百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第四章 学園の闇を暴け! 百合王子の禁じ手!

百合王子、夜の街へ!?

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 いかにも子どもうけしそうな家族向けレストランだったという。ただ、女の子にしか優しくないと低評価だそうな。

 その店のウワサは、オレもトーモスから聞いていた。

 トーモスによると、「子ども向けならぬ、子供だまし」とのことだ。「ちびっこ百合」をコンセプトにしているのが、大いに気持ち悪いという。

 聞いただけでも、寒気がする。

 誰にでも優しいシビルが、敬遠するほどの店だ。期待はできんだろう。

「チエリちゃんのお店は、大丈夫だとは思いますが」
「心配だな。では、兄が様子を見に行ってやろう」
「ホントですか? シビルが心配していたと告げてくださいませ」
「約束しよう」

「ありがとうございます。大好き兄さま」
 オレの腹に、シビルが抱きつく。

 街へ向かうと、別の喫茶店が客引きをしていた。
 しきりに『女性カップル限定のサービス』を謳っている。
 客は入っているようだが、女性しかいない。
 雰囲気も、落ち着かない様子だ。
『食べさせ合えばさらに半額』とか『写真を撮ればドリンク無料』とか、めんどくさいことこの上なかった。

「やけに露骨だな。シビルが嫌がるわけだ」

 百合とは強要する物ではない。自然発生するモノだ。
 あんなやり方は、オレの主義に反した。

 店を無視して、隠れられそうな路地裏へ。

 物陰に隠れ、メイドのメイを呼ぶ。

「メイ、いるか?」

「こちらに」
 オレの前に、メイが現れる。

 学校の教師をしながら、オレが呼べばメイド服姿で現れるのか。

「件の辻斬りを調査せよ。ただし、油断するな」
「心得ております。あの少年の足取りはいかがいたしましょう?」
「そっちはオレが追う。お前は、情報を集めてくれ」

 メイのことだ。
 ライバラがなにかしらおかしな行動を起こせば、問答無用で叩き潰すだろう。

 それは避けたい。
 彼とは、話し合いで解決できるならそうしたかった。
 友として。

「オレも帰りが遅くなる、と伝えておけ」

 そう告げると、メイが不審がってオレを見た。
「は? どちらへ?」

「行きたい場所がある」

 メイが、オレの視線の先を追う。

 路地裏に、煌々と照りつける艶っぽい光が灯り出す。

「さ、左様ですか。王子も隅に置けへんなぁ」
 真面目モードだったメイが、急にデヘヘとニヤけた表情に。

「ご、誤解だ! オレはただ」
「皆まで言わんでええって。黙っといたる。口では百合百合言うても、王子かてオトコや。発散したいわなぁ」
「違うっつーの! とにかく、お前は辻斬りを追え! いいな!」

「へいへい」
 最後までオレのことを誤解したまま、メイは調査へ消えた。

「まったく。そんなんじゃない」
 オレは、とある店へと急ぐ。

「たしか、こっちだったような」
 トーモスの情報を頼りに、足を進めた。

 辿り着いたのは、古びた小料理屋である。
 木造で、こぢんまりとした佇まい。
 隠れ家というのは、こういう形状を言うのだろう。

 オレだって歳を取れば、お忍びでこのような場所にくつろぎたい。そう思わせる。

「すまん。開いているか?」
 ノレンという布をくぐって、店の扉を開く。

 客たちは、年配が多いようである。
 一見さんはお断りなのか、オレの顔を見て怪訝そうな顔を浮かべた。

 手に取っている杯も、やけに小さい。

 家族連れで食べに来る店ではないらしく、子連れはいなかった。中年カップルか、一人酒が多い。

「いらっしゃ……」
 気弱に、店主がカウンターの奥からペコペコ頭を下げる。
 店主はオレを見ると、すぐに客じゃないと悟った。

「申し訳ありません。未成年の方は……」

 ここはオトナの世界だ。

「いいんだ。友人を見に来ただけである」
「友だちって。ひょっとして?」
「エミネ・ライバラだ」
「へ、へいっ。少々お待ちを。おいエミネ、こっち来い」

 主人がカウンターから厨房へ引っ込み、ライバラを連れてくる。

「まさか、息子に友人ができるとは。おあがりになって。大したモンは作れませんが」
「話を聞きたいだけだ。すぐに出る」

 親が同伴していない未成年が長居しては、この店にも迷惑が掛かる。

「話って、なんだ?」

 手持ち無沙汰そうに、ライバラは手ぬぐいを弄ぶ。
 時々チラチラと、店内の様子を伺っている。
 早く仕事に戻らないと、と考えている様子だった。

「付近に出没した、辻斬りの話だ」

 すぐにライバラは、「ああ」と短く返答をする。

「昨日も、店の経営者がやられた」

 聞いているのか、いないのか。
 オレが話している間、ライバラはずっとソワソワしていた。

「気をつけてな」

 なぜ逃げた、なんて聞けない。
 オレには、彼が辻斬りなどを行うなんて想像すらできないのだ。

「それだけ言いに来たのか?」
「ああ」

「変なヤツだな、あんた」
 卑屈そうに、ライバラは笑う。

「お前がというより、チエリ嬢が心配なのだ。オレの妹と同じ学友だからな」

 チエリ嬢が襲撃されたら、きっとシビルは悲しむ。
 オレだって、犯人を八つ裂きにするだろう。

 子どもたちが安心して出歩ける街を、取り戻す。

「とにかく、チエリ嬢は守れよ」
「おう。忠告ありがとうな」
「礼には及ばん」

 扉に手をかけた瞬間、ライバラが後ろから声をかけてきた。

「おれを疑っているんじゃ、ないのか?」
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