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第三章 大家さんと三毛猫が、参戦

第16話 アビリティ 【以心伝心】

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『おかえりニャー』

 さっそくビビが、ボクに声をかけてくる。

『他の女の、カレーの匂いがするニャー』

「まあまあ。大家さんだからね」

 ビビも『冗談ニャー』と笑う。
 
『大家さん、ログイン、うまくいったのかニャー?』

「大丈夫だった」

 大型アップデートがあったため、ログインが困難になっていただけだと告げる。

「アビリティのことかニャー?」

 よく知ってるなあ、ビビは。さっき説明があったばかりなのに。

「ボクたち初期プレイヤーは、はじめから備わっているそうだよ」

 選択する自由はなくないけど、戦闘経験からかなり有益なアビリティが手に入るらしい。

「ビビは、アビリティは気になる?」

『ご主人のお役に立てるか、楽しみニャー』

「ビビはいてくれるだけで、癒やされているよ」

『ありがたいニャー』

 さっそく、二人で確認をし合う。

『ケントご主人は、【最強のふたり】って書いてあるニャー』

 ペットにバフ効果をもたらす、アビリティだ。ボクが強くなると、ビビも相乗効果で強くなるみたい。

 これは、ボクも気になっていた。もらえてよかったよ。
 
「ビビは……【以心伝心】?」

 飼い主と心を通わせることができる、だって。
 
 このアビリティがあるから、ビビとも会話できるのかな?

「でも、アビリティの選択項目にはなかったなあ」

 トワさんと遊んだときは、そんな名前のアビリティは存在していない。
 
 こんな最高のアビリティなら、飼い主はみんなこぞって選ぶはずだけど。

『運営でも管理しきれていない、アビリティなのかもニャー』

 そのようなアビリティなんて、あるのかな? 
 でも大量のバグがあるゲームだし、アクシデントととは隣り合わせなのかもね。

「ビビがバグ取りをしたことで、ボクと意思疎通ができるようになった可能性は高いけど」
 
『まだわからないニャー』

 これは、調査が必要かもね。 

 時間だから、大家さんに会いに行こう。

『大家さんは、なんという名前でプレイしているのかニャー?』

「たしか、【アントワーヌ】だって」

 自分の名前の「トワ」から取って、「アントワーヌ」にしたらしい。「トワだけだと他の人も使ってそうだから、長い名前にした」とのこと。

 ボクはありふれた名前だから、目立たないように自分の名前にしたんだけど。

「こんにちはー」

「あら、いらっしゃーい」

 トワさんことアントワーヌさんは、見事に露店を開いていた。露天レベルは「一」だ。

 鍛冶屋などの生産職は、レベルが上がると店の規模も上がる。ある程度の大きさになると、NPCや他のプレイヤーに店番を任せることだってできる。

「どうして、アントワーヌにしたんです?」

「アントニオの女読み」

「えっと……ああ、アントニオ・バンデラスですか?」

 3Dアニメ『長ぐつをはいたネコ』の役者が、アントニオ・バンデラスだったよなー。

「違うよ。『じゃりン子チエ』」

 あーっ。あのネコかー。 
 
「それはそうと、トワさん。商業ギルドに行けたんですね?」

「うん。いろんな人から話を聞いて、露天の出し方も教わったー」
 
 さすがトワさん、コミュ力が高い。

「アントワーヌは長いから、ケントくんは普通にトワでいいよー」

「ではトワさん、必要なものはありますか?」

「これだけ、ほしいんだよー」
 
 トワさんが、リストを見せてくれた。

 魔物の牙や爪、鉄鉱石か。【朱砂】などの宝石や、【植物の角】といった変わったものまで必要みたい。
 
「結構な量が、求められるんですね」

「生産職って戦わなくてもいいけど、要求されるものが多いんだよねー」

 生産職は戦わなくても戦闘経験値が貯まる代わりに、レベルアップには大量の生産が必要になる。

「魔獣の【爪】と【牙】なら、これだけありますよ」

 ボクは大量に、爪と牙を持っていた。アイテムボックスを埋め尽くすほど。ギルドに提供してもこれ以上必要ないと言われて、インベントリ内を圧迫していたのである。

「ありがとー助かるよー」

 さっそくトワさんは、鍛冶を始めた。魔獣の爪では、ナイフを。魔獣の牙では、矢を作った。できあがった品を、店に並べる。

 どうにかボクの所持品で、トワさんのレベルが上ったみたい。

 ボクも素材が売れて、ホクホクだ。

 トワさんはアビリティで、三割引きで取引できる。「商業ギルドが、仕入れ値の一部を負担してくれる」という設定のようだ。

「うんとレベルを上げて、キミたちに見合う武器も作れるようになるからねー」

「ありがとうございます。防具は一応、一式揃えました」

 トワさんに、胸当てを見せる。ビビの装備している、革鎧なども。

 ボクの装備している胸当ては、ダンジョンで手に入れたものだ。

「胸当ては素材がないと強化できないけど、ビビちゃんのはすぐに作れるよ。魔獣の【革】ってある?」
 
「あります。今出しますね」

 ボクはトワさんに、魔獣の革を渡す。

 ものの数秒で、鍛冶が完成した。

 ビビが、ボクの腰辺りをチョンチョンとする。

「あっ。強化素材ならあります!」

 ボクは、クモの糸をトワさんに渡す。

 これを教えたかったんだよね、ビビ?

「ビビちゃん、よく気がついたねー? それにしてもケントくんは、ビビちゃんの言いたいことがわかるのかなー?」
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