最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~

椎名 富比路

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第一章 飼い猫とVRMMOをしていたら、うちのコがしゃべりだした

第3話 ピンチのトップランカーを助けるネコ

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 その女性は長い髪を振り乱しながら、ペットのドーベルマンコボルトを草むらから引っ張り出そうとしていた。

 赤いレザージャケットを羽織り、白のミニスカートと黒のレギンスを穿いている。見た目は美少女だが、落ち着いた雰囲気を醸し出す。

 ドーベルマンはビビと同じ二足歩行で、ニンジャの装束を着ていた。

「ビビは、この人を助けようとしていたんだね」

 ボクの言葉がわかるのか、ビビはうなずく。 
 
「助けてもらえるかしら? このコの足が、見えない壁にハマっちゃって」
 
 草むらは変な区切りがあって、モザイクが掛かっている。モザイクの向こう側は暗くて、底なし沼みたいになっている。

「これは、バグですね?」

「そうなの。実は運営さんから、バグ調整を頼まれていたんだけど。見事にあたしが埋まってしまって」

 助けを呼んだが、まだ運営は来ないという。

「どうしたんですかね?」

「実はこのゲームって、バグだらけらしくって。運営さんもがんばってるんだけど、どうしても対応が遅れるみたい」

 やっぱり。
 運営会社って、新進気鋭のインディーメーカーだもんな。
 
 PRFペット・ラン・ファンタジーの開発会社は、元大型VRMMOのメーカーの社員が立ち上げたという。新型感染症の蔓延でペットを連れて外を歩けなくなり、「ならペットを仮想空間に連れていこう」という発想から、このゲームが生まれた。
 ちなみに、開発者さんもネコを飼っているらしい。

 今にもコボルドの足は、バグの中に引き込まれていきそうだ。

 興味津々で、ビビはバグ地点に、手というか前足を伸ばす。
 ちなみに、ビビの手はネコの前足のままだ。

「ビビ? 近づくと危ないよっ」

 ボクは、ビビを引き留めようとする。

 しかしビビは、ボクの静止を振り切った。

「くそ、こんなときに!?」

 モンスターが、大量に湧いてくる。ゴブリンやスライムだけだが、数がかなり多い。とても序盤とは思えないほどの群れだ。
 どうやら、本格的なバグのようである。

「このこの!」

 ボクは、みんなを守るために【カバーリング】を。

 ドン、と後ろから音がして、先頭のゴブリンたちが吹っ飛んだ。

 何事かと思って、ボクは振り返る。

 後ろにいた女性が、銀色の銃を構えていた。この女性は、【ガンナー】らしい。中衛の攻撃職だ。

「敵の攻撃は、お願い。あたしが随時、撃ち続けるわ」

「お願いします」

 ドーベルマンコボルドの足に、ビビが前足を伸ばした。

 パワワーッ! と、モザイク型のバグが光を放つ。

「ビビ、大丈夫!?」

 スポンッとあっけなく、コボルドの足は抜けた。

「わわっ」

 飼い主の女性が、倒れそうになる。

「おっと」

 女性の背中を、受け止めた。

「ありがとう」

「いえいえ。それより、モンスターは!?」

 ボクはハッとなって、盾を構え直す。そういえば、戦闘中だったよな。

 しかし、辺りには誰もいない。あれだけいたモンスターが、きれいサッパリいなくなっていた。

 どうやら、全滅の事態は免れたらしい。
 あのまま無防備に攻撃されていたら、いくら序盤といえどゲームオーバーになっていただろう。

「ケガは?」

 ボクは、チューブ型ポーションを女性に差し出す。

 女性はポーションを受け取らず、首を振った。

「なんともないわ。このコも無事みたい」

 ドーベルマンコボルドも、『へいきだよ』って顔文字を出している。このコの意思表示は顔文字なんだな。

「助けてくれてありがとう。あたしは『ベル』よ。このコは『ナイン』。警察犬を指すK‐9ケー・ナインからとったの」

 ベルさんの職業は【ガンナー】で、ドーベルマンコボルドは【ニンジャ】だという。

「ケントです。うちのコの名前は、ビビです」

「覚えた。ケントに、ビビちゃんね。よかったらフレンド登録、お願いできないかしら?」

「ぜひ。でも、よろしいのですか?」

「なにが?」

「ベルさん、トップランカーですよね?」

 MMORPGで【ガンナー】の【ベル】って言えば、どのゲームでも常にトップを走る女性プレイヤーだ。

 このゲームでも、ランクトップを独走している。

「テスト版からのプレイヤーだし。そうはいうけど、このゲームって競うゲームじゃないでしょ?」

「それはそうですね」

 たしかにPRFは、最速攻略したり最強装備を集めたりするゲームじゃない。

「だから、構えなくていいわよ。気軽にベルと呼んでね」

「ではベルさん、お願いします」

 ボクとベルさんは、冒険者カードをかざし合う。
 これで、フレンドの登録が可能なのだ。

「じゃあ、ギルドに戻って報告しましょ」

「はい。ベルさん」

 ベルさんとナインくんを伴って、街へ戻る。
 
「ナインくんは、警察犬なんですか?」

「元、ね。足をケガしちゃって引退したの」

 老犬過ぎて、トレーナーとしても働けず、警察は引き取り手を探していた。
 そこで、ベルさんが名乗り出たという。

「ダイブ式のVRMMOなら、ナインも実世界で激しい動きをしなくていいでしょ? 脳波コントロールで、動きを制御できるから」

「はい。すばらしいアイデアだと思います」

「ありがとう。ナインも喜んでるわ」

 ナインくんが自分の名前を呼ばれて、「ワン」と吠える。

「ビビちゃん、ありがとうねー」

 ベルさんが、ビビを撫でた。

 ノドを触ってもらい、ビビもうれしそう。ベルさんに、すこぶる懐いている。

「サビネコちゃんなのね?」

「はい。保護猫なんですけど、サビネコは不人気だったそうで」

「ネコに人気も不人気もないって思うわね」

 ベルさんが、頬をふくらませた。

「それでも、ケントと出会えたからよかったわね」

 ビビがベルさんの言葉に反応して、「にゃあ」と鳴く。
 
「ボクも、毎日楽しいです」

 ボクが頭を撫でると、ビビも「なあー」と鳴く……と思っていた。

『みんなが無事でよかったニャー』

 え、ビビ、今なんて言った!?
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