を上げる。

「もう少しの辛抱だ。もうすぐ、相手の本丸がこちらへ攻めてくる」

 敵が業を煮やし、本格的な戦力を投下してくるはずだ。
 虎の子の海賊を沈められて、魔族だっておいそれと攻め込めるはずがない。あれだけ慎重に準備をして、南バリナンとボニファティウスを攻め落とそうとしていたはず。
 それをあっさりと、押し返されたわけだ。なりふり構うわけがない。

「さて。大物が釣れたよ!」

 アフロヘアの、オオカミ男が。

「なんじゃ? あのファンキーな髪型は?」

 リユのいうとおりだ。男の服装も、全身スパンコールのドレスとクセが強い。存在感が、凶悪極まりなかった。

「ひいいい! タスケテ!」

 逃げるオーガ族が、アフロの男に助けを求める。

「うっとおしいわ、んねっ」

 長い鋼鉄製のキセルで、男はオーガ族の頭を粉砕した。

「神にちかしいアタイに救済を求めるとか、アンタらの生命がいくらあっても足りないわけ。供物ってのは等価交換よ。もっと上等な命を差し出しなさい」

 オオカミ獣人族のニューハーフが、オーガの死体をヒールで踏み潰す。

「ごきげんよう。アタイはフェンリル族の王。魔王より、このボニファティウスを破壊しろと命じられたの。死にたくなければ、とっととこの場から逃げなさい。逃げたとしても、殺すけど」

「お前こそ、死にたくなかったらとっとと魔王の城へ帰れ。アフロがモヒカンにならないうちにな」

 フェンリルを名乗るアフロニューハーフが、こめかみに青筋を立てた。

「上等だわ。ちょうど、いいケンカの相手が見つからなかったところなの。アンタなら、楽しませてくれそうだわ」

「さっき倒したやつも、同じことを言って死んだけど?」

「パピルサグみたいな小物と一緒にしないでよ……んね!」

 スパンコールドレスから、白い足が伸びてきた。

 ヒールから繰り出されたキックが、僕の頬をかすめる。

「ディータ、血が」

 完全にかわしたかと思ったが、頬を切ってしまったようだ。

 なかなかやるね、見た目のインチキくささはともかく。

「驚かなくていいよ、これくらいで。リユ、キミは住民たちの避難を。いざとなったらドラゴンに戻って、城ごと吹っ飛ばせ」

「ディータ!?」

「大丈夫。そんな事態にはならないよ」

 僕がそう言っても、リユは立ち止まったまま、動かない。

「おめえ、なんで、そげな冷静にいれるんじゃ?」

「キミを信頼しているからだ。僕がどうなっても、キミさえいればボニファティウスは守れるだろう」

 もちろん、僕は負けるつもりはないけどね。

「死ぬなよ、ディータ!」

「僕は負けないよ。早く行って」

 僕が促すと、ようやくリユが動き出した。

「別れのあいさつは済んだ?」

 勝ちを確信しているのか、フェンリルが僕をあざ笑う。

「それは、お前の方だ」

「なんですって? 力の差がわからないわけじゃないでしょ?」

「まだわからないのか? 僕が彼女をいかせたのは、お前との相打ちを狙ったからじゃない」

 僕は、フェンリルにされたのと同じキックを放つ。

「へばああ!?」

 まあ、僕の方はちゃんと当てたけどね。

「お前を練習台にするためだ」

 魔物に故郷は、これ以上壊させない。
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