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第六章 うちのコが、やっぱり最強で最愛

第47話 最後のバグ

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 ビビが、ゲームの中で言葉を話せなくなる。

 ボクは、ちょっと打ちのめされた。

 ゲームの中で会話をしていることが、デフォルトになっていたんだなと思う。
 ボクの中で、ビビとのお話は、かなりウェイトを占めていたんだな。

「ヴォルフさんたち他のギルド構成員も、お話ができるペットなんですよね?」

「そうなんだが、他のペットたちとも、今後は『PペットRランFファクトリー』内で会話ができなくなる。ビビが、特殊なパターンすぎるんでな」

「どの辺りが、しょうか?」

「会話内容の構成パターンは、模擬人格が管理しているって話は、したな?」

 ボクは、「はい」とうなずく。

 冒険者ギルドのスタッフには、ペットもいる。とはいえ、ペットと直接話しているのではない。模擬人格によって、構築された文章を読んでいるに過ぎないのだ。

 だから、言われたとおりにしか反応できない個体も、多くいる。

「しかし、ビビはイレギュラーなんだよ」

「まさか」

「そのまさかだよ、ケント。ビビのヤツは、自分で意思を持って話している」

 ビビは自分の言葉を、自分の意思で語りかけていたのだ。

 たしかにビビは、ボクが熱を出した時も、自分でベルさんの中の人である「鈴音りんね」さんに連絡をメッセージアプリで入力している。

 人間の言葉をビビが理解しているのは、明白だ。

 どこかで言葉を覚えたのか。
 あるいは、ボクとの生活で言語を学んだんだろう。

「こんな現象は、相当に訓練されたスタッフにしか起こり得ないはずだった。オレのような、な。しかし、ビビは違った。バグの除去作業によって生じた、一種のトラブルの可能性が出てきたんだ」

「ビビと会話できる現象は、バグであると?」

 ヴォルフさんは、うなずいた。

「その危険性がある以上、こちらも対処せざるを得なくなったんだ」

「ボクがもし、断ったらどうするんです?」
 
「……ビビを調査する必要がある。それも、かなりの年月をかけて」

 ビビが、実験体にされてしまうのか。

「コンピュータのバグでペットに人格が芽生えるなんて現象、オレたちスタッフにだって初めてのことなんだ。我々も、対処に困っている。ただのバグではなかった可能性が高い」

「放置すると、どうなるんですか?」

「他のペットたちにも、同じ現象が起きるかもしれない。そうなると」

「パニックに、なりますね」

「だな」

 ボクだったから、まだ反応が薄くてよかったのだ。ビビが言葉を話そうがなんだろうが、愛情は変わらないから。

 普通の人なら、大騒ぎになる。とてもじゃないが、冷静ではいられない。
 ネットにアップしてしまうか、ずっとお話ししたくてゲーム内にひきこもってしまうか。

 そんな事態に陥ってしまうだろう。

「よって、『ビビを長い年月をかけて調査する』か、ゲーム自体を一部クローズドにして、バグの除去に専念するかの二択となった」

 で、ボクたちへの配慮として、ゲーム側は後者を選んだと。

「お前さんたちに、迷惑をかけるわけにはいかん。こちらで対処することで、手を打った」

 そうせざるを得なかったんだろうな。
 
「ありがとうございます。ビビを守ってくれて」

 ボクもビビも、ヴォルフさんにお礼を言う。

「いいんだよ。こちらの不手際だった。申し訳ない。ただこちらにとっても、ビビを調査したがっている研究者も多くてな。なだめるのがやっとだったよ」

『ニャアは、そういう人気ものには、なりたくないニャー』

 正直な感想を、ビビが述べる。
 
「というわけで、ゲーム内容の大幅な見直しがなされる。ただ、二人の意見を聞いておきたい。もちろん、すぐにとは――」

「大丈夫です」

 間髪入れず、ボクはヴォルフさんに返答をした。

「いいのか? せっかく会話ができるようになったのに、むざむざ手放すことになるんだぞ?」

「構いません。言葉を話すからとか話さないとか、そんな理由でビビへの愛情が薄れちゃうなんて、ありえないし」

 そう。すごく単純なことである。

 ベルさんだって、会話ができないからと言って、ナインくんを手放したりはしない。
 愛情はそのままだ。

 ビビとお話できなくなるのは、たしかに悲しい。

 でも、ビビがいなくなるわけじゃないんだ。

「わかった。あんたの気持ちは理解した。ただ、すぐにしゃべれなくなるわけじゃない。時期が来たら、必ずアナウンスを送る。そのときまで、ずっと会話してあげなよ」

「ありがとうございます。失礼します」

 ボクたちは、ギルドを出た。

「さあ、残された時間をどう過ごそうか?」

 ビビにしてあげられることって、なんだろう?

 ボクの手持ちのアイテムから、なにかできるかな?

 せいぜい、ヴァンパイアを打倒したときに手に入れた【メイド服】と、【貴族のティーセット】くらいなんだよね。

 どれも、ほぼフレーバーアイテムである。

 メイド服は【きぐるみ】などのように、外見を変えるアイテムだ。

 ティーセットは、安全な結界を張って体力を完全回復する【テント】と、同じ役割を持っている。ただ、範囲が以上に小さい。入れるのが、二人だけだ。

『明日、やりたいことがあるニャー』

 ビビから、さっそくリクエストが。

「やりたいことだって?」

『秘密ニャー』

 
 
 
 翌日ログインすると、ボクのセーフハウスにメイドさんがいた。

『ご主人、おかえりニャー』

 メイド服を来たビビが。
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