追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路

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第一章 辺境、廃城・ゴーストタウン・悪役令嬢つき

第6話 機動執事 トラマル

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 ボニファティウスは、祖母筋が直系だ。祖父は婿養子で、人間である。祖母方が、魔族の血をわずかに受け継いでいた。

「聞いたことがあるのう。ボニファティウスは、そういう場所じゃったと」 

「僕は祖母から、固有スキルの知恵を学んでいるんだ」

 その祖母も、最近亡くなってしまったが。

「素材が足らんようじゃのう。メタリックジェルの素材があるが、いらんか?」

「助かる! ほしい!」

「ほれ、ディータ」

 ちょっとした全身ヨロイくらい大きな素材を、リユが放り投げてきた。

「ありがとう。これで、このマシンが息を吹き返すぞ。

 キャッチして、メタリックジェルの素材を加工する。

「どうも」

 ジェルの金属部分を、オートマタの修理素材として扱う。

 最後にフタを止めて、ようやくオートマタの修理は完了した。

「はあ、はあ。できたよ」

 二時間くらいかな。日が出てくる前に、できあがってよかった。

「あとは魔力を流し込んで、動くかどうか」

 背中を向けさせ、オートマタに電撃魔法を送り込む。

 点灯していなかった丸い両目が、緑色に光った。

「人口執事の完成だ」

「これが、人と魔族が共に暮らしていたシンクレーグの、科学力かえ」

「人と魔族が共存できる世界を、祖母はずっと築こうとしていたんだ。けど――」

 話そうとしたときに、僕の意識は途絶えた。少し、ムチャをしすぎたかな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 僕は、祖母から昔話を聞いている。夢だとわかっているのは、祖母がもう亡くなっているからだ。僕の身体も小さい。おそらく、幼い頃の夢だろう。
 人と魔族が争っていると言っても、魔族側は一枚岩ではない。
 祖母の先祖がいたこのシンクレーグ国は、人と共存しようとしていた。が、国ごと滅ぼされて、ほぼ跡形もない。領地もほぼすべて、魔族に占領されてしまった。
 僕の手で、立て直す。
 悪党を追い払い、人と魔族の共存できる世界にする。この国だけでも。
 夢の中で、祖母と約束をした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 目を開けると、ぼんやりと祖母の顔が浮かぶ。

「おばあさま?」

「それほど、歳を取っとらん」

 気がつくと、僕はリユに腕枕されて眠っていた。

 リユの胸に、顔を挟まれているではないか。

「ごめん」

 僕はあわててベッドから半身を起こす。

 窓の外はもう朝……いや昼間になっていた。

「そうだ。執事は」

「おはようございます。主様」

 樽型のアイアンゴーレムが、僕にかしずく。

 どうやら執事ゴーレムは、完成したらしい。言葉も話せるとは、かなり高度な技術が使われていたようだ。今となっては、わからないけど。

「私は名もなきゴーレム。名前をいただいて、ようやくあなたの執事として本契約となります」

  口調は礼儀正しく、イケているボイスだ。メタルジェルの素材を、声帯に活用してよかった。

「ああ。わかった」

 とはいえ、名前なんてどうしよう?

「ホンマは、アタシが名前をつけてやろうかのうって思うていたんじゃ。けんど、おめえじゃねえと命令を聞かんらしくてのう」

「そうか。なんて名前にしようとしたの?」

「トラッシュ型で丸いから、トラマルじゃ」

 安直だけど、見た目には合っているかも。

「僕はディータ。ディートヘルム・ボニファティウス第四王子だ。こっちはリユ・キヴァ。今は僕と結婚して、ボニファティウス姓を名乗っている」

「はじめまして、ディータ王子様、奥様のリユ様。私に名をくださいませんか?」

「うーん」

 何も思いつかない。

「じゃあリユの案を採用して、『トラマル』で」

「トラマル。素晴らしい名前です。これより私は、機動執事トラマルとお呼びください」

 名付けが終わると、執事トラマルはあいさつをした。

「では主様、私は何をすれば?」

「あいさつ回りだ。お前にこの一帯の管理を任せるからな」

 街の巡回をする目的は、街の人にトラマルの顔を覚えてもらうことだ。

「お食事は? 本来なら、内蔵記録装置によって、トータル二〇〇〇種類のメニューを作れます。が、この付近には素材がなく、三種類しかご用意できません」

「外で済ませる。街の管理もしたいからね」

「かしこまりました」

 トラマルとリユを連れて、あちこちを回る。

「このシンクレーグも、もともとは祖母の一族が所有していた土地だったんだ」

 今は荒れ果て、魔族の好きにされているが。

「どの場所も、ショボイのう」

 色々巡ってみたが、あまり流行っている様子はなかった。食料庫も、心もとない。

「一応それなりに冒険者はいるから、狩り場としては優秀みたいだね」

「しかし、冒険者では長居をせん。お金持ちなどはみんな、安全な南の方へ逃げてしもうとる」

「そうなんだよね」

 シンクレーグでも、こっち側は安全だってわかってもらえたら、お金の動きだって変わるかも……ん?

「なんだ、いい匂いがする」

 商業ギルドの隣から、スパイシーな香りが。

「カレーかな?」

「そのようです。シンクレーグは、香辛料の産地としても盛んですので」

 南の王国の食べ物だと思っていたが、ここでも食べられるとは。

「とはいえ、香辛料の活性作用を悪用し、魔族が麻薬の原料にしてしまっているという話もございますね」

「脱法危険ドラッグってやつだね」

 それはいけない。カレー文化を滅ぼそうって言うなら、こっちが魔族を滅ぼす。

「悪い魔族を滅ぼす前に、腹ごしらえだ」

 この判断が、後に冒険者たちをカレー中毒にまで追い込むことになるなんて。
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