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第一章 どうしようもない魔道士に、JKが舞い降りた

DTの名はロバちゃん

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 ドラゴンのブレスを斬った冒険者なんて、歴史上存在すらしない。それこそ、物語の世界でしか。

 伝説に聞いたことがある。
 刀の凄さは切れ味でも、鋭さでもない。熟練者が振れば、魔力で構成された光の刃を撃ち出せることにある、と。

 ヒナマルは、それをやってのけたのだ。

「んっとー。アンタは、元は悪い子じゃないみたいだ、ね!」

 再度、JKは刀を振り下ろす。

 桜色に光るカマイタチ状の衝撃波が、レッドドラゴンの身体を突き抜けた。

「死んだ?」
「ううん。悪い心だけを斬ったんだって」

 さっきブレスを弾いた技は、衝撃波じゃないか。
 刀から放出された衝撃波で、ドラゴンを倒すなんて。
 しかも、殺さずに。

 見た目は単なる町娘なのに。

 この娘はどこまで、ポテンシャルが高いのだろう?

 レッドドラゴンが、起き上がった。また戦闘になるのか?
 ロバートは身構えた。
 が、どうも様子がおかしい。

「おお、素材くれるの?」

 JKが、なにも躊躇せずにドラゴンへと歩み寄る。

「おい、危ないぞ!」

 いつでも魔法を打ち出せるように、ロバートは手をかざす。

「心配ないって。どうもね、シッポを分けてくれるんだって」

 とんでもないことを、JKは言い出した。

 しかし、レッドドラゴンは本当に、シッポを少しだけ切って少女に分け与えている。

「わーい、ありがとー」

 ドラゴンからシッポをもらって、少女は嬉しがった。

「シッポを? どうして?」
「なんかね、『ユウコウノアカシ』なんだって」

 友好の証だと? ドラゴンと人間が?

 なんでも、このドラゴンは何者かに操られていたらしく、それを助けてくれて例を言いたいそうだ。

 信じられない。だが、目の前で起きていることは紛れもない事実なのだ。

 シッポをあげて満足したのか、レッドドラゴンは飛び去った。

「大丈夫かな? 痛くないかな?」
「問題ない」

 ドラゴンのシッポはまた再生する。だからあげたのだと説明する。
 JKは、ホッと胸をなでおろした。

「えっと、ヒガシマルさんだっけ?」
「ヒナマルでいいよ。ヒガシマル・ヒナコでヒナマル」 

 名字だけだと、『おしょう油屋さんみたい』とからかわれてきたらしい。

「じゃあヒナマルで。ヒナマルは、やけに手慣れているね?」
 
 ドラゴンのシッポを、ヒナマルというJKは丁寧に切り分ける。
 素人の手際ではない。
 これだけ上手にさばけるのに、並の冒険者なら一〇年はかかる。

「実家がお寿司屋さんだから、包丁さばきには自信があるんだー」


「寿司の職人、だって!?」


 王族しか食べられない、高級料理じゃないか。
 生の魚を食べられるのは、地位の高い人だけだ。
 鮮度が命で、貴族といえどめったに食べられるものではない。

 もしかして、自分はとんでもないお嬢様を呼び出してしまったのでは?

「え、何?」
 ヒナマルが手を止める。

「もしかして、キミはお貴族様?」

「違う! 違うって! 回転寿司チェーンの雇われ店長だし! そこまで億万長者ってわけじゃないよ! そりゃまあ、サラリーマンよりはお金もらってるけど」

 頭をブンブンと横に振りながら、ヒナマルがお嬢様説を否定した。

 なるほど、寿司屋の娘か。
『おしょう油屋』という単語に過剰反応するのも、うなずける。

「あっ、そうだ。ロバちゃんはどれが欲しい? おっきいのとちっちゃいの」

 ドラゴンの身を、ヒナマルはロバートに差し出す。

「ロバちゃん?」

 イントネーションも、動物の「ロバ」ではない。
「ロ」ではなく、「バ」の方にアクセントがつく。
「おばちゃん」のイントネーションと同じだ。

「だってロバートって名前でしょ? だから、ロバちゃん」
「いくらなんでも、ロバちゃんって」

 あまりいい響きではなかった。

 無理やり召喚してしまった引け目もあって、強く拒絶できない。

「いらないよ。好きなだけ持っていって。迷惑料だ」
「いいの? 悪いよ」
「キミを無理やりこの世界に連れてきた、ボクが悪いんだ。取っておいてよ」

 レッドドラゴンの素材は惜しいが、倒したのはヒナマルだ。
 彼女が全部持って帰るのが、道理である。

「でもあげる。あの村を守ったんでしょ?」

 山のすぐ下にある村を、ヒナマルは指差す。

「守ったのはキミだよ、ヒナマル。ありがとう」
「ううん。ドラゴンを見つけたのはロバちゃんじゃん。ロバちゃんが感謝されなくちゃね」

 優しい子である。

 こんな人が自分の配偶者だったら……なんて、みっともない想像をしてしまう。
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