百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第一章 百合王子と二人の嫁候補 ~余に嫁などいらぬ!~

百合のお茶会

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「はあい、これで今日の授業は終わりでーす。さよーならー」

 ルビー組の担任ウッシ・ポロリーヌ先生が、HRを締めくくる。

 放課後、オレはトーモスから遊びに行かないかと誘われた。

「二番街のカフェに、新しいチャレンジライスができるんだってよ。からあげ定食を三〇分以内に食ったらタダだって話だ! 一緒に行こうぜ!」

 コイツはオレの夕飯が、どうせ退屈なものだとわかっている。いつも外食に呼んでくれるのだ。

「今日は、遠慮しておくよ」

 例のお茶会がある。

「最近つれないな、お前」

「ちょっと、バラ園が気になるんだ」

 オレの百合好きを知っているのは、トーモスだけだ。
 それでも、バラ園でのことはトーモスにも一切話していない。

「ああ、賊が出たらしいな」

 ソフィとツンディーリアを狙った事件は、うやむやにされている。暴行未遂事件でなく、バラの盗難未遂騒ぎにすり替えていた。
「我がバルシュミーデが開発している新しい品種を、ライバル国が狙ったのだろう」という体になっている。

「それで、オレも様子を見に行こうと」

「そっかー。まったく、どこの国だろうな? あるいは業者か。バラなんて食えないモノ盗んで、なんになるんだ?」

 さすが、飲食業界の御曹司である。

「色気より食い気」を地で行くトーモスの価値観は、「食べられるかどうか」だ。

「それよりトーモス、オレとばかり遊んでもしょうがない。今日は久々に、妹と一緒に帰れよ。妹を誘ってあげたらどうだ?」

 オレの言葉を受けて、トーモスがいそいそと帰り支度をする。

「そうだな。元々大食い趣味は、あいつスタートだもんな。じゃあまた明日! 待っていろ、わが妹よーっ」

 妹に悪い虫が付かないよう、トーモスは颯爽と帰っていった。

「さて」

 向こうも、オレを待っているはずだ。
 
 
 お茶会は、その後の日課となった。

 ただ、バラ園が立ち入り禁止になったので、バラ園近くの噴水で語らっているが。

「やはり、メイディルクス様のクッキーはおいしいですわね」

 ツンディーリアが、ソフィに「あーん」をしている。今日は彼女が、男役を演じていた。元々、ツンディーリアはカツラと同じ黒髪だ。見た目もボーイッシュなので、驚異的に似合っている。
 しかし、口調はいつもとたいして変わらない。むしろ、残念イケメンと化している。もっと雰囲気を出せばいいのに。

「そうねー。このために生きているわね」

 隣にいるソフィも、クッキーを下品にバリボリとかじる。
 コイツは外面と内面のギャップが凄まじい。日頃のうっぷんを、このデートで晴らしているみたいだ。苦労しているのだろう。

 案外、二人は集会を楽しんでいる風に見える。
 てっきり、場所替えして遊ぶのかと思っていたが。

「どうにか、王子を介さないパイプを築けないでしょうかしら?」

「それはいいですわね! 今度はメイディルクス様だけ来てくださらない?」

 二人が、実に失礼なことを言う。

「ナイスアイデアだ!」

 受け答えするオレもオレだが。

 実際、メイディルクスも呼びたい。
 あいつは祖父が冒険者に産ませた子で、苦労人である。
 オレよりよっぽど、男前だ。
 むしろ、ヤツの方が王子としての器・素質があるんじゃないか? むむう、女性であるのが実に惜しい。

「私たちも、身の振り方を考えないと」

「いつまでも隠し通せるとは、思えませんから」

「いずれは私たちのいずれかが、コイツの嫁にならないといけない」

 心底イヤそうに、二人は語り合う。

「それなんだけどな。偽装結婚という手もある」

 オレは、後頭部で手を組む。

「それでも、どちらかが妾にならねばならん。でも、イヤだろ? 格差が生まれてしまうからな」

 二人は落ち込む。というか、露骨に不快感をあらわにした。

「私も、最悪ソレは覚悟したわ」

「いっそ二人になれるなら、その選択肢しかないでしょう」


 でも、と、二人は告げる。



「ユリアン王子、アンタがキモイ」

「ただの女好きならよかったのですが、百合大好きとか残念すぎます」


 ヒドい言われようだなおい!

「つまり、オレが生理的に受け付けないと」

 秒でうなずきが返ってきた。

「男が苦手と言うより、アンタがすさまじく怖いわ」

「虫以下ですわ」

 カースト最下層ですらないと。

「虫より下か。こりゃあいい。オレもせいせいする。気を使わなくてもいいからな」

「待って。アンタまさか!?」

 テーブルを叩き、ソフィが立ち上がった。

「早合点するな。言いふらしたりなんか、するもんか」

 ソフィの懸念材料を、オレは否定する。

 こんな都合のいい状況を、わざわざ自分で崩すバカはいない。
 ソフィとツンディーリア、いずれかを慕っているなら、この状態には耐えられんだろう。こんなの、生殺しだ。

 オレはどちらにも、恋愛感情など持っていない。百合趣味を包み隠すのにも役に立つ。特等席で百合を楽しめるのだから!

「ええ。アンタがそんな人でなしじゃないってのは知っているわ。けれど、見返りとして」

 悪い予感を察してか、ソフィがツンディーリアを抱きしめた。

「わたくしたちに、ひどいことをなさるのでは?」

 二人が何を考えているのか、なんとなく想像が付く。

「あーはいはい。そういうことねー」

 大げさに、オレはため息をつく。

「何も求めはしない」

 オレは、コーヒーを飲み干した。

「要求は一つ、観察させてくれ」

「百合の間に挟まれたい」とか、「百合に囲まれて呼吸がしたい」とか、オレはそういう肉体的な刺激は求めない。それは百合好きとして、恥ずべき好意だ。

「はあ?」

 ソフィが、眉間にシワを寄せる。

「遠目から、ただ見守らせて欲しい」

「見てるだけ?」

「もちろんだ」

 どうも、二人の反応が鈍い。いい提案だと思っていたのだが。

「そっちの方が、気持ち悪いわね」

「身体を要求されるより、いい気分がしませんわ」

 二人とも、難色を示している。

「かといって、拘束するのもなぁ」

「なにより、このバラ園も安全とは言えませんわ」

 だよなぁ。一度襲撃を受けているし。

 このバラ園は、王家が所有している。本来、王族関係者以外は入れないはずなのだ。

「それに、もうすぐ雨の季節よ。屋根が欲しいわ」

 ソフィが、空を見上げる。

 いつもは夕日によるオレンジが、どんよりと雲に覆われていた。

「空き教室を借りるのか。そんな都合のいいことが……できるかもしれない」

「どういうこと?」

「部活だよ。謎部活!」

 そう、百合と言えば謎部活だ。
 昼間、トーモスとも話し合ったではないか。
 すっかり、失念していた。

「キミたちは生徒会にも入っていない。ソフィは図書委員、ツンディーリアは生徒会と言ってもクラス代表だ。この茶会に出席しているから、時間は多少なりともあるはずだ」

「それで、部活をやれというの?」

「なんでもいい。三人が集まって違和感のない部活を考えるんだよ」

 演劇部は大所帯だ。今もレッスンの様子が外からでも聞こえてきている。

「お茶をするだけの部活もダメよ。去年、そういった部活は軒並み潰されたわ」

 活動の乏しいクラブは、ほとんど整理されたらしい。

「ちょっと考える。謎部活」

「だから、どうして部活動に『謎』っていう変なワードを付けたがるのよ?」

「部活と言えば謎がつきものだろ!」

「ミス研は定員オーバーなんだけど?」

 まいったな。これでは部活が作れないではないか。

「コーヒー研究会というのは? 王子はコーヒーお好きですわよね?」
「紅茶部と被る」

 というか、謎部活はほとんど「紅茶部」に吸収合併された。今は、「紅茶に合うお菓子選手権」が行われている。

「この議題は、次回まで持ち越しにする」

「そうね。方向性は、悪くなかったんだけれど」
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