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第二章 発足、百合テロ同好会
百合の魔物伝説
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「しかし、これだけの荷物を運べって、よく……引き受けたな」
両手一杯に段ボールを抱えたトーモスが、オレの後ろから声をかけてくる。
中身は体育祭に使う三角コーナーなど。
隣にいるイモーティファが、ホコリまみれの魔導書を運んでいた。
貸し出されたのは、一階の倉庫である。
本来の倉庫が手狭となったため、空き教室を倉庫として代用するのだ。
本来は生徒会の仕事なのだが、
「百合部の部屋として開けてやるから掃除をしてくれ」
と頼まれている。
教員たちも、一学期中間試験の準備で忙しい。
オレたちは体よく、母を介して生徒会から雑用を押しつけられた。
「百合部開設のためだ。これくらい、どうってことないさ」
両肩に段ボールを二つ抱えながら、オレは返答する。
これで部室がいただけるなら、安い。やってみせようじゃないか。
部室作りは、全部一人でやろうと思っていた。オレが言い出したのだから。
しかし、オレは荷物運びだけでいいという。他のメンバーは、掃除をしてくれた。
「ふう、これでよし」
オレは旧倉庫にあった備品を、空き教室へと運ぶ。
教室はすっかり、机や椅子は撤去されていた。
「道を開けてください。王子」
片手ずつにメタルラックを担ぐツンディーリアが、教室に入ろうとする。
「そんな重いのを持って、大丈夫なのか?」
ツンディーリアが運搬役を買って出たとき、オレは気が引けた。
いくらドラゴン族とはいえ、見栄え的に困る。
「大丈夫です。早く終わらせたいので」
ツンディーリアは、メタルラックを教室の端に設置する。少しも、疲れている様子ではない。
「助かる。キミにそんな一面があったとは」
「器用なことでは、わたくしは役に立てませんから」
彼女は率先して、重い物を運んでくれた。
「それに、見ておきたくて。この場所を」
うっとりした様子で、ツンディーリアは教室を端から端まで視線を移す。
「何もないぞ。空き教室に用事でもあるのか?」
「あなた知らないの? ここの百合伝説」
しばらくして、ソフィも部屋にやってきた。両手に大量の紙束を持って。
「ここはね、かつて『百合の聖地』と呼ばれていたのよ。もう何百年も前の話だけど」
その昔、お嬢様二人が放課後に密会していたという。この教室で。
「二人はそれはそれは、仲の良さそうなカップルだったらしいわ。不幸な事故が起きるまでは」
卒業間近になり、いよいよ結婚しなければならなくなった。
二人には許嫁がいる。
「駆け落ちしましょう」、両者のどちらかが言い出した。
手を取り合い、百合カップルはここで愛を誓い合う。
しかし、情報は親たちに筒抜けになっていて、大勢の人がココに押し寄せた。
「すると一人が、この地に魔物を召喚したの。自分の命と引き換えに」
ちょうどこの位置だと、ソフィは教室の中央に立つ。
「魔方陣のような、薄いシミがあるでしょ? きっとこのポイントが、召還場所だとみて間違いないわ」
よく見ると、教室の床にうっすらと青いシミがあるではないか。
「随分と古い魔方陣だな。規模も大きい」
「二人がかりで作ったような形跡も、あるわね」
どうせ結ばれないならという、決死の覚悟だったのだろう。
生徒たちに被害こそ及ぼさなかった。
とはいえ、外に出せば死亡事故は免れないだろうと、当時最も魔力の高い魔術師が呼ばれたらしい。
「駆けつけた校内最強の魔術師によって、魔物は退治されたわ。けど、二人は魂を抜き取られていた。どうせ、敵わない恋ならと思ったのでしょうね」
「なんという悲しい話なんだ!」
百合好きとして、百合を理解されない苦しみはわかる。
さぞ辛かったに違いない。
もしオレが同じ立場だったらと思うと、涙を抑えきれなかった。
「なんで、あんたが泣いてるのよ」
「これが、泣かずにいられるか! 百合を成就させられないために、人が死ぬとは!」
自由恋愛が一般化しつつある今の時代なら、あまり縁のない話である。
「そんな尊……曰く付きの場所を、倉庫などにしていいのやら」
思わず、本音が漏れた。
「いなくなったか封印されたんだから、いいんじゃない? 危険はないはずよ」
だといいが。
「聞いたことがあります。この教室って、通り過ぎるとうめき声が聞こえるそうですね」
「学園につきものの、七不思議ってヤツだな?」
ティファに続き、トーモスが語る。
「一度入ったらひとりでに扉が閉まって、出られなくなった生徒もいたって」
「へん。だとしたら、そんなウワサは広まらないはずだぜ。出られなくなったんじゃ、話を広められないからな」
名探偵よろしく、トーモスが反論した。
「でも、本気にした学校側が、この場所に封印を施したらしいです。どこにあるかはわかりませんけれど」
「どこだ。見当たらないぞ」
魔方陣を消したくらいで、魔物が消えるとは思えないし。
「とにかく、今は普通の倉庫として活用しましょ。学校側も、いつまでも曰く付き教室だと思われたくないでしょうし」
「それもそうか。よし、運搬作業を再開しよう」
部屋を出ようとした瞬間、魔導書を詰めたラックがわずかに動いた気がした。
「何かしら? あそこがかすかに揺れたような気が」
「ひいい。冗談は止めてくださいまし!」
ツンディーリアが、ソフィの手を掴む。
ああ、尊い。
両手一杯に段ボールを抱えたトーモスが、オレの後ろから声をかけてくる。
中身は体育祭に使う三角コーナーなど。
隣にいるイモーティファが、ホコリまみれの魔導書を運んでいた。
貸し出されたのは、一階の倉庫である。
本来の倉庫が手狭となったため、空き教室を倉庫として代用するのだ。
本来は生徒会の仕事なのだが、
「百合部の部屋として開けてやるから掃除をしてくれ」
と頼まれている。
教員たちも、一学期中間試験の準備で忙しい。
オレたちは体よく、母を介して生徒会から雑用を押しつけられた。
「百合部開設のためだ。これくらい、どうってことないさ」
両肩に段ボールを二つ抱えながら、オレは返答する。
これで部室がいただけるなら、安い。やってみせようじゃないか。
部室作りは、全部一人でやろうと思っていた。オレが言い出したのだから。
しかし、オレは荷物運びだけでいいという。他のメンバーは、掃除をしてくれた。
「ふう、これでよし」
オレは旧倉庫にあった備品を、空き教室へと運ぶ。
教室はすっかり、机や椅子は撤去されていた。
「道を開けてください。王子」
片手ずつにメタルラックを担ぐツンディーリアが、教室に入ろうとする。
「そんな重いのを持って、大丈夫なのか?」
ツンディーリアが運搬役を買って出たとき、オレは気が引けた。
いくらドラゴン族とはいえ、見栄え的に困る。
「大丈夫です。早く終わらせたいので」
ツンディーリアは、メタルラックを教室の端に設置する。少しも、疲れている様子ではない。
「助かる。キミにそんな一面があったとは」
「器用なことでは、わたくしは役に立てませんから」
彼女は率先して、重い物を運んでくれた。
「それに、見ておきたくて。この場所を」
うっとりした様子で、ツンディーリアは教室を端から端まで視線を移す。
「何もないぞ。空き教室に用事でもあるのか?」
「あなた知らないの? ここの百合伝説」
しばらくして、ソフィも部屋にやってきた。両手に大量の紙束を持って。
「ここはね、かつて『百合の聖地』と呼ばれていたのよ。もう何百年も前の話だけど」
その昔、お嬢様二人が放課後に密会していたという。この教室で。
「二人はそれはそれは、仲の良さそうなカップルだったらしいわ。不幸な事故が起きるまでは」
卒業間近になり、いよいよ結婚しなければならなくなった。
二人には許嫁がいる。
「駆け落ちしましょう」、両者のどちらかが言い出した。
手を取り合い、百合カップルはここで愛を誓い合う。
しかし、情報は親たちに筒抜けになっていて、大勢の人がココに押し寄せた。
「すると一人が、この地に魔物を召喚したの。自分の命と引き換えに」
ちょうどこの位置だと、ソフィは教室の中央に立つ。
「魔方陣のような、薄いシミがあるでしょ? きっとこのポイントが、召還場所だとみて間違いないわ」
よく見ると、教室の床にうっすらと青いシミがあるではないか。
「随分と古い魔方陣だな。規模も大きい」
「二人がかりで作ったような形跡も、あるわね」
どうせ結ばれないならという、決死の覚悟だったのだろう。
生徒たちに被害こそ及ぼさなかった。
とはいえ、外に出せば死亡事故は免れないだろうと、当時最も魔力の高い魔術師が呼ばれたらしい。
「駆けつけた校内最強の魔術師によって、魔物は退治されたわ。けど、二人は魂を抜き取られていた。どうせ、敵わない恋ならと思ったのでしょうね」
「なんという悲しい話なんだ!」
百合好きとして、百合を理解されない苦しみはわかる。
さぞ辛かったに違いない。
もしオレが同じ立場だったらと思うと、涙を抑えきれなかった。
「なんで、あんたが泣いてるのよ」
「これが、泣かずにいられるか! 百合を成就させられないために、人が死ぬとは!」
自由恋愛が一般化しつつある今の時代なら、あまり縁のない話である。
「そんな尊……曰く付きの場所を、倉庫などにしていいのやら」
思わず、本音が漏れた。
「いなくなったか封印されたんだから、いいんじゃない? 危険はないはずよ」
だといいが。
「聞いたことがあります。この教室って、通り過ぎるとうめき声が聞こえるそうですね」
「学園につきものの、七不思議ってヤツだな?」
ティファに続き、トーモスが語る。
「一度入ったらひとりでに扉が閉まって、出られなくなった生徒もいたって」
「へん。だとしたら、そんなウワサは広まらないはずだぜ。出られなくなったんじゃ、話を広められないからな」
名探偵よろしく、トーモスが反論した。
「でも、本気にした学校側が、この場所に封印を施したらしいです。どこにあるかはわかりませんけれど」
「どこだ。見当たらないぞ」
魔方陣を消したくらいで、魔物が消えるとは思えないし。
「とにかく、今は普通の倉庫として活用しましょ。学校側も、いつまでも曰く付き教室だと思われたくないでしょうし」
「それもそうか。よし、運搬作業を再開しよう」
部屋を出ようとした瞬間、魔導書を詰めたラックがわずかに動いた気がした。
「何かしら? あそこがかすかに揺れたような気が」
「ひいい。冗談は止めてくださいまし!」
ツンディーリアが、ソフィの手を掴む。
ああ、尊い。
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