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第四章 海賊退治と黒幕

第38話 みんなで入浴

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 結局、僕の意見は聞き入れてもらえなかった。

「ここが大浴場で、よかったわい。おかげでみーんな入れるけん」

 全員で湯船に入る。距離は離れているが、かなり目の毒だ。

「ふわーあ。わたし、清らかな回復の湖で水浴びはします。けど、お湯に浸かるのって初めてかもです」

「ワタシたちドワーフは鉱山で働くから、お風呂は必須」

 エルフとドワーフで、湯の使い方が違うみたい。

「アタシらドラゴン族は、火山の生まれじゃ。風呂の文化は、ドワーフと近いかもしれんのう」

「ごもっともで」

 リユとカガシも、お風呂文化には慣れたものだ。 

「じゃあ領主さま、お身体を流しますね。わたしは頭を洗いますね」

 ヘニーの小さい手が、僕の髪をシャカシャカと洗う。

「では、ワタシは腕を」

 レフィーメが僕の腕を取り、タオルでゴシゴシと洗う。

「では、それがしは領主殿のお股を」

「あかーん!」

 そこは自分で洗います!

 カガシには、足で妥協してもらう。

「どうして、僕がこんな目に」

「ダンナ様、観念せい。みんな、おめえがが心配なんじゃ」 

 黙々と、リユは僕の背中を流す。

「ごめん。迷惑かけて」

「ええんじゃ。それが夫婦ってもんじゃろうが」

 リユが僕の頭に、ザバーっとお湯をかける。

 石けんの泡は、キレイに洗い流された。

 とはいえ、僕の気持ちは泡のようにはいかない。ずっと、しこりがとどまったまま。

「しょげた顔してんと、湯に浸かってリラックスリラックス」

 再び湯に浸かり、とにかく身体だけでも落ち着かせることにする。
 まったく、リラックスできなかったが。
 

 湯から上がって、父王と二人きりで話す。

 他の人たちがいると、話が脱線してしまいそうだからだ。まずは対面で語り、その後で僕をどうするか考えることに。

「ふむ。我らの祖先が、まさか魔王ディートリンデだったとは」

 父・ボニファティウスも、僕の出自を知らなかったようだ。

「人間と親しい魔族の家系と思っていたが、遠い昔の話だろ? まさかお前が、その力を引き継いでいたとはなぁ」

「ボクの力を知っていたから、追放したのではないのですか?」

「知っていたら、永遠に自分の手元へ置いておくだろうな。俺が毒親なら、非人道的なやり方でお前を死ぬまで利用していただろう」

 とはいえ、父でも一生、僕を座敷牢へ閉じ込めていただろうとのこと。魔族の目に触れてはならぬと。

「力をひけらかしたのが、いけなかったのでしょうか?」

「お前は自分のためだけに、魔王ディートリンデの力を使ったことはないだろう?」

「はい。たしかに」

「だったら、もう答えは出ているだろう? お前のやりたいようにしろよ」

 父王からは、気にしないことだと念を押される。

 とはいえ、これ以上シンクレーグにとどまるわけにはいかない。
 みんなを巻き込むことになる。

 シンクレーグはこのままで、僕は別天地へ旅をしよう。

「そうだよ。元々僕は、旅がしたかったんじゃないか。一人旅には、慣れてるさ」

 ひとりごちながら、手の震えが止まらない。

 父王の許しを得て、リユが部屋に入ってくる。

「なあリユ、僕は」

 決意を伝える前に、僕はリユに唇を塞がれた。
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