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第二章 奥様はドラゴンだった!?
第20話 なりゆき妻の思い出
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―リユ視点―
殿方を慕う……こんな気持ちを持ったのは、生まれて初めてかもしれない。
見ず知らずのアタシを、ディータは快く迎え入れてくれた。不法侵入者だったのに。
それだけで、ディータに惚れた。ディータを思うと、胸が切なくなってくるのだ。
ディータは誰よりも、他人を思いやる人である。
いつものように、アタシが孤児たちと遊んでいたときだ。
昼食になると、子どもたちがなんか憂鬱な顔になっている。
「どげんしたんじゃ?」
「このカレーとかいう料理が、辛いの」
確かに子どもたちは、パンかライスしか手を付けていない。
「そんなに辛いかのう? アタシにはちょうどええんじゃが?」
皿に残ったカレーを、アタシはペロリと舌で舐める。
ちょうどいい辛さだ。しかし、苦手な人は苦手なのかも。
「言われてみると、そうだね。待っていなさい」
席を立ったディータは、子どもたちに色々聞いて回る。
厨房に入り、カレーについて調理師にダメ出しをしていた。
「こんなの、辛すぎる」
ディータは、舌が敏感である。
「お口に合いませんか?」
「ダメだな。子どもでも食べられるようにしないと」
「ですが、これがバリナンの伝統的な味でして」
調理師は、反論した。彼はもともと、バリナンの店で腕をふるっていたコックである。自分の味に、誇りを持っていた。ムキになるのも仕方ないか。
「伝統を重んじる精神は、立派だ。しかし、ここはシンクレーグなんだ。新しく作り直して、ウチの名産にしてはどうだろうか」
「バリナンから、非難されませんかね?」
「そもそも国王は、新しい物好きだと聞く。むしろ『新メニューです』って言ったら、飛びついてきそうじゃないか?」
「それはいいですね。やってみましょう」
最初は不満を漏らしていた調理師も、チャレンジ精神を焚きつけられて奮起していた。
調理師を頭ごなしに否定せず、彼の腕を信じて思いやるとは。
後日、ハチミツと、すりおろしたリンゴを混ぜ合わせた甘口カレーが完成する。
子どもたちは、たいそう喜んだ。
「見事じゃ。子どもの気持ちをよくわかっとる」
「自分も、子どもたちの背格好と大差ないからね」
ディータ本人は、そう笑った。
おそらく、違う。人様に食べさせるものだから、用心しているのだ。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
―ディータ視点―
「んあ……」
僕は、隣で寝ているリユの体温で、目覚める。
ここは、シンクレーグの王城か。
「もしかして、リユが僕をここまで運んでくれたの?」
「そうじゃ」
僕はまる半日、眠っていたらしい。
リユが、僕をおぶってくれているのか。
「そのまま寝とれよ。身体にムリをさせすぎじゃ」
「ダメだ。客人を待たせている。だろ、トラマル?」
僕は隣で立っている、鉄じかけのゴーレム執事に声をかけた。
「はい。応接間にお通ししております」
「よし。すぐに向かうと知らせてくれ。お茶のご用意も」
「かしこまりました」
シンクレーグの城で、改めてドワーフの王女から自己紹介をしてもらう。
「テッシム国の王女、レフィーメ。父王の代行として、ディータのところへあいさつに来た」
ショートカットのお姫様が、僕にお礼を言いに来た。
「テッシムの王様は?」
「父王は、テッシムをシンクレーグの属国にする許可をいただくため、ボニファティウスにあいさつへ向かっている」
その後テッシム王は、すぐに北東へ趣くそうだ。カイムーンでやり残している、境界用の壁づくりを再開するという。
「無礼は承知。でも父王は、『ワシのようなヒゲ面がお出迎えするより、お前のような美人にお礼を言われる方が、シンクレーグ領主殿はうれしかろう』と」
「ガハハハ! ちげえねえのう! あのドワーフ王様、ダンナ様の生態をよくわかってらっしゃるわい!」
レフィーメがいうと、リユが膝をたたきながら大笑いした。
「かまわないよ。寝ていた僕が悪いんだから」
僕も、激しく同意である。堅苦しいお礼なんて、必要ない。それより、自身の仕事に打ち込むべきだ。僕に礼儀なんて、不要である。
「それにしても、ずいぶんとラフな正装なんだね?」
お姫様ではあるのだが、レフィーメの格好がサスペンダーとショートパンツなんだよな。ドレスとかではない。
「ごめんなさい。仕事柄、ドレスを着る機会がない」
なんでも、ドワーフは「体型に見合った可愛い服を着ると、弱体化する」という。着慣れないドレスコードでは、本来の力を発揮できないらしい。
ドワーフは、仕事の神様に愛されている。仕事以外のことをすると、神の怒りによって祟られるそうで。
「公務で北東カイムーンに正装して行く途中で、あの魔族どもに襲われた」
面倒だな。
「じゃあ、ウチの領内ではラフな格好で構わない」
「ありがとう」
「ではさっそく、ここをテッシムの王様が治めてもいいように、父上に掛け合ってみよう!」
相手は王様なんだ。僕より偉い人じゃないか。
そんな人に治めてもらったほうが――。
「ならん」
ですよねー。
殿方を慕う……こんな気持ちを持ったのは、生まれて初めてかもしれない。
見ず知らずのアタシを、ディータは快く迎え入れてくれた。不法侵入者だったのに。
それだけで、ディータに惚れた。ディータを思うと、胸が切なくなってくるのだ。
ディータは誰よりも、他人を思いやる人である。
いつものように、アタシが孤児たちと遊んでいたときだ。
昼食になると、子どもたちがなんか憂鬱な顔になっている。
「どげんしたんじゃ?」
「このカレーとかいう料理が、辛いの」
確かに子どもたちは、パンかライスしか手を付けていない。
「そんなに辛いかのう? アタシにはちょうどええんじゃが?」
皿に残ったカレーを、アタシはペロリと舌で舐める。
ちょうどいい辛さだ。しかし、苦手な人は苦手なのかも。
「言われてみると、そうだね。待っていなさい」
席を立ったディータは、子どもたちに色々聞いて回る。
厨房に入り、カレーについて調理師にダメ出しをしていた。
「こんなの、辛すぎる」
ディータは、舌が敏感である。
「お口に合いませんか?」
「ダメだな。子どもでも食べられるようにしないと」
「ですが、これがバリナンの伝統的な味でして」
調理師は、反論した。彼はもともと、バリナンの店で腕をふるっていたコックである。自分の味に、誇りを持っていた。ムキになるのも仕方ないか。
「伝統を重んじる精神は、立派だ。しかし、ここはシンクレーグなんだ。新しく作り直して、ウチの名産にしてはどうだろうか」
「バリナンから、非難されませんかね?」
「そもそも国王は、新しい物好きだと聞く。むしろ『新メニューです』って言ったら、飛びついてきそうじゃないか?」
「それはいいですね。やってみましょう」
最初は不満を漏らしていた調理師も、チャレンジ精神を焚きつけられて奮起していた。
調理師を頭ごなしに否定せず、彼の腕を信じて思いやるとは。
後日、ハチミツと、すりおろしたリンゴを混ぜ合わせた甘口カレーが完成する。
子どもたちは、たいそう喜んだ。
「見事じゃ。子どもの気持ちをよくわかっとる」
「自分も、子どもたちの背格好と大差ないからね」
ディータ本人は、そう笑った。
おそらく、違う。人様に食べさせるものだから、用心しているのだ。
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―ディータ視点―
「んあ……」
僕は、隣で寝ているリユの体温で、目覚める。
ここは、シンクレーグの王城か。
「もしかして、リユが僕をここまで運んでくれたの?」
「そうじゃ」
僕はまる半日、眠っていたらしい。
リユが、僕をおぶってくれているのか。
「そのまま寝とれよ。身体にムリをさせすぎじゃ」
「ダメだ。客人を待たせている。だろ、トラマル?」
僕は隣で立っている、鉄じかけのゴーレム執事に声をかけた。
「はい。応接間にお通ししております」
「よし。すぐに向かうと知らせてくれ。お茶のご用意も」
「かしこまりました」
シンクレーグの城で、改めてドワーフの王女から自己紹介をしてもらう。
「テッシム国の王女、レフィーメ。父王の代行として、ディータのところへあいさつに来た」
ショートカットのお姫様が、僕にお礼を言いに来た。
「テッシムの王様は?」
「父王は、テッシムをシンクレーグの属国にする許可をいただくため、ボニファティウスにあいさつへ向かっている」
その後テッシム王は、すぐに北東へ趣くそうだ。カイムーンでやり残している、境界用の壁づくりを再開するという。
「無礼は承知。でも父王は、『ワシのようなヒゲ面がお出迎えするより、お前のような美人にお礼を言われる方が、シンクレーグ領主殿はうれしかろう』と」
「ガハハハ! ちげえねえのう! あのドワーフ王様、ダンナ様の生態をよくわかってらっしゃるわい!」
レフィーメがいうと、リユが膝をたたきながら大笑いした。
「かまわないよ。寝ていた僕が悪いんだから」
僕も、激しく同意である。堅苦しいお礼なんて、必要ない。それより、自身の仕事に打ち込むべきだ。僕に礼儀なんて、不要である。
「それにしても、ずいぶんとラフな正装なんだね?」
お姫様ではあるのだが、レフィーメの格好がサスペンダーとショートパンツなんだよな。ドレスとかではない。
「ごめんなさい。仕事柄、ドレスを着る機会がない」
なんでも、ドワーフは「体型に見合った可愛い服を着ると、弱体化する」という。着慣れないドレスコードでは、本来の力を発揮できないらしい。
ドワーフは、仕事の神様に愛されている。仕事以外のことをすると、神の怒りによって祟られるそうで。
「公務で北東カイムーンに正装して行く途中で、あの魔族どもに襲われた」
面倒だな。
「じゃあ、ウチの領内ではラフな格好で構わない」
「ありがとう」
「ではさっそく、ここをテッシムの王様が治めてもいいように、父上に掛け合ってみよう!」
相手は王様なんだ。僕より偉い人じゃないか。
そんな人に治めてもらったほうが――。
「ならん」
ですよねー。
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