百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第四章 学園の闇を暴け! 百合王子の禁じ手!

百合王子、見舞いに行く

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 オレは、ソフィたちの住む女子寮の前にいた。

 赤いレンガ作りの建物は、聖域を思わせる。

 痛みは消えたが、体力はまだ回復していない。しかし、これくらいで音を上げていては。

 何より、百合成分が足りなさすぎる! もう一日も、二人のイチャイチャを見ていない!
 このままでは、百合を追い求めるモンスターと化してしまう!

 しかし、ここの寮長は怖い。
 入り口はずっと向こうなのに、睨まれている気がしてならなかった。

 出直そうかと思っていると、寮の壁際にあるベンチが見えた。木陰に座る、二つの人影が。

「むう?」
 オレの百合センサーがビンビンに働く。
 これは上質な百合の気配だ!

 赤いジャージ姿のツンが、蒼いジャージを着たソフィにリンゴを切っている。

「はい、あーんですわ」
「あーん」

 ナイフに刺したリンゴを、皮ごとソフィの顔へ近づける。

「もう、動けるようだな?」

「うひゃあ!」
 後ろから声をかけられて、ツンがリンゴを落としそうになった。

 ソフィが顔をムリヤリ近づけてリンゴをダイレクトキャッチする。
 どうにか地面への落下を阻止した。

「何しに来たのよ、ヘンタイ」
 リンゴを咀嚼しながら、ソフィがオレを凝視する。

 ツンの方は、オレを流し目で見つめながらフリーズしていた。

「体調が悪いと聞いてな。様子を見に来た」

 たとえ王子といえど、女子の聖域には入れない。
 寮長に見舞いの品を預かってもらって、退散しようとしていたところである。

「ホントに? 王子特権で中に入ろうとでもしたんじゃないの? あんた、人を洗脳できるじゃん」
「有名鬼寮長を、洗脳なんてできるか。精神耐性が振り切れているそうじゃないか」

 以前、門限を破った生徒が記憶操作しようとしたが、跳ね返されてよい子にされた、と聞いたぞ。

「身体は、もういいのか?」

「一晩寝たら、食欲も回復したわ」
 ソフィが、手を天に伸ばす。

「わたくしも、熱は引きました」

 やはり、あのレア装備を解放した反動らしい。
 あの装備品は所持者をレベルアップさせるが、代償も大きいようだ。
 とはいえ、魔王に対抗できうる武装が整ったのはありがたい。
 連発できないのは、汎用性がなさ過ぎるが。
 といっても、「あれだけのパワーをポンポン出せ」とは言えないよな。

「魔王も本調子ではないようだ」

「みたいね。しばらく出没の話も聞かないし。ツン、リンゴもう一個ちょうだい」
 リンゴを飲み込んで、ソフィは再度ツンにねだる。

「あっ、はい」
 自分の役割を思い出したかのように、ツンが我に返った。かいがいしく、リンゴを切る。

 人払いの魔法を周囲に振りまき、尊い空間を維持した。

「慣れているな」
「ライバラさんの手つきをマネましたの」

 弁当だけでなく、リンゴも持ってきているそうな。

「いつも、こうして皮ごとリンゴを切って食べていますのよ」
「おそらく、手先の訓練だな」

 ライバラの実家は、小料理屋らしい。彼が跡を継ぐそうだから、修行が必要なのだろう。

「いつの日か、二人で暮らすようになったら、家事はわたくしがしようと思っていますのよ」
「ツンが、か」

 魔族のお姫様が、家事を。想像も付かない。

「いいって言ってるのに、聞かないの」
「あなたに火の番を任せたら、お鍋が爆発しそうですわ」
「調理実習の話でしょ? じっくり煮込んだ方が、シチューはおいしくなるわよ」
「水気が抜けそうだったじゃありませんか。ソフィの班だけ、ポトフになりかけていましたわよ?」

 珍しく、ソフィとツンが言い争っていた。
 普段から、いさかいが絶えない二人である。が、あれは仲違いしているフリだ。

 素の口論を見ていると、自然と顔がほころぶ。

 まさに女子そのものの会話に見えた。案外、こっちが普通なのかもしれない。

「なによ、ニヤニヤして?」
 ソフィが、頬を膨らませる。

「なに。仲がよくていいなって」

「ヘンタイ」
 語気を強めて、ソフィがオレに抗議した。

「忘れていた。これが見舞いの品だ。といっても、ツンとかぶってしまうとはなぁ」
 オレも、リンゴを持ってきてしまった。
 関係者から、見舞いとして送られてきたモノである。
 消化にいいものを、と考えたのだが。

「ありがと。リンゴは好物よ」
「王子、感謝致しますわ」

 嫌がることなく、二人は喜んでくれた。忖度抜きの笑顔で。

「食べますか、王子も」
 切ったリンゴを、ツンがオレに差し出してくれる。

「遠慮しよう。オレは丈夫だからな。二人が仲良くする場面の方が、オレの栄養になる」
「やっぱりヘンタイだわ、あんた」

 ソフィが、目を細めた。

「ではまた。欲しいものがあったら、ティファを通して伝えに来てくれ」

「ありがとう、王子。うれしいわ」
 ツンの肩をなでながら、ソフィが手を振る。

「お気を付けて」
 会釈をした後、ツンはソフィにリンゴを食べさせた。

 リハビリがてら、街まで散歩へ向かう。

 さて、見舞いも済んだら腹が減ってきた。
 リンゴを見過ぎたからアップルパイのうまい店でも探すか。
 百合テロ部をいつでも再開できるように。

「辻斬りだ!」

 遠くから、男性の悲鳴が上がる。

 オレは、通りの一角に人だかりができているのを目撃した。
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