追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第三章 住民のおかげで街の発展がはかどりすぎて怖い

第21話 研究

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「はあーっ」

 デスクで書類整理をしながら、僕は何度目かのため息をつく。

「またかディータ。お前さん、そればっかりじゃのう」

 リユが、新しい書類をデスクににドンと置いた。

 川に橋をかける許可、OKOK。薬草とポーションの税率、これも大丈夫。ああもう、全部、僕の許可なんて必要なくしてやる。その方が手っ取り早いじゃん。

「こういう面倒な作業を、エルフのデ・フェンテ卿やドワーフのテッシム王に分担できると思っていたのに」

 テッシム王を、シンクレーグの王様にする計画も、父上から二つ返事で却下された。

「なぜだ。僕よりテッシム王の方が、信頼できるじゃんか」

「仕事を押し付けるつもりだったからじゃろうが。領主様がそうそう、冒険なんぞできんよ」

 気遣ってくれているのか、リユが僕の肩を揉む。

「ああ、ありがと。でもなあ」

 コンコンと、誰かがドアをノックした。

「どなた?」

「失礼いたします。テッシム王女、レフィーメ様がお見えになりました」

 機動ゴーレム執事、トラマルの声である。

「通して」

「失礼を」

 ショートカットのドワーフが、執務室に入ってきた。お姫様だが、相変わらずTシャツと短パンである。

「城の外装・外壁を見てきた。あれはどう考えても、城の壁を壊して街の外壁を拡大させていた」

「やっぱりか。プロから見てもそうなんだな?」

 シンクレーグ城の奇妙なえぐれっぷりは、どうみても攻撃を受けたものではなかった。それを、ドワーフであるレフィーメに調査してもらっていたのである。

「国家の威厳より、街の安全を優先した結果」

 わずかな資材をかき集めて強固な城に籠城するより、城を切り崩しても街全体を守っていたんだな。

「他には?」

「ドワーフが数百、いや数千名、こちらに移住したいと」

「そうなのか?」

 テッシムのドワーフたちは、愛国心が強い。それゆえに、僕が「シンクレーグをやる」といっても話を聞かなかった。国を差し出すと言っているのに。

「ピドーが滅んだので、外壁を作る必要がなくなった」

「……職にあぶれたのか」

 一週間前に、ピドーは滅んだ。王女が魔族とつながっていたと知り、バリナンは反逆罪としてピドーを潰した。バリナンは住民に危害は加えなかったが、ピドーは根こそぎ取り潰しに。

 まあ、最期まで抵抗したピドーの王族どもが悪いんだけど。

 ちなみに、ピドー王は仕留められなかったらしい。
 どこかへ逃亡した可能性がある。

「わかった。許可する。こちらも人手が欲しい」
「感謝する。領主よ」

~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~

 さっそく、ドワーフたちには街の建築や防壁の設置に力を注いでもらった。

「だんだん、街らしくなってきたな」

 シンクレーグ城も、規模をミニマムにして復活している。これまでは寝床やキッチンなどの、最低限の生活空間しかなかった。執務室も拡大し、装備の研究施設までできている。

 僕は仕事そっちのけで、アイテム作りの研究に明け暮れた。本来、これがやりたかったのである。

「結局、デ・フェンテ卿が仕事をこなしているではないか」

「彼のほうが、信頼できるよ。リーダーとしての自覚もあるし」

 無責任な領主より、やる気のある人がボスを担当すればいいのだ。

 レフィーメとヘニーが、研究室に入ってきた。

「領主ディータ、敵襲です!」

「野盗がモンスターを連れて、襲ってきた」

 来たか。命知らずな奴らめ。

「住民を避難させろ。僕らだけで迎え撃つ」

「はい!」

「見ていなさい。術式バリスタのお披露目だ」

 結論から言うと、僕たちの出る幕はなかった。

 野盗どもは、街の外壁に近づくことさえできなかったのである。

 外壁に取り付けた、【フリーズアロー】を撃つクロスボウに、野盗たちはすべて撃ち抜かれた。

 ウルフが俊足を活かし、バリスタの死角へと回り込む。

「甘いよワン公」

 バリスタは敵を察知して、瞬時に向きを変えた。よほど早い敵でなければ、バリスタの矢はよけられない。

 あわれウルフは、ハチの巣に。

 敵から素材を剥ぎ取って、死体は焼いて埋めた。魂は、ヘニーに浄化してもらう。アンデッドになって、復活しない処置だ。

「僕の研究も、役に立つだろ?」

「まるで、要塞じゃのう」
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