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第四章 オフ会のお誘い

第29話 二人だけで会話

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 ベルさんこと、そよぎ 鈴音りんねさんは、老犬を連れている。
 彼が、ナインくんだろう。
 元警察犬のドーベルマンというだけあって、貫禄がある。

 ベルさんの中の人は、顔の表情こそ重めだが、美人さんだ。この人を明るい感じにしたのが、ベルさんというイメージである。メガネを掛けていて、知的な印象だ。

 中と外で様子が変わらないトワさんとは、対照的だな。

 でも、魅力的な女性だ。
 
「やっぱり、あのときの人だったんですね」

「その節は、失礼しました」

「いえいえ。ボーっとしていたボクも悪かったので。ケガはありませんでしたか?」

「はい。問題はありません。では、こちらへ」
 
 に、撮影所の中へ案内される。

「あの、梵さん」

「鈴音で結構です。あたしも、ケントと呼んでいますので」

 女性に下の名前で呼ばれるのって、緊張するなぁ。
 トワさんなら学校の先輩だったので、慣れているけど。 

「どうぞ、ケントさん、ビビちゃん……」

 ボクたちは、和室に通された。
 
 部屋の中央に、コタツが置かれている。
 
「コタツがありますね」

 野生の本能なのか、コタツの魔力なのか。
 ビビがコタツを見た途端、ケージから抜け出す。ささっと、コタツの中へ。

「すいません。寒かったみたいですね」

「いえ。温めておいたので、それを察知したのかも」

 ナインくんも、コタツ布団に身体を預ける。

「お茶を淹れてきます」

「手伝いますよ」

「大丈夫です。すぐ済みますので」

 本当にすぐ、鈴音さんはお茶を持ってきた。
 
「ありがとうございます」

 外が寒かったので、温かいお茶が助かる。
 
 トワさんも、会場の主催も、まだ来ていない。

「あの、トワさんは?」

 お茶をもらいながら、向かいの鈴音さんに話しかける。

「ボクが早く来すぎたので、いいんですけど」

竹中たけなかさんは、菓子折りを買ってから、こちらに向かうそうです」

「しまった。すいません。気が利かなくて!」

 お邪魔するんだから、お土産を持参すべきだったよね。やってしまった。

「ご心配なく。トワさんも自分が食べたいから、買いに行ってらっしゃるそうなので」

「そうですか。そうおっしゃってもらえると、助かります」

 すしおくんは連れてくるけど、トワさんは今回、家族とは一旦別行動なのだとか。

「いいところですね、ここ」

「都市を丸ごと、リノベーションしたそうです」
  
 時代劇のロケ地や、コスプレ会場として活用しているらしい。
 外観こそ古い店舗でも、決済はタッチかスマホで済む。時代劇の撮影のときは、機材をすべて折りたたんで隠せるという優れモノだ。

 どうしてこういう話ばかりを、しているか。
 間が持たないからだ。

 女の人と、どうやって会話を繋げればいいんだ!

「家主は今、準備中なので。しばしお待ちを」

「はい」

 気まずいなあ。トワさん、早く来てくれないかな。

 ビビが、あぐらをかいているボクの足の間に入ってきた。

「おお、ビビ。人恋しくなっちゃったか?」

 ボクは、ビビを撫でる。

「ホントに懐いてますね。人の気持がわかるみたい」

「……どうなんでしょうねえ」

 以心伝心のアビリティを知られないように、ボクは話を合わせた。

「ゲーム世界のビビちゃんも、ケントさんの行動を読んでいるみたいに動くし。ケントさんをリードする場面も、よく見かけました」

「たまたまです。たまたま」

 うーん、否定できない。
 今まで、ビビに助けられることばかりだったからね。

「ナインも、あたしを助けてくれます。けれどビビちゃんは、ケントさんと一心同体みたいな感じですね」

「そういっていただけると、うれしいです」

 ゲームの会話になると、さっきまで塞ぎがちだった鈴音さんの表情が、明るくなった。

 鈴音さんが、ぐいっとお茶を飲む。

「すいません。仕事以外で人と話すことがなくて」

「ボクも、同僚や知り合い以外と話すのは、久しぶりです」

 ボクの友だちも、みんな忙しくなって、ゲームから離れてしまった。
 資産運用によるセミリタイアが普及しても、「やりたい仕事だからやめない」って人はまだ多い。

 フットワークの軽さは、独身の強みでもある。けど、さみしくもあった。

「あたしも似たようなものですね。だから、ゲームではキャラを変えているの」

 今の言い方、ちょっとベルさんっぽかったな。

「……うう、やっぱりリアルでベルになりきろうとしても、ムリでした。すぐに元に戻っちゃう」

「鈴音さんは、そのままでも素敵だと思います」

 ボクが言うと、鈴音さんは黙り込んでしまった。

「すいません、変なことをいいましたね!」

「いえいえ! そんなぁあああああ!」

 鈴音さんが、手をバタバタさせる。その拍子に、お茶をこぼしてしまった。

 驚異的な反射神経で、ビビがお茶を避ける。

 だが、ボクにお茶がかかった。

「すいませんすいません!」

 自分でティッシュ箱を掴み、急いでこぼれたお茶を拭き取る。

「こんにちはー、あ」

 トワさんとすしおくんが、玄関にいた。

「準備できましたぞ、鈴音、氏……」

 向かいからは、マッシュルームカットの中年男性が。

「ごゆっくり」

 ふたりとも、スッと背を向ける。

「いやいや誤解ですって!」
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