百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第二章 発足、百合テロ同好会

百合女帝

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 大臣と共に、母のいる部屋へ。

 中に入ると、バラの香りがふわっと溢れ出てきた。
 
 これだけで、母の存在感に圧倒される。

 相変わらず、すごい魔力だ。
 香りがする魔力を使うなんて、オレの母親くらいだろう。

 オレの解説を、母である王妃ロジーナ・バルシュミーデは黙って聞いていた。

【バラの女帝】……それが彼女に与えられた別名である。
 王妃にして、魔法学校の理事長を勤めている人物だ。
 バラ園を運営しているのも、母ロジーナである。

 母に会った人は、口々にこう述べた。
 先代から豪胆ぶりを、先の王妃から美貌と優しさを受け取ったミセス・パーフェクトと。

 誰しもが、この国を真に統べている人物が誰かを把握していた。

 母がちやほやされるたび、父国王はヘソを曲げる。

 それでも、母ロジーナはあの情けない王に愛情を注いでいるのはわかった。

 オレが父を侮辱する度、母は言う。
「彼は、あの情けなさこそを武器にしている」と。
 タヌキだと言いたいのだろうな。

「わかりました、ユリアン。メイが学園で働けるように、手配いたしましょう」
「ありがとうございます」

 さすバラの女帝である。話がわかる母親で助かった。
 国王はキライだが。

「部室は手配致します。そうだわ。倉庫を空ければいいわね。使っていない空き教室はありますが、広すぎて持て余すでしょうね」
「百合を堪能できるなら、いっそ倉庫だろうと廊下だろうと構いません!」

 はあ、と母は嘆息した。
「嘆かわしい。本当に妃をもらうつもりはないのですね?」

「オレの人生に嫁は不要だ!」

 これだけは譲れない。

「部の設立に、あなたの嫁を連れてくることを付け加えておくべきでした。今からでも遅くないかしら」
「困ります、王妃いや理事長!」
「こうでもしないと、あなたは結婚しないでしょうが!」
「まだ早すぎる。誰か一人に決めるのは、もう少し待ってくれないか?」

 王の座につくことが約束されている以上、オレは跡取りを作らねばならない。
 とはいえ、少々気が焦りすぎではないのか。

「父である王が、王座から外れたがっています」
「だろうね」
「私が実権を握っているのが、面白くないのでしょう」

 母はそういうが、元々あいつはナマケモノなのだ。オレに似て、責任を取りたがらない。

「あなたが探さないなら、こちらで探すという手立てもあるのよ?」
「子どもをコントロールしようとなさらないでください」
「そんなつもりは」

 母は首を振る。
「まあ、いいでしょう。この件は、またお話しします」

 ひとまず、オレの嫁探しは保留に。

「そうだわ。倉庫ですが、一つ条件があります。手狭になってきたから、お片付けもお願いできるかしら?」
「お安いご用だ。母さん」

 場所を使わせてくれるなら、備品の移動などいくらでもやってやろうではないか。

「ただしメイ、学園に潜伏するなら、変装してらっしゃい。女教師として振る舞えるように」

「は、はあ」
 あまり、メイは乗り気ではない。

「しっかりなさい。魔族が潜伏している可能性があるのです。
 さっそく、母お付きの使用人によって、メイの改造計画が成された。
 
 メイの着替えが済むまでの間、オレは大臣と廊下で待機する。

 再度部屋に通されたとき、別人がそこにいた。

「どこをどう見ても、先生だな」

 髪型はキレイに揃えられ、伊達メガネとスーツで武装する。
 メイド服姿の時とはまた違った、やり手感を醸し出す。

「元が美人さんですからね」と母は言う。
「この装備一式ですが、魔族を油断させるため、細工を施してあります。並の人には、あなたは一般人として映るでしょう」

 そんな特殊効果が、何の変哲もない衣服に備わっていると?

「素敵よ、メイディルクス。私は一人っ子だったから、いつかあなたは本当の妹として招くつもりでしたのよ?」
 まるで実の姉妹のように、母はメイのコーディネートを行う。

「時々これからも、私を姉と思って慕って下さってもいいのですよ」
「いえ王妃。わたしは使用人の身。王妃の寵愛を受けるなど」
「腹違いとはいえ、私は実の姉なのよ? お姉ちゃんがいいっていうならいいの」
「そんな。王妃」

「だーめ」
 メイの唇に、母は自分の人さし指を当てた。

「ここでは、お姉ちゃんと呼びなさい。これは命令です」
 にこやかに、母がメイを威圧する。

「せやけど、あかんて。お、お姉ちゃん……」


「ああ。いいわメイ。その調子よ」
 母が一瞬、立ちくらみをした。


 ぐっ! なんだ、この胸の高鳴りは。

 オレが、このオレが母親とメイに萌えているだと!?


「王子、よいのです! ご自身を偽りなさるな!」
「しかし大臣! 相手は肉親だぞ!」

「尊きものは、尊き! 萌えは血のつながりすら超えるのです。ご自身の心に、素直になられませ王子!」

 こういうパターンもアリなのだな?

「尊い。これが、姉妹百合か!」

 自分の気持ちに正直になる。
 その瞬間、目の前にある光景がより眩しさを増した。
 身体の震えが収まらない。

 腹違いの姉妹!
 王妃と使用人となって、離れた身分!
 決して姉妹だと気づかれてはならぬ、禁断の関係!
 歳の差百合と姉妹百合の、絶妙な相乗効果! 

「ほろ苦い! どんなブレンドコーヒーよりほろ苦いぞ!」
「お見事ですぞ! ああっ、長生きはするモノですなあ! 眼福!」

 これはまさしく、バラの女帝ならぬ【百合の女帝】と形容すべき!

「極めて純度の高い百合である! よき!」
「よき!」

 オレたちは、サムズアップでお互いの理解を深め合った。


「あんたら、見境なしやな……」
「放っておきなさい。あれは病気です」


 呆れ果てていたが、母はすぐに立ち直る。
「空き教室ですが、表札に注意なさって」


「何かあるので?」
「たしか、あそこはよからぬモノがいたような、いなかったような伝承が」
「ハッキリしませんね」
「もう何百年も前の話なので」

 母でさえも忘れている伝説が、空き教室にはあるらしい。
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