追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第四章 海賊退治と黒幕

第42話 夫婦の問題

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 これから戦うには、もっとシンクレーグについて知る必要がある。

 シンクレーグの資料をもらって、僕は書庫にこもった。

 横ではリユが、アルビーナ姉さんの娘、アンヤに絵本を読ませている。

 僕は主に、北バリナンの歴史を調べた。北バリナンの狙いがわかれば、シンクレーグについて間接的にもっと知れるのでは、と。

 魔族がシンクレーグに、なにを求めているのか? 北バリナンとの関係は? 現状が忙しくて、スルーしていた内容ばかりである。

「なあ、お姉さん、聞きたいんじゃが」

 アンヤが寝たタイミングを見計らって、リユはアルビーナ姉さんに問いかけた。

「ダンナ様……ディータなんじゃが、あんなにデカいんか?」

「なにが?」

「ナニがじゃ」

 姉さんに何を聞いてるんだよ、キミは。

 ほら、姉さんも困っているではないか。

「子どもんころから、あんな奥に届くサイズまで、大きくなるもんかのう?」

「あたしねえ、ディーくんが小さい頃しか、お風呂に入れてあげてないんだよね。この子が思春期になってすぐ、お嫁に行ったから」

「ほうかぁ」

「少なくとも、魔改造ではないと思うよ」

 当たり前だ。女性を気持ちよくするために、魔改造なんて使うかってんだ。

「大きいのは、生まれつきだよ」

「子ども、ほしいのう。ディータ」

「うん。もっと平和になったら、考えよう」

「今じゃ。おめえを困らせたくて、言ってるわけじゃねえ。今みたいに、子どもに絵本を読ませる未来もあってええんではないかのうって」

 たしかに。戦いばかりの未来とか、平和からは遠ざかりすぎる。僕らのしていることは、それこそ魔族の過激派と変わらない。

「時間がかかるのは、わかる。ただ、なんのために戦っとるんかは、忘れたらイカンなって、思っていたところじゃ」

「そか。僕は今まで戦うために、戦ってたようなもんだからね」

 冒険者って、そういう人生だと思っていたから。

 今はほぼ、戦争に近い状態になっている。カイムーンとの抗争も、激化していくだろう。

「カイムーンの王子は、結局ソラドロアに亡命して、王に即位したわ。カイムーンと対立していくでしょうね」

 南バリナンの使いからの報告を、姉さんが僕に伝えた。

「よかった。僕だと、国をほったらかしにして冒険していたところだよ」

「アンタは元々、ソラドロアに婿入りなんて考えてなかったじゃん」

「それもそうだね。もしソラドロアの姫と結婚していたら、リユにも会えなかった」

 だとすると、リユとの日々もなかっただろう。彼女は一人ぼっちで、シンクレーグを守って。ドラゴンだから多少は持ちこたえるだろうけど、心はドンドンすさんでいったに違いない。

「自分でもびっくりしていてさ、こんなにもリユを好きになるなんて」

「のろけちゃってぇ。大事になさい、ディーくん」

「はい。うお……」

 僕は、リユに引き寄せられた。

「おめえも絵本読むの、手伝ってください」

 どうも、アンヤが起きてしまったらしい。

「僕はまだ仕事が」

「さっきから雑談しとるってことは、行き詰まっとるんじゃろ?」

 見抜かれていたか。僕は頭をかく。

「頭柔らかくするには、子どもと接するのが一番じゃ」

「わかったよ。さてさてどこからだ?」

 僕が問いかけると、アンヤが「ここー」と文字に指をさす。

「はいはい」

 ページをめくる。


 
 シンクレーグにあったこだいいせきに、ゆうしゃはたどりつきました。
 そこはシンクレーグでもけわしいやまにかこまれています。
 すんでいるひとたちも、ちかづきません。
 おそろしいやまをのぼりきると、たにぞこに『おはか』がありました。まわりにはきもはえておらず、さびしそうです。
 ゆうしゃはそこにねむるまおうを、たずねたのです。
 くにどうしのたたかいを、おわらせるために。


「……」

 古代遺跡なんて、あったのか。

 おそらくディートリンデの墓が、山奥にあるに違いない。

「まだまだ知らないところが、シンクレーグにあったんだな」

 僕は、アンヤの頭をなでた。

「ありがとうアンヤ。キミのおかげで、世界が広がった!」
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