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第三章 住民のおかげで街の発展がはかどりすぎて怖い

第27話 アイスキャンディーのプレゼン

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「口の脂は拭いても、香ばしい香りまでは消せないよ。そういう調味料だからね」

 ワッハッハと、バリナン王は高らかに笑う。

「す、すいません。いくらなんでも下品でしたかいのう」

「とんでもない! これから王と会うのに食欲を止められなくする、バリナン国特製串焼きの味! お気に召してくださって何よりですな! 串焼き屋の店主も、さぞ鼻が高いことでしょう。エィヒメ列島の伯爵令嬢を、射止めたのですからな」

「他の人たちもさ、楽にしてよ。お茶にしようよ。それが目的なんだし」

 王のはからいで、リビングへと通された。

「あのー、リビングでよいので? 重要な会議のはずでは?」

「キルリーズへの警戒でしょ? たいした用事じゃないよ」

 南東国キルリーズは、海賊とつながっていると噂である。そんな国へのけん制を、バリナン王は「雑用」と断じた。

「硬い話より、アイスキャンディーをどうぞ」

 僕は、キャンディーの入った木箱を差し出す。

 箱を開けると、冷気とともに、ひんやり凍った棒ミルクが顔を出した。

「それもそうだね。OKOK、ディータ王子。じゃあ、遠慮なくいただくね」

 バリナン王族は、家族揃って、棒状のミルクをシャクリとかじる。毒見もしないで。よほど、僕たちは信頼されているらしい。

「うん。これはうまいね。娘も喜んでいるよ」

 たしかに、幼い王女が一番、食が進んでいる。

 僕たちも、アイスキャンディーを味わう。

「いいね。これ。本当においしい。こういうのが必要なんだよ、ウチには」

 僕の姉である王妃にも、バリナン国王は意見を求めた。

 姉さんは夫そっちのけで、アイスを堪能している。難しい政治の話には、興味なさそう。

「戦争ばっかでしょ? キルリーズからも、軍用船の開発を求められたけどさ、蹴っちゃった」

 戦争特需に投資するより、いつか戦いが終わるときのために投資をした方がいい。バリナンは、そう考えているようだ。

「でも、うちじゃ作れないかな?」

 やはり、予想通りの言葉が王から出てきた。

「ディータ王子。キミんところで作って、ウチが回収するよ」

「よろしいのですか?」

 よし、うまくいったぞ。

「うん。販売ルートはこちらで確保する。キミたちは、このキャンディーを提供してくれるだけでいい。出資するに値する商品だよ。これは」

「ありがとうございます」

 僕は、バリナン王と固く握手を交わす。

「なあ、ディータ。あれはどういう意味じゃ?」

 隣に座るリユが、僕の腕をヒジで突く。

「商品を売り込むんじゃよな? バリナンに店を構えるんかと思ったが」

「それだと、バリナンで流通が止まっちゃうでしょ? シンクレーグに引き続き作らせることで、バリナンがシンクレーグに介入しますよ、ってことになるんだ」

 そうなれば、キルリーズは下手にシンクレーグへ侵略行為をできなくなる。

「おめえ、それが目的じゃったんか?」

「おっしゃるとおりだよ。ではバリナン国王」

 これからの話を、円滑にする目的もあった。

「海賊や海のモンスターなら、こちらでもけん制している。大事ではないよ」

「ですが、ピドーの国王も行方不明です。油断はできません」

 せっかくバリナンから依頼を受けているのに、僕たちはピドー王の足取りすらつかめない。

「なんかさ、どーも、主犯がキルリーズのような小物、って気がしないんだよねー」

 頭をかきながら、バリナン国王はアイスを食べ終えた。残った分は、すべて娘にあげる。

「どうも、裏でキルリーズを動かしているヤツがいる気がしてさー。下手に兵隊を動かせないんだよねー。こちらの動きを封じるのが、目的なんだろうね」

 難しい顔をしつつ、バリナン国王はおいしそうにアイスを舐める娘の頭をなでた。

「誰が怪しいと?」

「それがわからない。だから、引き続き警戒を頼みたい」

「承知しました」
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