百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

百合優等生の兄

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「ああ。あいつは用心しろよ」
 今朝の一件を話すと、トーモスが食い気味で指摘してきた。文字通り、デカ盛りを食っている状態なのだが。
 トーモスが挑む相手は、食パン一斤を土台にしたグラタンパスタだ。

 騎士の心得があるトーモスが、一撃でやられたのである。
 ライバラは、警戒するに値した。

「私のクラスでも彼と戦ったのですが、誰も勝てませんでした」
 兄とは違った特大の魚介スープパスタをモリモリと頬張りながら、イモーティファも加勢する。
 真顔のトーモスと比較して、ティファは笑みが出ていた。

 二人とも、コレでモーニングというのだから恐ろしい。

 すっかり食欲の失せたオレたちは、三人ともコーヒーだけ頼む。

 付け合わせにゆで卵でも、と店員に言われた。

 しかし、父のイヤミな顔を思い出して断る。

 記録担当のソフィが、イモーティファだけスケッチをしていた。ヤロウはお呼びではないということか。わかる。

「ライバラの強さは別次元だって。ソフィさんやツンディーリアさんでも、敵うかどうか」

 トーモスの話を聞きながら、ソフィは首を傾げた。

「そんなになの? ねえ、その男子って何者?」

 同じクラスであるツンディーリアに、ソフィは話をふる。

「東洋の出身という以外は、謎が多いんですの」
 ゆで卵のカラを指で小さく剥きながら、ツンディーリアは話した。

 クラスの誰も、ライバラとはまともに話したことはない。
 妹の面倒があるからと、部活にも加入してないという。
 担任ですら、彼を持て余しているそうな。

「まるで、自分のプライベートがないみたいなのですわ」

 妹中心に、世界が回っていると。

「わたくしと同じクラスというだけあって、武術は天才的ですわ。そのくらいでしょうか」

 ますますわからないな。

「直接対決したことは、ないのか?」

 ツンディーリアは首を振った。

「まあ、大食いで勝てばいいのです、お兄ちゃん」

「そうだな! 俺には大食いがあるんだ! お兄ちゃんがんばるから見てろよ!」
「頼もしいお兄ちゃんファイト!」

 腹を揺らしながら、トーモスが再びデカ盛りに立ちむかう。

 彼らがメニューを蹴散らしている間に、オレはデカ盛りについて、店員にインタビューを行った。
 特に興味はないが、一応体裁を取り繕うためである。
 
 オレが聞き、ツンディーリアがメモをまとめた。

「このケーキに載った、二つ並んだ雪だるまが実に尊いな」
「わかりますか? 実はお隣のヴァイオリン教室に通っている、仲良し二人組がモデルなのですよ!」

 ウキウキしながら、年配の女性店員がまくしたてた。
 窓からチラチラと見えて、かわいらしいと評判だそうな。

「話がわかるな。女性でこの尊さがわかるとは!」
「もちろん! この道、長いので!」

 女性店員も、百合の波動を持つ剛の者らしい。

「お、見事だ。常連にさせてもらうぞ!」
「ぜひぜひ!」 

 だが、そんなカワイイケーキの雪だるまを、ティファがパクッと食べてしまった。

「あああああ!」

 オレと店員の声が揃う。

「ん? どうしました?」
「今のを食うか?」

 あんな尊い芸術品を、あっさりと。

「そりゃあ食べますよ。食べ物ですから」

 皿にはもう、生クリームしか残っていなかった。

 
 約束の時間となり、ついんずたちとは別行動に。シビルを迎えに行く。

 ついんずの食いっぷりをずっと眺めていると、かえって腹が減ってきた。何か摘まんでおけばよかったか。

 ソフィも、シビルに会いたがっていた。
 だが、ツンディーリアと仲良くすることを優先するらしい。
 お邪魔虫なオレがいない間に、目一杯楽しむそうな。
 
 それでいい。

「おお、どこにいたかと思えば」

 すぐ横に、ライバラが立っていた。神出鬼没だな。

 シビルが、チエリ嬢と一緒に教室から出てきた。

「これから妹と食事に行くが、一緒にどうだ?」
 妹の頭を撫でながら、ライバラを誘う。

 話してみたいし、何よりチエリ嬢とシビルのふれあいも見てみたい。

「悪いが、次の習い事が料理教室だ。そこで済ませる」

 大変だな。しかし、愛する妹の手作り料理か。それはそれで。

「わかった。無理に誘って悪かったな」

「いや。こちらこそ。では」
 ライバラが、妹を連れて去って行く。

「よし。今日は、色々見て回ろう」
「いいので? 部活なのでは?」
「夕方に合流だ。それまでは自由だよ」

 午後は、シビルと久々に兄妹デートの時間を作った。

 ついんずが制覇した店に。

 シビルが好きなものを全部頼み、くつろいだ。
 仕上げに、さっき頼みそびれたカフェのケーキを用意してもらう。

 自分たちがモデルとも知らずに、妹はたいそう喜んだ。

 妹とこんなに話したのは、久しぶりかも。
 家族サービスも、たまにはいいモノだ。

「料理を作るとは。貴族なのに」

「お貴族様じゃないですよ。『しゃちょーれーじょー』なのです」
 舌っ足らずな言い方で、シビルが教えてくれた。

 東洋風レストランの、オーナー一家だそうで。

「なら、トーモス兄妹が食いつくはずだ」
「夜間にしか開けないお店だそうです」

 それで、ついんずが知らなかったのか。

「でも、潰れそうだとか」

 なので、子どもたちで立て直そうと努力しているらしい。
 妹は料理と演奏を担当し、兄も店の手伝いや、別のバイトで家計を支えているという。

 今朝姿をくらませたのは、バイトの時間だったのかも。

「苦労人なんだな」

 ただ、ライバラのバイトについては、シビルでも知らないそうだ。
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