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第一章 百合王子と二人の嫁候補 ~余に嫁などいらぬ!~
【破邪・百合紀行】 自称ライバルくん、再び
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結局、その日は何の進展もせず、お開きとなった。
どこか他にアテはないか、街を通る。
しかし、めぼしい場所はない。なにより……。
「大丈夫ですの? こんなところを見られたら」
ツンディーリアが、辺りをキョロキョロする。
人の視線が気になる様子だ。
「もう男装してないだろ? 安心しろ」
今のツンディーリアは、変装をしていない。
「それでも、気になるわよ。こんな状態じゃ、あなたが女子二人をはべらせている風にしか見えないわ」
たしかに、厳しい視線がオレに対して向けられている。
「思わせておけばいい。それなら、カモフラージュできるだろ」
周辺に悪く思われたって、構わない。百合ップルを守れるなら。
とはいえ、ソフィとツンディーリアは別だ。
彼女たちは、校内でオレを取り合っている「フリ」をしている。「実は仲良し」だとバレるわけには、いかないよなぁ。
もっといい場所がないかと、寄り道する。
燕尾服の集団が、オレたちの行く手を阻む。
「待っていましたよ王子」
中央にいるのは、我が校の男子生徒だ。
ツンディーリアのクラスメイトだったよな。
「えっと、お前はたしか……誰だっけ?」
「朝、キミと対戦しただろう!?」
そうだ。たしかに、模擬戦の対戦相手だったような気が。
「えっと。すまん。名前が出てこない」
「名前などあなたにはどうでもいいでしょう。あなたはここで、ボクに負けるのですから。今日こそ、引導を渡して差し上げましょう!」
号令と共に、取り巻きが前に出た。
「あなた、まだ懲りませんの?」
「当然ですよ。ボクも伯爵家の息子。やられっぱなしというわけにはいかないんですよ! 参る!」
燕尾服の連中が、オレを取り囲む。
「ユリアン王子、大丈夫なの?」
「やってみなければ」
四方八方から、攻撃が降り注ぐ。徒手空拳だけではない。光の矢や氷の柱など、魔術攻撃も飛んできた。
「なんの、【百合障壁】で」
オレは、カフェオレ色の煙をまとう。
ふんわりとした煙が、オレに降り注ぐ攻撃のことごとくを反射した。
「大勢で一人をいたぶるなんて卑怯よ!」
「勝てばいいのです! それに、彼らはボクの手足! ならば、ボクの力といっても過言ではない! 聖ソフィさん、あなたもボクの財力に酔いしれることでしょう!」
憧れの存在であるソフィの言葉すら、彼は聞き入れない。
「バラ園の方と同様、操られてらっしゃる?」
「だろうな」
ツンディーリアの想像は当たっているだろう。
どちらかというと、本性を剥き出しにさせられているような。
「やむを得ん。【百合風味】!」
オレは、コーヒーの香りを振りまく。並の人間なら、これで眠ってくれるはず。
む? 手応えがない。精神耐性が高いのか?
ならば、実力行使で。極力、武力には頼りたくなかったが。
トン、とオレは燕尾服の首筋に手刀を当てた。
「おや?」
まったく効果がない。
皮膚の表面が剥がれて、内部に金属が見えた。これは。
「こいつらはオートマタ。血が通っていない人形か」
気がついたときには、遅かった。
オレは、背後にいた燕尾服ゴーレムによって、羽交い締めにされてしまう。
「ハハハハ! こいつらはボクの手足だと言っただろ? 文字通り、彼らはボクの操るオートマタ! これがボクのメイン魔法ってワケさ!」
やり方が手慣れている。
始めから、集団リンチを想定している感じだな。
一対一を基調とした魔法は、習得していないように思える。
コイツが模擬戦で勝てないわけだ。
「王子!」
「しっかりなさいまし!」
未だにオレを応援する美少女二人に対し、伯爵の息子は不快感をあらわにした。
「まったく、こんな女たらしのどこがいいのか? まあいい。欲しいものはムリヤリにでも手に入れればいいこと。さあ、聖ソフィ殿。お手をどうぞ」
差し出された手を、ソフィは払う。
「汚い手で触らないで!」
「まだ、おわかりでないか。ならば、数を増やしましょう」
男子が指を慣らすと、建物の影などからワラワラと新手が。
「どうです? 魔族と契約したことで、操れるオートマタがさらに増えたのです! あなたも魔族の力を借りれば、もっと強くなれますよ」
「私は勇者の家系よ! 魔族と繋がるなんて」
「ではなぜ、魔族の第一勢力である【竜族】と並んで歩いているのです?」
ツンディーリアは、竜族だ。
もっとも、人間に味方するようになり、魔族とは対立するようになったが。
「そ、それは」
ソフィは沈黙した。百合ップルだなんて言えないから。
「竜族は、調子に乗った魔族を見限って、人間に味方するようになった。ツンディーリア嬢の家系は、勇者に手を貸す一族だ」
「お前には聞いていないんだよ王子!」
親切に教えてやったのに。
苛立ちがマックスに達したのか、男子はオートマタに号令をかける。
「さあさあ、この小うるさい王子を叩きのめしてしまえ!」
燕尾服たちが、拳を振り上げた。
やれやれ。人間でないのなら、容赦はしない。
「ふん!」
オレを拘束する両腕を、もぎ取った。
「なにい!?」
男子生徒が狼狽する。
「この程度で、オレを止められると思っていたのか?」
「ほざけ! やれ!」
生徒がオートマタに、指令を送った。
燕尾服のオートマタが、同時にオレに殴りかかる。
オートマタどもの腕を、オレは関節からへし折った。背後にいたオートマタのアゴを、振り返りざまのカカト蹴りで打ち抜く。
「戦いは数ではない。数は戦略の要素に過ぎん。数に頼っているだけのお前に、オレは倒せない」
一体ずつでは勝ち目なしと見たのか、人形集団はオレとの距離をさらに詰めた。
「【百合旋風脚】!」
オレは跳躍し、ローリングソバットを見舞う。
司令部らしき頭部を、回し蹴りで粉砕した。
群がるオートマタの集団を、オレは傷一つ受けずに破壊していった。
「どうやら、一体多数でもオレの勝ちだな」
「ああ。そのようだね」
冷や汗をかきつつも、男子生徒は不敵な笑みを浮かべる。
「さすが、バルシュミーデの次期国王といったところか。見事だよ。けれど、これなら!」
オートマタ軍団の標的が、オレから少女二人へと変わった。
「お妃候補を人質に取られては、さすがの王子と言えど!」
「それは、最悪手ってヤツだぜ」
ソフィの手首を掴んだ刹那、人形は桜色の刀身によって真一文字に両断される。
ツンディーリアを狙った個体は、杖から放出された火球によって灰になった。
「勝負あり、だぜ」
オレは、地面に転がっている燕尾服の頭部を蹴り飛ばす。
頭部が千切れ、生徒の頬をかすめた。
「あわわわ」
負けることが頭になかったのだろう。男子生徒はヒザから崩れ墜ちる。
「貴族なら何をやってもいいとは限らん。ムリヤリ従わせても、根本は解決せん。いつまでもシコリは残る」
オレは周辺を、コーヒーの香りで覆い尽くす。
「お前を操っている魔族の瘴気も、払ってやる」
男子生徒に、芳香を嗅がせた。
「あわよくば、お前に百合の加護があらんことを」
「はわーっ!」
「百合に抱かれて、眠れ。【破邪・百合紀行】」
香気のシャワーを、男子生徒に浴びせた。
カフェオレ色の煙が、列車のように男子生徒に絡みつく。
煙はヘビのように男子生徒の身体を這い上がり、鼻へと吸い込まれていった。
「て、てえてええええええええええええ!」
男子生徒が、薫香の渦に包まれて眠りにつく。
きっと、百合の夢でも見ているのだろう。
「魔族の残り香一つ、払えているな」
あとは、メイディルクスに任せるか。
「あ、なんだ?」
振り返ると、二人がまたもポカンと口を開けていた。
「アンタ、メチャクチャ強いじゃない! どうして黙っていたの?」
オレの戦い振りを見て、ソフィが尋ねてくる。
「暴力が好きじゃないんだよ。師匠が師匠なだけに」
冒険者で、魔族と何度も衝突しているのだ。オレは、そんな実力者を先生に持つ。
「おかげで強くなりすぎて。だから、普段は加減しているんだ」
精神攻撃の方が、オレの性に合っている。
犬のように暴れ回るのは、エレガントじゃない。
とはいえ、二人はうらやましがってはいなかった。
「なんだか、私たちへの当てつけみたいに見えるわ」
「わたくしとソフィは、戦闘系術士ですもの」
またも、オレの好感度が下がる。
別にいい。二人の関係が保たれているなら、オレはそれで。
「でも、助かったわ。ありがとう」
「どういたしまして」
しかし、バラ園は使えない。
外も人の目があってダメ。
ならば、早急に手を打たなくては。
どこか他にアテはないか、街を通る。
しかし、めぼしい場所はない。なにより……。
「大丈夫ですの? こんなところを見られたら」
ツンディーリアが、辺りをキョロキョロする。
人の視線が気になる様子だ。
「もう男装してないだろ? 安心しろ」
今のツンディーリアは、変装をしていない。
「それでも、気になるわよ。こんな状態じゃ、あなたが女子二人をはべらせている風にしか見えないわ」
たしかに、厳しい視線がオレに対して向けられている。
「思わせておけばいい。それなら、カモフラージュできるだろ」
周辺に悪く思われたって、構わない。百合ップルを守れるなら。
とはいえ、ソフィとツンディーリアは別だ。
彼女たちは、校内でオレを取り合っている「フリ」をしている。「実は仲良し」だとバレるわけには、いかないよなぁ。
もっといい場所がないかと、寄り道する。
燕尾服の集団が、オレたちの行く手を阻む。
「待っていましたよ王子」
中央にいるのは、我が校の男子生徒だ。
ツンディーリアのクラスメイトだったよな。
「えっと、お前はたしか……誰だっけ?」
「朝、キミと対戦しただろう!?」
そうだ。たしかに、模擬戦の対戦相手だったような気が。
「えっと。すまん。名前が出てこない」
「名前などあなたにはどうでもいいでしょう。あなたはここで、ボクに負けるのですから。今日こそ、引導を渡して差し上げましょう!」
号令と共に、取り巻きが前に出た。
「あなた、まだ懲りませんの?」
「当然ですよ。ボクも伯爵家の息子。やられっぱなしというわけにはいかないんですよ! 参る!」
燕尾服の連中が、オレを取り囲む。
「ユリアン王子、大丈夫なの?」
「やってみなければ」
四方八方から、攻撃が降り注ぐ。徒手空拳だけではない。光の矢や氷の柱など、魔術攻撃も飛んできた。
「なんの、【百合障壁】で」
オレは、カフェオレ色の煙をまとう。
ふんわりとした煙が、オレに降り注ぐ攻撃のことごとくを反射した。
「大勢で一人をいたぶるなんて卑怯よ!」
「勝てばいいのです! それに、彼らはボクの手足! ならば、ボクの力といっても過言ではない! 聖ソフィさん、あなたもボクの財力に酔いしれることでしょう!」
憧れの存在であるソフィの言葉すら、彼は聞き入れない。
「バラ園の方と同様、操られてらっしゃる?」
「だろうな」
ツンディーリアの想像は当たっているだろう。
どちらかというと、本性を剥き出しにさせられているような。
「やむを得ん。【百合風味】!」
オレは、コーヒーの香りを振りまく。並の人間なら、これで眠ってくれるはず。
む? 手応えがない。精神耐性が高いのか?
ならば、実力行使で。極力、武力には頼りたくなかったが。
トン、とオレは燕尾服の首筋に手刀を当てた。
「おや?」
まったく効果がない。
皮膚の表面が剥がれて、内部に金属が見えた。これは。
「こいつらはオートマタ。血が通っていない人形か」
気がついたときには、遅かった。
オレは、背後にいた燕尾服ゴーレムによって、羽交い締めにされてしまう。
「ハハハハ! こいつらはボクの手足だと言っただろ? 文字通り、彼らはボクの操るオートマタ! これがボクのメイン魔法ってワケさ!」
やり方が手慣れている。
始めから、集団リンチを想定している感じだな。
一対一を基調とした魔法は、習得していないように思える。
コイツが模擬戦で勝てないわけだ。
「王子!」
「しっかりなさいまし!」
未だにオレを応援する美少女二人に対し、伯爵の息子は不快感をあらわにした。
「まったく、こんな女たらしのどこがいいのか? まあいい。欲しいものはムリヤリにでも手に入れればいいこと。さあ、聖ソフィ殿。お手をどうぞ」
差し出された手を、ソフィは払う。
「汚い手で触らないで!」
「まだ、おわかりでないか。ならば、数を増やしましょう」
男子が指を慣らすと、建物の影などからワラワラと新手が。
「どうです? 魔族と契約したことで、操れるオートマタがさらに増えたのです! あなたも魔族の力を借りれば、もっと強くなれますよ」
「私は勇者の家系よ! 魔族と繋がるなんて」
「ではなぜ、魔族の第一勢力である【竜族】と並んで歩いているのです?」
ツンディーリアは、竜族だ。
もっとも、人間に味方するようになり、魔族とは対立するようになったが。
「そ、それは」
ソフィは沈黙した。百合ップルだなんて言えないから。
「竜族は、調子に乗った魔族を見限って、人間に味方するようになった。ツンディーリア嬢の家系は、勇者に手を貸す一族だ」
「お前には聞いていないんだよ王子!」
親切に教えてやったのに。
苛立ちがマックスに達したのか、男子はオートマタに号令をかける。
「さあさあ、この小うるさい王子を叩きのめしてしまえ!」
燕尾服たちが、拳を振り上げた。
やれやれ。人間でないのなら、容赦はしない。
「ふん!」
オレを拘束する両腕を、もぎ取った。
「なにい!?」
男子生徒が狼狽する。
「この程度で、オレを止められると思っていたのか?」
「ほざけ! やれ!」
生徒がオートマタに、指令を送った。
燕尾服のオートマタが、同時にオレに殴りかかる。
オートマタどもの腕を、オレは関節からへし折った。背後にいたオートマタのアゴを、振り返りざまのカカト蹴りで打ち抜く。
「戦いは数ではない。数は戦略の要素に過ぎん。数に頼っているだけのお前に、オレは倒せない」
一体ずつでは勝ち目なしと見たのか、人形集団はオレとの距離をさらに詰めた。
「【百合旋風脚】!」
オレは跳躍し、ローリングソバットを見舞う。
司令部らしき頭部を、回し蹴りで粉砕した。
群がるオートマタの集団を、オレは傷一つ受けずに破壊していった。
「どうやら、一体多数でもオレの勝ちだな」
「ああ。そのようだね」
冷や汗をかきつつも、男子生徒は不敵な笑みを浮かべる。
「さすが、バルシュミーデの次期国王といったところか。見事だよ。けれど、これなら!」
オートマタ軍団の標的が、オレから少女二人へと変わった。
「お妃候補を人質に取られては、さすがの王子と言えど!」
「それは、最悪手ってヤツだぜ」
ソフィの手首を掴んだ刹那、人形は桜色の刀身によって真一文字に両断される。
ツンディーリアを狙った個体は、杖から放出された火球によって灰になった。
「勝負あり、だぜ」
オレは、地面に転がっている燕尾服の頭部を蹴り飛ばす。
頭部が千切れ、生徒の頬をかすめた。
「あわわわ」
負けることが頭になかったのだろう。男子生徒はヒザから崩れ墜ちる。
「貴族なら何をやってもいいとは限らん。ムリヤリ従わせても、根本は解決せん。いつまでもシコリは残る」
オレは周辺を、コーヒーの香りで覆い尽くす。
「お前を操っている魔族の瘴気も、払ってやる」
男子生徒に、芳香を嗅がせた。
「あわよくば、お前に百合の加護があらんことを」
「はわーっ!」
「百合に抱かれて、眠れ。【破邪・百合紀行】」
香気のシャワーを、男子生徒に浴びせた。
カフェオレ色の煙が、列車のように男子生徒に絡みつく。
煙はヘビのように男子生徒の身体を這い上がり、鼻へと吸い込まれていった。
「て、てえてええええええええええええ!」
男子生徒が、薫香の渦に包まれて眠りにつく。
きっと、百合の夢でも見ているのだろう。
「魔族の残り香一つ、払えているな」
あとは、メイディルクスに任せるか。
「あ、なんだ?」
振り返ると、二人がまたもポカンと口を開けていた。
「アンタ、メチャクチャ強いじゃない! どうして黙っていたの?」
オレの戦い振りを見て、ソフィが尋ねてくる。
「暴力が好きじゃないんだよ。師匠が師匠なだけに」
冒険者で、魔族と何度も衝突しているのだ。オレは、そんな実力者を先生に持つ。
「おかげで強くなりすぎて。だから、普段は加減しているんだ」
精神攻撃の方が、オレの性に合っている。
犬のように暴れ回るのは、エレガントじゃない。
とはいえ、二人はうらやましがってはいなかった。
「なんだか、私たちへの当てつけみたいに見えるわ」
「わたくしとソフィは、戦闘系術士ですもの」
またも、オレの好感度が下がる。
別にいい。二人の関係が保たれているなら、オレはそれで。
「でも、助かったわ。ありがとう」
「どういたしまして」
しかし、バラ園は使えない。
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