百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第二章 発足、百合テロ同好会

歪められていた百合伝説

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 倉庫内の備品を体内に取り込んで、魔物は巨大化していった。

 メタルラックが分解され、魔物の骨となる。
 体育祭の応援で使うポンポンが、ソイツの背中にへばりついて体毛と化した。
 他にもハードルが口になって、チョークの牙が生える。

「むおおおお! ようやく封印が解かれたぞぉ!」

 頭をブルッと震わせ、四つ足の魔物がムクリと起き上がった。

「何事です!」

 生徒会長並びに生徒会の面々が、続々と空き教室に押し寄せてくる。
 騒ぎを聞きつけたのだろう。

「このバケモノは!」

 突如部屋に現れた魔物を見て、生徒会の面々が尻餅をついた。

「生徒会! 生徒の安全を確保せよ! ここはオレが食い止める!」
 玄関前で、オレは生徒たちをかばうようにして立つ。

「あなた一人ではムチャです!」
「オレの責任だ! オレがカタを付ける!」

 この教室は、オレが整頓すると言ったのだ。最後までやり遂げる。

 そいつは備品を吸収して、さらに巨大さを増す。

「ワシを封じ込めた、あの忌々しい百合のつがい共めぇ! 今度こそ、始末してやる!」

 ポンポンでできた毛並みが逆立ち、その表情は憎しみで歪んでいた。

 どうもこの魔物、伝説の百合ペアに恨みを持っている様子だ。

 話が違うじゃないか。

「お前は、百合カップルが呼び出した魔物ではないのか?」

「違う! ワシはあの女連中に封じ込められたのだ!」
 怒りの籠もった口調で、魔物は語り出した。

「二人の仲を妬む悪しき者共によって、ワシは呼び出された!」

 話はこうである。
 実は百合つがいの婚約者たちが結託し、魔物をけしかけたのだ。

 カップル二人は、魔物を返り討ちにしたのである。
 しかし、二人は命を落としてしまう。

 事態の発覚を恐れた婚約者たちは、この事件を美談として残したのである。

 つまり、これは殺人事件だったのだ!

「度しがたいな。自分の物にならぬから殺してしまえ、など」

 百合好きとしては、恥ずべき行為だ。
 身体だけではなく、心まで支配しようとしたのか。許せぬな。

「ワシを召喚した代償として、そやつらも早死にしたらしいがな。風のウワサよ」
 うれしそうに、魔物が笑う。

「召喚主に敬意はないのだな?」
「敬意だと? 勝手に呼び出されて封じられたのだ! 恨まずにいられるかぁ!」

 魔物が激高し、窓ガラスが弾け飛んだ。

「それ以来、ワシはヤツらに復讐することだけを考えて、屈辱の日々に耐えてきた! 長かった不自由な生活も、今日で終わる! 幸い、肉体も手に入るからな!」

 魔物の照準が、オレに合わさる。

「まずは貴様を始末して、けしかけたヤツらも同じ目に遭わせよう」

「もう数百年も時が過ぎた! 関係者も生きてはいまい」

 圧倒的な魔力を放ち、魔物が威圧してくる。

「ようやく出ることができたのだ! 貴様の肉をいただいて、より身体の構築を安定させるとしよう!」

 テントのペグを爪の代わりにして、魔物が斬りかかる。

「なんの!」
 オレは床に滑り込む。

「【打撃 百合飛蹴リリー・シュート】!」
 魔物のノドに、ドロップキックを浴びせた。

 しかし、利いている様子はない。この魔物は霊体。実体がないのだ。

「バカが!」

 踏み潰し攻撃が降ってくる。

 身体を捻って、踏みつけを回避した。

 床が抉れる。

 紙吹雪のブレスが飛んできた。目潰しか。

「こっちもだ。【百合旋風リリー・トルネード】!」

 ポスターに魔力を注ぎ込んで、硬度を増す。クルクルとポスターを回して、ブレスの軌道を変えた。

 しかし、壁際まで追い詰められる。
 途中、分厚い本につまずきそうになった。
 魔導書だろうか? これは使えそうだ。

「もう逃げ場はないぞ! おとなしくワシに身体を明け渡すがよい。有効活用してしんぜよう!」
 魔物が、大きい腕で突きを繰り出した。

「それはどうかな? それ!」
 回避してオレは、ポスターを放り投げる。

 魔力を失い、バッとポスターが広がった。

「ここにきて目くらましなど」

 哀れ、ポスターは壁役を果たさない。突きによって、大きな穴が開いてしまった。

 そのスキに宙返りをして、オレは前転する。
 爪攻撃をよけつつ、側にあったぶ厚い本を上空に放り投げた。
 前転の速度を乗せたカカトで、書物を蹴り飛ばす。

「んご!?」
 堅い本がノドにクリーンヒットして、怪物は黒板まですっ飛んでいった。

 あの本は、相当魔力の高い代物だったのか?

「なぜだ! 実体を持たぬワシが、ダメージを?」
 目を回しながら、魔物が後退する。

 凄まじい威力だ。
 せめて、魔物が後ろへ吹っ飛んでくれたらいいと思っていたが。

 オレは何を投げたんだ?

 正体は、表紙でわかった。
 この独特な手触り、デカデカと刻印された校章。
 これは。

「おお、卒アルか!」

 オレが蹴り飛ばしたのは、卒業アルバムだった。
 それも、一期生と書いてある。魔法学校でもっとも古い。

 アルバムが落ちた拍子に、ページがめくれた。

 挟んであった一枚の紙切れが、ヒラヒラと床に舞い降りる。

 写真のようだが、随分と古い。白黒だぞ。

「これは!」
 内容を見て、オレは愕然となった。

 写真に写っていたのは、オレのよく知る人物二人だったのである。


「ソフィとツンディーリアじゃないか!」
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