最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~

椎名 富比路

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第五章 最大のピンチ! 飼い主を救うニャー

第39話 無限の猿定理

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 ビビが、鈴音りんねさんに連絡を?

「どうして、そう思ったんです?」

「不自然だったのが、あたしが来たことに、ケントさんが驚いていたことです」

 自分で連絡をしたはずなのに、ボクは驚いていた。いつの間に連絡をしたのかと。

「普通なら、本当に来てくれたのか、的なリアクションがあるはずです」

 だがボクは、鈴音さんに連絡をしたことに心当たりがなかった。 

「さらに妙だなと思ったのが、スマホの位置です」

 ボクの身体はベッドから落ちていたのに、スマホはベッドに置いたままだった。

 いつ置いたのか? 連絡を入れてからベッドから落下したとしても、不自然すぎる。

「スマホは、手の先にあったんです」

 鈴音さんに連絡を入れてから気絶したにしても、位置が遠すぎた。

「つまり、あなたは連絡をしていない」
 
 ボクの手から先にいたのが、ビビだったらしい。

「あんな体勢から連絡を入れられるのは、ビビちゃんだけだなって思いまして」

 当のビビは、何事もなかったかのように、刻んだメザシをバリバリと食べている。自分は何も知らないとでも、言いたげに。

「以上のことから、あたしに連絡をしてきたのはビビちゃんしかいないと思いました。第三者がいた可能性も考えましたが、だとしたらあたしにメッセージなんて出さないでしょう。自分で看病すればいいんですから」

「はい。両親は遠くの地方にいるので、こんなに早くは来られません」

 なら、ビビだろう。

「それにしても、驚きました。人間の言葉を伝えてくるなんて」

 おそらく、【以心伝心】アビリティのおかげだろう。
 そうとしか、考えられない。
 ビビが、メールで人語を書けるなんて。
 もしビビがただのネコだったら、メールを打つ行為すらできなかっただろう。

 しかし、ビビはそれ以前から、おかしい点はいくつかあった。
 自分でステータス振りとかしていたし、ジョブも自分で選んでいたし。

 もともと人間の言葉が、わかっていた可能性が高い。

「たしかに、『無限の猿定理』という言葉もあります」

 チンパンジーにタイプライターを打たせ続けると、シェイクスピアの戯曲ができあがる可能性がある、という仮説だという。

 お猿さんって、そんなことができるのか。 

「しかしビビちゃんのそれは、無限の猿定理なんて範疇を超えています。明らかに、人間の言葉を理解しているようでした。短いながらも、あたしに事情を的確に伝えてきたので」

 だから鈴音さんは、ボクの家に来た。救急車まで呼んでくれて。結局カゼと診断されて、注射だけで済んだみたいだけど。

 ボクのスマホを、見せてもらう。

「たしかに、ボクが打った記憶はありません」

 第一、鈴音さんに連絡なんて入れない。ご迷惑になる。

 まず、自分で救急車を呼ぶだろう。

「でも、救急車は呼べなかった。病状を口頭で伝えられないから」

 それで、メッセアプリを使ったと。

「ビビちゃん、本当におりこうさんです。すごいですね。きっと、ケントさんを本当に心配してくれているんだわ」

 鈴音さんに褒められたからか、ビビが『にゃーん』と鳴く。コタツのそばで横になっているナインくんのお腹まで来て、丸くなる。シッポをポンポンしていて、心地よさそう。

 ナインくんもビビを邪険に扱わず、されるがまま。
 
「うふふ。ビビちゃん、ナインのお腹が気に入ったみたい」

 鈴音さんは、ナインくんを撫でる。

「あたし、やっぱり泊まらせていただきますね。ケントさんの体調が悪化してはいけないので、一日は様子を見させていただきます」
 
「ありがとうございます。布団を敷きますね」
 
 ボクは、テーブル脇のソファを倒した。

「来客用のベッドは、これしかないんですが」

「平気です。ありがとう」

 掛ふとんと毛布を、鈴音さんに渡す。

 鈴音さんは、スウェットまで用意していた。最初から、泊まるつもりだったみたい。


 翌朝、ボクはすっかり元気になった。
 とはいえ、病み上がりの身である。大事を取って、仕事は休むことに。
 こういうとき、トワさんから資産運用を教わっているのが生きた。あまり、不安はない。

「ありがとうございました」

「いえ。お大事になさってくださいね」
 
 ボクは、鈴音さんとナインくんを見送った。

 病床の身体ではあるけど、ビビとお話はしておこう。

『大丈夫かニャ? ケントご主人』

「うん」

 本当は久しぶりに、いっしょに遊んであげたい。
 しかし、今日はビビと話すだけにしておく。

『ケントご主人、元気になったニャー』

 カゼが治ったボクを見て、ビビも喜んでくれる。
 
「ありがとう。ビビのおかげだよ」

 ボクはゲームの中で、ビビを撫でた。

 ビビがゴロゴロと、ノドを鳴らす。

『余計なことをしたかニャって、心配していたニャ』

 秘密がバレそうになったのを、ビビも気にしているようだった。

「とんでもない。本当にありがたかったんだよ」

 ビビが鈴音さんを連れてきてくれたから、悪化しなくて済んだ。おかげで、ビビとこうして会うこともできる。
 
 そうはいっても、鈴音さんに迷惑をかけてしまったのは、事実だ。

 だから、その埋め合わせはしないとね。

「それでね、ビビ。ちょっと相談があるんだ」

『なんでも聞くニャー』

「ボクは鈴音さんに、ビビのことを話してもいいように思う」

 アビリティ【以心伝心】のことは、鈴音さんに話すべきだろうと思った。
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