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第四章 海賊退治と黒幕

第37話 魔改造の正体

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 その昔、シンクレーグを治めていた魔王がいた。

「そやつの名こそ、ディートリンデ!」

「うちの先祖の名前じゃないか」

「いかにも。お主は、女魔王ディートリンデの血をついでいるのだ。その力こそ、魔王ディートリンデのもの!」

 しかし人間の味方をしたため、魔族から睨まれていたという。

「我ら魔族の目的は、古代に君臨していた魔王ディートリンデの力を我が物にすること! 貴様がシンクレーグを治めている限り、魔族は刺客を送り込んでくるぞ!」

 高笑いをしながら、デーモンロードは消滅した。ただの金貨の山へと、姿を変える。


 つまり、魔族の狙いは僕というわけか。


 クジラキメラの胃袋が、振動をはじめた。デーモンロードが死んだことで、幽霊船の維持ができなくなったのか。

「脱出しないと……うお!?」

 急に、空が見えた。

「ディータ、こっちじゃ! 手ぇ出せ!」

 見上げると、リユがいる。クジラの背中を開き、手を差し伸べていた。

「ありがとう!」

 僕はリユの手を掴み、引き上げてもらおうとした。

 だが、これでいいのか?

 彼女の手を握って、助けてもらって。

 気がつくと、僕は自力で這い上がっていた。

「どうしたんじゃ?」

「なんでもない」

 リユに呼ばれても、僕は何も返せない。

「だから、どうしたんじゃ!」

 煮え切らない僕に苛立ったのか、リユはムリヤリ僕を抱き寄せる。

 要塞まで飛び退くと、幽霊船はクジラごと沈んでいった。

「終わったのう」

「あの、リユ。僕……うわっぷ!」

 話そうとすると、リユがバケツの水を僕にぶっかけた。

「血を洗い流さんと」

「ああ。そうだった」

 よく見ると、僕はクジラの血液と粘液でベトベトである。

 何度もバケツの水で流してもらい、僕も身体をタオルでこすった。

「なんかあったら、言わんかい」

「ごめん。ちゃんと話すよ」

 大事な話は、帰ってから。今は、みんなを無事に帰すことが先だ。
 
 
 海賊が壊滅してよくなったのは、海路からボニファティウスへかえれるようになったことっである。

 せっかくなので、ボニファティウスに直接帰ってきた。

 父に会う前に、浴室で軽く泥を落とす。

「……ふう」

 湯に浸かると、少しだけリラックスできた。

 とはいえ、ちゃんと話し合う勇気までは湧かない。

 僕が魔王の力を授かっているだなんて知ったら、リユはどんな顔をするだろう。

 ドラゴン族は、魔族と敵対していた。

 その令嬢であるリユは、魔王を討つ使命を持っている。

 僕が、討伐対象になるのだ。

「領主様、お背中を流しに来たぞよ」

 丸裸のリユが、タオルで隠そうともせずにズカズカ浴室に入ってきた。

 それだけじゃない。

「お邪魔したします」

「ちっこい見た目に反して、ご立派」

 ヘニーやレフィーメまで。

「僭越ながら、お嬢だけに恥ずかしい思いはさせられません。不詳このカガシめも、女となりましょうぞ」

「待て待て。みんなで入ってこないでよ!」
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