百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第四章 学園の闇を暴け! 百合王子の禁じ手!

百合王子の介抱

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「傷は回復したわ。でも、リハビリはなさってね」
 恐る恐る、店員は腕を確認する。たしかに、 動くようになっていた。

「ありがとうございます! よかった!」
「なんとお礼を言っていいか! すぐに治療費をお支払い致します」

 店員姉妹が、抱き合って感謝を述べる。

「結構よ。それより、街のためにおいしいアップルパイを焼いてくださいな。元気になってからでいいから」
 欲のないソフィが、何も受け取らずに立ち去ろうとした。

「それでは、わたしたちだけが得をしてしまいます。そうだわ。ではお二方、学生証を提示願えますか?」

 言われるまま、ソフィとツンが学生証を見せる。

「確認致しました」

 店にひっこんだ少女は、すぐに戻ってきた。
 手に小さなチケットを二枚持って。

「こちらのチケットをどうぞ。これを提示すれば、一生ここのパイを食べ放題になります」

「いいの?」
 受け取ったチケットを、ソフィたちは改める。

「これでも安いくらいですわ!」

「ありがとう。では、遠慮なくいただきます」

 言った瞬間、ソフィがヒザを崩す。
 魔力が尽きてしまったのだ。

「おっと」
 オレは、ソフィの身体を抱きかかえる。

「気を失っているな。ムチャしやがって」

 男性にお姫様抱っこされているという状態なのに、ソフィは起きてこない。
 自分の身体も消耗している上に、大治療である。
 おまけに、慣れない治癒魔法のコントロールだ。
 神経をすり減らさない方がおかしい。
 ここまでよくがんばった。

「すまんがツン。肩掛けをソフィに被せてくれないか?」

 両手が塞がっているままなので、ソフィに頼む。

「はいっ!」
 ツンディーリアが、ソフィの身体をフワフワの生地で覆う。

「女子寮まで送っていこう。あとはツンに任せていいか?」
「承知しましたわ!」

「では諸君、失礼する」
 ソフィを抱え上げたまま、お店を後にした。

「王子、ありがとうございますわ」
「オレは、何もしていない」

 治療したのは、ソフィたちである。
 それに引き換え、オレは現場を離れた。
 自分のことしか考えていない。

「キミたちこそ、見事な働きだった。街のモノを代表して、感謝する」

「いえいえ。王子がみんなを守ってくださらなかったら、我々もこの場にいたかどうかわかりませんわ」
 食い気味に、ツンは反論してきた。

「あなたはご存じないかも知れませんが、みんな王子を慕っているのですわよ?」
「どうだろう? オレには、実感がないが」

 首をかしげながら、オレは自分の行いを省みる。
 どう考えても、単に百合を守っているに過ぎない。

「オレは当たり前のことをしているだけだ。百合が潤えば、みんなが潤う。オレは、ただ自分が潤いたいだけだよ」

「そういうところですわよ、王子」
 口を尖らせながら、ツンは流し目でオレを見た。

 赤レンガの建物が見えてくる。

「ではこれで」
 ソフィをツンに預けた。

「キミも、気をつけるんだ。魔力をソフィに与えて、消耗しているはずだから」

「いえ。かえって活力が湧いてきていて、たまりませんの。わたくし今夜は、眠れなくなりそうですわ」

 部屋に戻ったら、押し倒してしまわないだろうな?

「あの、王子?」
 帰ろうとしたオレを、ツンが呼び止めた。

「どうした、ツンディーリア?」

「王子は、その……本当にソフィを慕っていませんの?」

 いきなり何を言い出すのか。

「ソフィだって、王子が人のために尽くしていることを知っています。わたくしも。王子なら、ソフィも」


「めったなことを言うんじゃない」 

 ツンが言おうとしていたことを、オレは言わせなかった。

「嫁になるかどうか。それは、ソフィが決めることだ。オレから頼むなんてできないよ」

 ソフィは魅力的だ。妻として、これ以上ないと言えるだろう。
 それでも、オレと一緒にいたいのかは別の話だ。

 結婚が、ソフィにとって幸せなのかどうかもわからない。
 オレから要求するわけには、いかなかった。

「なにより、好きな女性の腕で健やかな寝息を立てているような女性に、『付き合ってくれ』なんて言えないさ」

「王子、感謝致しますわ」
 ツンは安心したように、ソフィを抱き寄せる。

「さすがに重いだろ? 早く戻った方がいい。おやすみ。ツン」

「おやすみなさいませ、王子」

 二人が幸せなら、オレはそれでいい。
 
 
 次の日、シスタビルがションボリした顔で帰ってくる。
 ヴァイオリン教室がつまらなかったのだろうか?

 オレは夕方から動こうとしたので、昼間は出歩かず休養していた。

「どうした、シビル?」
「チエリちゃんが、おやすみしたのです」

 それは、気の毒に。
 オレもついていってあげればよかったな。すまぬ妹よ。

「病気か?」

 シビルは首を振った。なんでも、家の用事だとか。
「エミネお兄さまも、用事だとかで」

「気になるな」
「レストラン限定の辻斬りとかいう、物騒な事件もありますし」

 今回は大事を取って、大臣がついて行った。
 無事で帰ってきてなによりである。

「最近、子ども向けの変なレストランができていました」
「食べに行ったのか?」

 ブンブンと、シビルは全面拒絶の姿勢を見せた。
「あまり楽しそうでは、ありませんでした」
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