上 下
39 / 63
第四章 海賊退治と黒幕

第39話 嫁の決意

しおりを挟む
「リユ、なにを?」

 唇が離れた直後に、僕はリユに尋ねる。

「なにって。しょげた顔したダンナ様に、ちょいとカツを入れたんです」

「……これ以上、僕を好きにならないで。別れが辛くなる」

「別れですかい。なんか尋常じゃねえのう」

 僕は、ワケをちゃんと話す。

「ほうか。それでディータ、あんたはぜーんぶ一人で背負い込んでいじけとる、っちゅうことですか? アタシらをほっぽりだして、一人で魔王軍に挑もうと」

「いじけてるだなんて! 僕は色々考えて結論を――」

「その結論を、急ぎ過ぎなんやありませんかい?」

 リユも言い方が、乱暴だ。しかし、僕を責める口調ではない。

「なんでもっと、アタシらを信頼してくれんのです? あたしはそんなわからず屋と結婚したつもりはござんせん」

「僕は……」

「今のアンタ、あんときのアタシみたいじゃ」

 言われて、ハッとなった。

「初めて会ったとき、キミは一人で旅しようとしていたね」

「そうじゃ。でも、そばにおってええって言うてくれたんは、ディータ、あんたじゃ」

「リユ」

「考えるのは勝手じゃが、考えすぎるんも袋小路になるんぞ。不満とか不安があるんなら、外へ吐き出さんかいっ」

「そうですよ!」と、ヘニーもリユの加勢に入る。

「わたしは、領主さまの能力に救われたんですよ!」

「ワタシも」

 たしかにヘニーもレフィーメも、僕が魔改造を駆使して救出した。

「それがしは、あなたが悪者ではないと、剣を交えて理解しました」

 いやカガシ、あんた殺意丸出しだったよ。まあいっか。

「いいかい。こっから先は、僕がいたら巻き添えを食うことになる。僕のせいで、犠牲者が出るかもしれない」

「とっくに巻き込まれていますよ! その上で、わたしはあなたについていくと言っているんです!」

 ヘニーから、意思の強い言葉が。

 レフィーメたちも、無言でうなずいている。

「あなたが関わってくれなければ、ワタシたちはとっくに魔物たちの腹の中」

「いかにも。それがしも領主殿と会わなければ、リユお嬢様の行方もわからぬまま、バリナンの犬として生涯を終えるところでした。稼ぎはあちらのほうがよかったのですが」

 おい。

「それにのう、おめえさんがいなくなったら、シンクレーグはそれこそ蹂躙されっぞな。領主様がおらんなったって話になれば、邪魔者はおらんけんな。そんな想像力もないなったんか?」

「でも、みんなは怖くないのか?」

「アタシらは、おめえを失うほうが怖いのう。また一人ぼっちかーってな」

「リユ!」

「アタシは!」

 僕の胸ぐらをつかみ、リユは壁にまで追い詰めた。

「アタシらは! おめえが領主様じゃとか、魔王の力を持っているからとかで、そばにおるんじゃねえ! おめえがただのディータじゃから、一緒におるんじゃ!」

「だけど!」

「おめえだって、アタシをどういう言わんじゃろうが! ドラゴンとか、東洋のお姫様じゃとか!」

「うう……」

「アタシは好きに生きるんじゃ。好きなアンタの、そばにずっとおる! 誰にも、邪魔させんからの」

 これはもう、言っても聞かない。

 リユは自分の考えで、生き死にを決断するだろう。

「わかったよ。ありがとうリユ」

 僕は、リユを抱き寄せた。

 リユも、僕をきつく抱きしめる。

「仲直りできたぁ?」

 ドアを開けて現れたのは、アルビーナ姉さんだ。彼女は現在、南バリナンの王妃である。

「姉さん!?」

「やっほー。オヤジに呼ばれてきたよー」

 ヤバイところを見られた。

「離れて、リユ」

「イヤじゃイヤじゃ」

「離れてってば、もう!」

 こうなったら、リユは言うことを聞いてくれない。

「そのままでいいよ、今日は報告だけ」

「どうしたの?」

「南東諸国最後の砦、海賊の根城と言われたキルリーズが……消滅したの」
しおりを挟む

処理中です...