最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~

椎名 富比路

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第五章 最大のピンチ! 飼い主を救うニャー

第38話 ベルさんの中の人に、看病してもらう

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 目を覚ますと、こたつテーブルに鈴音さんがいた。ノートPCを出して、作業をしている。ときどき、画面の向こうにいる誰かと話をしていた。どうやら、リモートで仕事をしているみたい。

 PCのカメラは、ずっとナインくんを映しているようだ。
 画面の向こうにいるのも、ワンちゃんである。
 仕事仲間も、犬の飼い主同士なのだろう。

 部屋も、いつの間にか片付いていた。洋服なども、外に干してある。

 鈴音さんが、やってくれたのか。

「目が醒めましたか、ケントさん?」

 ノートPCを閉じて、鈴音さんがボクに視線を合わせる。
 
「すいません、鈴音りんねさん」

 ボクは、半身を起こす。自分のことは、自分でやらないとね。

「横になっていてください。ビビちゃんが起きちゃうので」

 鈴音さんがベッドのそばに寄って、ボクを寝かしつける。

「ああ、ビビ」

 ボクの隣では、ビビが寝息を立てていた。

「ずっと心配してくれたのか。ありがとうな」

 ボクはビビに触れないように、ベッドから離れる。

「ビビちゃん、ケントのことが大好きなのね。そばからずっと離れなくて」

「そうでしたか。鈴音さん、お仕事は」

「もう上がりです。ちょっとした、調整だけでしたので。業務も、お昼以降にしてもらってました」

 仕事は、もう終わったらしい。

「具合は、いかがですか? ほしいものはありますか?」

「お水を取ってきます」

「やりますから、じっとしてて」

 鈴音さんが、グラスにスポーツドリンクを汲んでくれた。

「ありがとうございます」

 ボクは、グラスを傾ける。

 相当、汗をかいていたのだろう。
 スポーツドリンクが、全身に染み渡る。
 
「食欲は、まだ回復していませんか?」

「そうですね」

「パックのお粥を買っていますから、調子が良くなったときにでも」

「重ね重ね、ありがとうございます」
 
「こういうとき、ホントは手作りなんでしょうけど」

 鈴音さんが、苦笑いをする。

「カゼひきのときにムリに食べると、よくないそうなので」

「ボクも、聞いたことがあります」
 
 消化にエネルギーを使うから、かえって治りが遅くなるんだっけ。

 今は、水だけでいい。

「料理はある程度、やるんですよ。ナイン専用の炊飯器とかもあって、料理動画を参考にしながら食べさせています」

「すごいですね」

「歳なのであまり食べないんですが、しっかりしたものを食べさせたくて」

 動画で紹介された料理のおかげで、ナインくんは病気知らずなんだとか。

「ねー、ナインー」

『くーん』

 ナインくんも、うれしそうだ。

「ありがとうございました。鈴音さん。ナインくんも」

 カゼをうつしては、いけない。

「あとは、一人でできますから」

 ボクがいうと、鈴音さんは微笑んだ。

「大丈夫。ナインのゴハンも用意していますので、今日は一日ここにいますよ」

 キッチンに立って、鈴音さんがナインくん用の缶詰を開ける。

「カゼをうつしてしまったら、悪いので」

「いいのよ。今日は安静にして」

 鈴音さんは、ナインくんに缶詰をあげた。

 ナインくんは、お皿まで食べちゃいそうな勢いだ。

「でも」

 帰ってもらおうとしたら、ボクのお腹が鳴った。

「食欲が戻ったみたいですね。用意します」

 鈴音さんは、おかゆを温め始める。トワさんが作り置きしてくれたおかずから、消化によさそうなものを選んだ。あとは少量の、お味噌汁を作ってくれた。

「どうぞ」

 カゼひきにはもったいないくらいのごちそうが、食卓に並ぶ。
 
 鈴音さんも、自分の煮物を分けていた。

「いただきます」

 手を合わせて、お味噌汁から飲むことに。

「はあああ。これ、いいですね」

 あったかい。お味噌汁なんだから当然なんだけど、温まる。
 具の白菜も、柔らかい。

「具だくさんの料理なら、雑炊にしようかとも考えたんですけど。大家さんの作り置きが大量にあったので」

「ありがとうございます。おいしいです」

 続いて、お粥をいただく。
 おいしい。
 鈴音さんが、タマゴを落としてくれていた。
 それがまた、ありがたい。

「大根の煮物があったので、使わせていただきました」

「こちらも、いいですね」

 トワさんの味付けなので、間違いがなかった。

「子どもが食べないんだよねーと、トワさんはよくグチってます。ボクは大好物なんですけど」

「まだ子どもだから、しょうがないわよね」
 
 
 ビビはまだ、起きてこない。

 気疲れさせてしまったか。

「ケントさん。ビビちゃんが、気になっていますか?」
 
「そうですね。いつもは、ビビといっしょに食べるので」
 
 話をしていると、ビビが起きてきた。
 ゴハンの時間だね。

「待っててね。ビビ。ゴハンをあげるから」

 ボクは、立ち上がろうとする。

 しかしビビは、自分でお給餌マシンのボタンを押して、カリカリと刻みメザシを出す。

「いつもは、こんな感じじゃないんですけどね」

「普段は?」

「缶詰とオヤツを、ねだってきます。ついついあげちゃいますね」

 ビビのやつ、ボクに気を使っているのかな。

「ビビちゃんがいてくれなかったら、あたしはあなたの病気に気づかなかったかもしれません」

 カリカリをモグモグするビビを、鈴音さんは見つめていた。

「連絡をくれたの、ビビちゃんですよね?」
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