百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

百合の騎士と魔王

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 格別の百合魔法を魔王に浴びせて、勝機を掴む。

 そのためにはまず、生徒を元に戻さねば。

 オレの試みを察してか、幽霊騎士の軍団が詠唱中のオレに一点集中で襲いかかった。
 彼らの背後から、魔道士の援護射撃が。

「オレをカバーしてくれ、トーモス!」 

「任せろ。今宵の俺は、血を欲しているぜぇ!」
 幽霊騎士たちを相手に、トーモスも奮闘している。

「食材になりたい方から、前へいらっしゃいませ!」
 トレントを担いで、ティファが魔物の群れへと投げ飛ばした。

「くっそ、いくら俺でも魔道士までは手が出せねえ!」

 前衛の騎士の相手だけで、トーモスは難儀していた。
 ソフィやツンが加勢に来ているが、数が多すぎる。

「任せろ。斬!」

 岩場に隠れて呪文を詠唱していた魔道士たちを、ライバラが真空波で切り裂く。

「チャージも、完了しましたわ!」
 先ほどより威力を調節して、ツンディーリアが手を交差させた。大砲と一体化した両腕から、ブレスを放つ。

 ツンの一撃で、大量の亡霊騎士が燃え尽きた。
 だが、ツンはそれだけに留まらない。

「トーモスさん、剣を一本拝借致します!」
「おうよ!」

 不要になった普段使いの剣を、トーモスはツンに投げてよこす。
 だが、ツンの方も手が空いていないが。

 ツンはシッポで、剣を掴んだ。

「三刀流ですわ!」

 両手で亡霊騎士の剣を奪い、三本の剣を持った。
 ソフィ共々、魔王に斬りかかる。

「こざかしい。勝てると思うてか!」
 魔剣を軽々と持ち上げて、魔王も四本の剣を扱う二人に挑む。

「無理でしょうね。だけど、あいつなら。ユリアンなら、やれるわ!」
「彼は、ユリアン王子とはそういう男でして!」

 ソフィもツンも、オレに絶大な信頼を寄せてくれている。

「くう!」

 ツンが持っていた二本の剣が、破壊された。
 魔王の攻撃は、ツンの防御すら突き抜けるのか。
 あやうくツンは、致命傷レベルの攻撃を受けそうになった。

 しかし、ツンはシッポに巻き付けていた剣を手に持ち替えて、相手の攻撃を受け止める。
 同時に、シッポは魔王の腕に巻き付く。

「余を相手に力比べとは。愚かな!」
「ドラゴンを相手に、言える立場では!」

 さすがの魔王でさえ、ツンの腕力を振り払えない。

 いや、これは。

「違う! 二人とも離れろ!」

 オレは、ソフィたちに魔王から遠ざかるように言う。

 だが、ソフィは魔王に斬りかかろうと、踏み込んでしまった。

 魔王は動じない。ツンを盾にしたからだ。

 本来ならば、絶好の機会である。

 だが、愛する友ごと悪漢を斬るなんて、ソフィにできるはずなどない。

 刃の動きが、ピタッと止まる。

 スキを突いて、魔王はソフィの脇にヒザ蹴りを入れた。

「やはり所詮人間。甘い」

 魔王がツンの首を締め、つり上げる。
 もう一つの手には、巨大な魔剣の切っ先が。

「甘いのは貴様だ、魔王! 【百合治療リリー・リフレッシュ】!」

 身体を仰け反らせて、オレは最大出力の百合魔法を唱えた。

 聖剣から、百合の香りがする霧のシャワーを放つ。

 心を壊された生徒たちに、シャワーが降り注ぐ。

 あれだけ自失していた生徒たちが、正気に戻った。活力が漲り、戦闘意欲が復活する。

 これが、聖剣・威厳ディグナティの持つ力か。

「ディグナティだと? そんな伝説級の聖剣を、どうして……」
「知るか。しかし、形勢は逆転したな!」

 道を塞いでいた魔物たちも、正気を取り戻した生徒たちの手によって壊滅した。

「なるほど。少しはできるようだ。腐ってもバルシュミーデの子孫か」
「ついでに貴様の心もいただこう! 尊い百合の世界へ、オレがいざなってやる!」

 だから、オレに力を貸せ。百合の剣士よ!

「我が前にいでよ、百合の守護者よ! 【百合剣豪《リリー・ソードマスター》】!」
 オレに聖剣を授けてくれた冒険者を、呼び出す。

 長いつばを持つ帽子を被った剣豪が、再びオレの前に現れた。

「ぬう、お前は!」
 忌々しげに、魔王ギャルルは冒険者を睨む。
「どこまでも我が覇道を邪魔するかっ!」

 やはり冒険者と魔王には、ただならぬ因縁があるらしい。

 女性剣士が、光る百合の花束へと変化した。魔王の軍勢を取り囲む。
 百合の花すべてが、サーベルの刃となって魔物たちを刺し貫いた。

 百合サーベルのシャワーを、今度はギャルルに向ける。利かないまでも、足止めくらいはできるはずだ。

「なああっ!?」
 魔剣を振り回し、百合の刺突を弾き飛ばす。

「これでどうだ!」

 一度百合刺突を引かせ、長い槍へと姿を変形させた。

「おおおお!」

 フェンシングの突撃を繰り出し、オレは聖剣と槍を組み合わせる。狙いは、魔王の心臓だ。

「こざかしい!」

 幅の広い魔剣を振り下ろし、ギャルルは黒い魔力障壁を作り出した。

「くそぉ。その聖剣は、封印したはずなのに!」

 障壁を前面に展開して、ギャルルは百合の槍を防ぐ。

 槍と黒い壁が、相殺した。

 爆風の勢いで、オレも吹っ飛ばされる。

 倒れていた魔王が、立ち上がった。
 まだ、足に力が入っていない。
 ダメージは負っていないはずだが、妙だ。
 パワーが散っていくかのように、魔剣が放電した。刃が一部、欠けている。

「あの女どもが王子に協力したか。死して尚、忌々し……いいい!」

 突如、魔王ギャルルが額に手を当てた。
 ブンブンと、頭を振っている。
 何かを追い払おうとしているような。

「……忌々しいのは、テメエだし!」
 明らかに、ギャルルの様子がおかしい。
 血を固めた宝石のように赤黒かった瞳が、蒼くなる。

「おのれ、調節がまだ!」
 巨大な剣を振って、ギャルルは地面を抉った。

「今日はこれまで。しかし、いずれ再び戦うことになろう!」
 土ボコリを起こし、魔王が姿をくらませる。
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